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111話
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薔薇のアップルパイを持って街の中を抜けると更に華やかで美しい花園が広がっていた。
ここは見かけだけが美しすぎて、数多の匂いで鼻が変になりそうだ。
「ここらへんの花って採取できないかしら。」
「そんなことしたらここの管理者に怒られるだけですまないわよ。」
花を愛でる美しい心というよりは薬に変換したいというマアヤの精神にはあっぱれだよ
呆れながら花園を抜けようとするその瞬間
ガキンッ!
とっさの判断でハルカゼを引き抜き正面からの衝撃を防ぐとふわりと茶色のマントが風になびいた。
それは草花で満ちた街によく似合う緑色のウェーブかかった長髪と空を写し取った目をしてたからすぐに理解した。
「ナザンカ…。」
「んだよ…お前だったのかよ。
何者かが領主様の私有地に不法侵入してるから追い払えって命令されたから来たってのに。」
まさかの領主の私有地だった
どうりで街中よりもきれいに整備された花園だと思ったよ。
隣にいたマアヤはナザンカを警戒していたけど、互いに剣を収めたのを見て敵では無いことを理解したようだ。
「そうだ…せっかく同じ時期に同じ場所にいるんだからと思ってこれを渡そうとしてたんだったわ。」
そう言って紙ナプキンに包まれたそれを片手に見せつけた。
スンスンと匂いを嗅いで目を見開いた様子からして中身の正体に気がついたのか、犬じゃん。
「アプレの実…まさか昨日もらったあれをか?」
「正解、あなたの好物をスイーツにしてみたの。」
右手にそれを持たせるとすぐに腰の袋にしまってありがとうと言ってきた。
目的は果たしたしもう帰るとしよう。ここが私有地なら出ていったほうが良さそうだし
「じゃあ帰るわね」
「ちょっと待って…あそこに咲いてる花を花びら一枚でも良いから採取したい。」
いいかげんにしなさいよこの記憶喪失め
首根っこを掴んで引きずるとナザンカに私達の不法侵入は適当にごまかしてもらいたいとお願いしてその場を離れることにした。
「お願い…せっかくの毒花なの。この花から一滴のエキスを抽出して根と煮込むと良い薬に…。」
なんてものを作ろうとしてるんだこの子は⁉
記憶を失った分この世界の薬学を嗜むようになりおって。
「あのねぇ…人んちの花を取るとかやめてほしいんだけど。
今なんて言った?」
とうとう私の耳はおかしくなってしまったのだろうか。
平然と毒花と口にしたマアヤに詰め寄れば自分はなにかやばいことを言ったかみたいな感じで首を傾げているからため息をつきたくなる。
するとマアヤの平然とした表情で始まった毒花の説明を聞くとかなり恐ろしい真実を知ることになった。
「ここに咲いてる草花は全部毒の作用を持ってる。水を与える、熱を加えるなんて条件がそろうと毒を発するものだったり傷をつけると勢いよく毒が飛び出したりなんて面白いものまで…」
「ちょッ…ちょっと待ちなさい!」
いくらなんでも多すぎだろう
ここにある草花が全部毒を持っている…それって私達が危ないのではないか。
刺激を与える前にここから出ていったほうが良いのではないか。
慌てる私と冷静なマアヤに加えて先程から顔面真っ青なナザンカはバッと振り向き毒花の狂い咲く花壇の中を駆け抜けて行った。
「なんて危険なことを…まさかね。」
毒花の中を駆け抜く勇気に驚きながらも親指と人差し指で輪っかを作りそこからナザンカの後ろ姿を覗くと、その詳細が確認できた。
ナザンカ・フォレシュタイン
現在毒耐性発動中
やっぱり毒耐性を持っていたんだ。
この敷地内にいる中でこの毒花のエリアを何度も通ったおかげで耐性がついたのか、それともこの街に来る前から持っていたスキルなのか…わからないけど少しだけ安心した。
私は状態異常にならない体になっているけどマアヤはわからない
「マアヤ、毒耐性は?」
「ある。あとは昨日暇だったから解毒剤を調合したやつが…」
暇なら私のりんご収穫のお手伝いしてほしかったなってそんなこと言ってる暇はないよな。
顔を合わせて頷くと花壇を横切ってナザンカの後ろ姿を追いかけた。
というか足速いなアイツ
無我夢中に追いかけて毒花の花壇を抜けた先に見つけたのは円状に花壇に囲まれてぽつんと建つ塔があった。
これがシロさんが言っていた噂に出ていた塔だとするなら…ナザンカが通ってる塔だとしたら、一体何があるのだろうか。
「ナザンカ…ここは一体何なの?」
塔の前で立つ彼の後ろ姿に話しかければゆっくりと塔に手を当ててため息を着いていた。
「毒花…か
忌み嫌われてるはずなのに毒から遠い場所が塔の上、一体俺は誰を敵対視すれば良いんだ。」
笑っているはずなのに苦しんでるように見えるのは気の所為ではない。
塔の上にあるったった一つの窓からして誰かがそこにいるのだろうか。
ふわりと香る花の匂いに顔を顰めてしまう
「カナには言ったな。もし窓から見える景色だけがすべての人がいたとして、自由を求めてほしいときはなんて声をかければ良いんだって…この塔の上にはそいつがいるんだ。」
そういえばそんなことがあったような気がするな。
やっぱりこの塔の上には誰かがいるのだろう。
「よし…登ってみようか。」
レンガ造りの細長い塔の壁の凹凸に上手く手を引っ掛けた。
後ろからナザンカが驚いてちょっと待てだのやめろとか言っているくせに止めはしない。
マアヤが止めているのかはわからないけど都合は良い
塔をよじ登って窓辺に手を引っ掛けると勢いよく体を引き寄せて内部に侵入した。
私は夢でも見ているのだろうか
ふわりと香るのは地上にあった毒花とは違う優しい花の香り
なびく長髪は流れる水のようで柔らかそうな白い肌にりんごのような赤い唇がよく似合う。
これが毒花の牢獄に閉じ込められた者の正体だったのか。
なんて美しい花の少女なのだろう
ここは見かけだけが美しすぎて、数多の匂いで鼻が変になりそうだ。
「ここらへんの花って採取できないかしら。」
「そんなことしたらここの管理者に怒られるだけですまないわよ。」
花を愛でる美しい心というよりは薬に変換したいというマアヤの精神にはあっぱれだよ
呆れながら花園を抜けようとするその瞬間
ガキンッ!
とっさの判断でハルカゼを引き抜き正面からの衝撃を防ぐとふわりと茶色のマントが風になびいた。
それは草花で満ちた街によく似合う緑色のウェーブかかった長髪と空を写し取った目をしてたからすぐに理解した。
「ナザンカ…。」
「んだよ…お前だったのかよ。
何者かが領主様の私有地に不法侵入してるから追い払えって命令されたから来たってのに。」
まさかの領主の私有地だった
どうりで街中よりもきれいに整備された花園だと思ったよ。
隣にいたマアヤはナザンカを警戒していたけど、互いに剣を収めたのを見て敵では無いことを理解したようだ。
「そうだ…せっかく同じ時期に同じ場所にいるんだからと思ってこれを渡そうとしてたんだったわ。」
そう言って紙ナプキンに包まれたそれを片手に見せつけた。
スンスンと匂いを嗅いで目を見開いた様子からして中身の正体に気がついたのか、犬じゃん。
「アプレの実…まさか昨日もらったあれをか?」
「正解、あなたの好物をスイーツにしてみたの。」
右手にそれを持たせるとすぐに腰の袋にしまってありがとうと言ってきた。
目的は果たしたしもう帰るとしよう。ここが私有地なら出ていったほうが良さそうだし
「じゃあ帰るわね」
「ちょっと待って…あそこに咲いてる花を花びら一枚でも良いから採取したい。」
いいかげんにしなさいよこの記憶喪失め
首根っこを掴んで引きずるとナザンカに私達の不法侵入は適当にごまかしてもらいたいとお願いしてその場を離れることにした。
「お願い…せっかくの毒花なの。この花から一滴のエキスを抽出して根と煮込むと良い薬に…。」
なんてものを作ろうとしてるんだこの子は⁉
記憶を失った分この世界の薬学を嗜むようになりおって。
「あのねぇ…人んちの花を取るとかやめてほしいんだけど。
今なんて言った?」
とうとう私の耳はおかしくなってしまったのだろうか。
平然と毒花と口にしたマアヤに詰め寄れば自分はなにかやばいことを言ったかみたいな感じで首を傾げているからため息をつきたくなる。
するとマアヤの平然とした表情で始まった毒花の説明を聞くとかなり恐ろしい真実を知ることになった。
「ここに咲いてる草花は全部毒の作用を持ってる。水を与える、熱を加えるなんて条件がそろうと毒を発するものだったり傷をつけると勢いよく毒が飛び出したりなんて面白いものまで…」
「ちょッ…ちょっと待ちなさい!」
いくらなんでも多すぎだろう
ここにある草花が全部毒を持っている…それって私達が危ないのではないか。
刺激を与える前にここから出ていったほうが良いのではないか。
慌てる私と冷静なマアヤに加えて先程から顔面真っ青なナザンカはバッと振り向き毒花の狂い咲く花壇の中を駆け抜けて行った。
「なんて危険なことを…まさかね。」
毒花の中を駆け抜く勇気に驚きながらも親指と人差し指で輪っかを作りそこからナザンカの後ろ姿を覗くと、その詳細が確認できた。
ナザンカ・フォレシュタイン
現在毒耐性発動中
やっぱり毒耐性を持っていたんだ。
この敷地内にいる中でこの毒花のエリアを何度も通ったおかげで耐性がついたのか、それともこの街に来る前から持っていたスキルなのか…わからないけど少しだけ安心した。
私は状態異常にならない体になっているけどマアヤはわからない
「マアヤ、毒耐性は?」
「ある。あとは昨日暇だったから解毒剤を調合したやつが…」
暇なら私のりんご収穫のお手伝いしてほしかったなってそんなこと言ってる暇はないよな。
顔を合わせて頷くと花壇を横切ってナザンカの後ろ姿を追いかけた。
というか足速いなアイツ
無我夢中に追いかけて毒花の花壇を抜けた先に見つけたのは円状に花壇に囲まれてぽつんと建つ塔があった。
これがシロさんが言っていた噂に出ていた塔だとするなら…ナザンカが通ってる塔だとしたら、一体何があるのだろうか。
「ナザンカ…ここは一体何なの?」
塔の前で立つ彼の後ろ姿に話しかければゆっくりと塔に手を当ててため息を着いていた。
「毒花…か
忌み嫌われてるはずなのに毒から遠い場所が塔の上、一体俺は誰を敵対視すれば良いんだ。」
笑っているはずなのに苦しんでるように見えるのは気の所為ではない。
塔の上にあるったった一つの窓からして誰かがそこにいるのだろうか。
ふわりと香る花の匂いに顔を顰めてしまう
「カナには言ったな。もし窓から見える景色だけがすべての人がいたとして、自由を求めてほしいときはなんて声をかければ良いんだって…この塔の上にはそいつがいるんだ。」
そういえばそんなことがあったような気がするな。
やっぱりこの塔の上には誰かがいるのだろう。
「よし…登ってみようか。」
レンガ造りの細長い塔の壁の凹凸に上手く手を引っ掛けた。
後ろからナザンカが驚いてちょっと待てだのやめろとか言っているくせに止めはしない。
マアヤが止めているのかはわからないけど都合は良い
塔をよじ登って窓辺に手を引っ掛けると勢いよく体を引き寄せて内部に侵入した。
私は夢でも見ているのだろうか
ふわりと香るのは地上にあった毒花とは違う優しい花の香り
なびく長髪は流れる水のようで柔らかそうな白い肌にりんごのような赤い唇がよく似合う。
これが毒花の牢獄に閉じ込められた者の正体だったのか。
なんて美しい花の少女なのだろう
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