見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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109話

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次の日の朝、宿のキッチンを借りて朝食を作れば皆が集まってきてそれぞれのタイミングで席について合掌をする。

今朝はいつもの朝食にうさぎ型に切ったリンゴを添えてみた。

予想通りマアヤもシロさんも朝から可愛いだの労力の無駄遣いなど言われたからシロさんの分だけ取り上げた。

騒ぎながらも食事をしてそそくさと殻になった食器を片付けると無限収納アイテムボックスからリンゴやら食材を取り出した。


「あれ…?まだなにか作るの?」


私が未だにキッチンに残って何かをしようとしているのに気づいたマアヤは横から覗き込んできた。


「昨日もらったリンゴがまだたくさんあるからね。

いくらアイテムボックスが時間停止の機能が合ったとしてもやっぱり使いきってしまいたい気持ちがあるんだよね。」


昨日の農園で大量にもらったリンゴはシロさんやマアヤにも分け与えた。

リンゴは食べたら健康に良い事は知っていたらしく、薬の材料として使うとかシロさんが行言っていたような気がする。


「これから探しに行く人が大のリンゴ好きでさ、せっかくだしなにか作ってあげようかなって思ったんだ。」


そう言ってテキパキとパイ生地を作っていたらマアヤはハッとして私の顔を見てきた。

リンゴとパイ生地を見てもしかしてと呟くと私がこれから作ろうとしているものを当ててきた。


「もしかして、薔薇の形のアプレの実のパイを作ろうとしてるの?」

「正解~




……あれ?

マアヤもしかして記憶が戻ってきてるんじゃない?」


今気づいた

だって今のマアヤは記憶喪失であの時奴から記憶を全て奪われてしまったはずなんだ。

私がツキカゲに頼んで薔薇のアップルパイを渡した記憶だって奪われて無いはずなのに、これはつまり記憶が少しずつ戻っていることになる。

私は手についた粉を払い落としてマアヤの肩を掴んだ。


「マアヤ、今の時点で覚えていることは無い⁉」

「何よ急に…ある程度の記憶は取り戻しつつあるわよ。

例えば前までいた世界の常識は思い出そうとしたらある程度はスラスラと口に出せる程にはね。」


そこまで記憶が戻っているということは日に日に奴の記憶抹消の魔術が解れて来ていることになる。

おそらく奴の死亡が理由だろう、死んだことにより術が自動的に解除されて今では体に染み付いた常識がスラスラと口にできることになる。

口調に毒が混じっているのは日頃から口調が荒かった時代があるということなのか。

それとも警戒している人物には丁寧に接してなれた相手には心をひらいているからこそのあの口調なのか。

よくわからないけど取り戻した記憶が増えていくのは良いことだろうな。

だからニッコリと笑っていつしか全ての記憶を取り戻した時、彼女の好きな生き方を選ばせてあげよう。

今はその手助けを私達がするの


「でもね、どうしても前の世界にいた人間については思い出せないの。

自分の家族も、友達もわからない…そこから考えられるのは思い出すことに相当な時間がかかるのか、気力が必要なのか






それとも思い出すことを拒んでいるのか。」


マアヤが立てた説は納得するには十分なくらいで一瞬思考が止まった。

彼女が記憶を失う前、聖女として多くの期待を受けて重すぎる責任を背負っていたことを思い出したくないと何処かで思っているのかも知れない。

記憶を失う直前に抱え込んでいたストレスは他人である私の創造を遥かに超えるに決まっている。

でも、きっと彼女は思い出したくない記憶をそのままにするのを嫌がるだろう。


「もし思い出すことを拒むことで今の私を保つことができるのならそのままが良いんだと思う。

だってこの生活が板についてきたのに記憶を取り戻してしまったら私はここにいられなくなるかも知れないから。」


彼女は勘付いているのかも知れない

その時見せた複雑な表情を混ぜ込んだ笑みは脳裏に焼き付いた。

でもいつしか彼女は事実に触れてその記憶を思い出さなければならないんだ。


「…記憶を思い出すのも拒むのもマアヤが決めたことでその後に何をしたいのかは私やツキカゲ、シロさんが決めて良いことじゃない。

受け入れた上で何をしたいのかはマアヤが決めなよ。その結果に私は従うだけだから。」


たとえ彼女と私が敵対同士になったとしても私は彼女を一発も殴ることは出来ないと思う。

それはきっと、私の中で彼女が変貌する想像が出来ないからだと思う。

私とは違う真っ白で眩しい光の彼女と何処までも続く黒くて暗い闇の私、互いの使える魔法は全くの真逆だけど彼女の抱える闇は何よりも深くてもがくことさえも苦しい。

対して私は人に恵まれて太陽の光を浴びながら笑って照らされた道を歩く。

でも、彼女の手をとることができるのなら






薔薇のアップルパイ、一緒につくろう!」


今は目の前に彼女がいる、太陽の光に照らされて彼女の姿を目視できる

たとえ彼女の心まで干渉することが出来なくても目の前に手があるのなら私の手をつなぎ合わせて私のもとに引き寄せてあげよう。

今だけでも、可能な限り続くように


「…うん、作って食べたいな。」


この少しだけ光を見つけた彼女の笑顔を見続けるためにも私が少し頑張ればいいだけだよ。

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