見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

文字の大きさ
上 下
106 / 171

104話

しおりを挟む
私はこのワカメ頭ことナザンカという男に謝らなければならない事があったのだ。

それはトーマス帝国での事、彼の剣の手入れが隅々までよくできている事を高く評価したら、良い武器屋を紹介してやるからまた会おうぜと約束しておきながらも私は約束の日にトーマス帝国から一国の聖女様を連れて逃亡したのだ。


「トーマス帝国では変な別れの仕方をしたわね…というかあの時は約束の日に会えなくてごめんなさい。」

「あの時は何かあったんだと思って焦ったな…見たところお前も旅をしてるのか?」


ナザンカって意外と良い奴なのよね、感心するわ。

トーマス帝国から遠く離れたこの街で奇跡的な再会を果たすとかどういうことだろうか。


「こんなところでたまたま会うなんて…もしかして追ってきた?」

「なわけないだろ…俺は普通に一人旅をしてこの街に来ただけだ。

ちょっと面白そうなのを見つけてな」


不敵な笑みを浮かべている彼の横顔が妙に色気があってはらたつなコイツ。

ツキカゲのほうが可愛げもあるしイケメンだもん


「そうだ、ナザンカが見つけた面白そうなのってなに?」

「はっ…俺は面白いものは独り占めする質なんだ。悪いが教えられねえな」


だったらそんな笑みを浮かべながら言わないでほしいな。

上目遣いで彼を睨みつけてから適当にクエスト用紙を掲示板から剥がすと受付嬢さんに提出した。


「アプレの実の収穫お手伝いですね!

では早速こちらの果樹園に向かってください。」


即日手伝いに行けってこのギルドどうなってるんだ

とりあえずギルドカードを見せればお手伝いさんだと農家さんが認識するから収穫の仕方とかを教わってもらえと言われてギルドを出た。


果樹園に向かう途中に背負籠とか軍手を買ったほうが良いだろうか。

確か以前テントを立てるときに怪我しないためだけに軍手を買った気がする。

ふとそんなことを思い出してアイテムボックスを確認して軍手を取り出すと、ぴったりサイズのそれを手にはめて握ったり開いたりを繰り返した。


「何だその手袋は?不思議な素材で出来てるのかよ?」


当然のように私の隣に立って軍手袋を引っ張ったり指で感触を確かめる男に小さく悲鳴を上げた。

なぜコイツはいつも私の後ろに回るんだよ


「というかなんでついてきたの!?」

「勘違いするな。俺はアプレの実を買いに行くだけだ。」


つまり農園まで一緒に行こうぜって事かよ紛らわしいな。

傍から見れば私が勝手にぷりぷりと怒っているように見えてもおかしくはないこの状況

一度冷静になって彼に対して敵対心とか嫌悪感を拭い捨ててもありかもしれない。

しかし…


「そういえばアプレの実っつうのは高い位置に実を作るんだ。

お前みたいなチビに出来るとは思えねぇな。」

「なんですって…?

やっぱりあんたを一度細切れにしないと気が済まないわ!」


やっぱりこいつは嫌いだ

初めてであった時から鼻に着くようなその余裕綽々といった表情

更には皮肉やらなんやら言う中で良い事を言ったことの無い口

そしてそのゆらゆらと揺れる緑色の長髪


全部が腹立つ要素になる


ナザンカはヘラヘラと笑いながら私の打撃を受け流して前に進む

こんな時に限ってこいつは高い運動神経を見せつけるから更に腹立つ。


「おっと…じゃれつくのはその辺にして仕事をした方がいいと思うぞ。」

「誰がじゃれついてるって…?」


最近こいつに対する恐怖心よりも力をつけて強くなった分、彼の煽りに意識がいくようになってツキカゲがこいつに対してイライラしていたのがわかってきた気がする。

でも彼の言う通り正面に見えるのは可愛らしいアプレの実のイラストが描いてある看板と広い農園が柵に囲まれていた。

入り口近くで休憩する農家の老夫婦に挨拶をすると、待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべていた。


「男の人もいるのかい。助かったねぇ」

「えっ…俺は違い……ません。」


こいつおばあさんを見るなり意見変えたぞ

確かにあんなにも期待に満ちた笑顔を見せられたら違いますなんて言えないよな。


「えっと…ツキカゲの軍手使う?」

「……後でギルドに行って手続きしないとだな。」


ため息混じりに軍手を借りると言ったナザンカに渡してあげると、口にくわえて右手にはめた。

妙だな…手袋をはめるのにわざわざ左手を使わずに口にくわえてつけるなんて

しかし何となく私は察してネットショッピングを開いてあるページを開いた。


「これを指にはめて…口を固定した袋を手首に取り付けて簡易的な収穫フォームの完成。」

「…お前気づいていたのか?」


今さっき気づいたばかりさ

指にはめたのは鉤爪型の収穫カッター、そしてするっと手から落ちた先は手首に取り付けた口を固定した袋だ。

なぜこんなことをしなければならないのか、それは彼が右手しか使えないのに理由があるだろう。


「普段からあまりにも自然すぎて気づかなかった。







あなた、左手が無いのでしょう?」


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...