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104話
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私はこのワカメ頭ことナザンカという男に謝らなければならない事があったのだ。
それはトーマス帝国での事、彼の剣の手入れが隅々までよくできている事を高く評価したら、良い武器屋を紹介してやるからまた会おうぜと約束しておきながらも私は約束の日にトーマス帝国から一国の聖女様を連れて逃亡したのだ。
「トーマス帝国では変な別れの仕方をしたわね…というかあの時は約束の日に会えなくてごめんなさい。」
「あの時は何かあったんだと思って焦ったな…見たところお前も旅をしてるのか?」
ナザンカって意外と良い奴なのよね、感心するわ。
トーマス帝国から遠く離れたこの街で奇跡的な再会を果たすとかどういうことだろうか。
「こんなところでたまたま会うなんて…もしかして追ってきた?」
「なわけないだろ…俺は普通に一人旅をしてこの街に来ただけだ。
ちょっと面白そうなのを見つけてな」
不敵な笑みを浮かべている彼の横顔が妙に色気があってはらたつなコイツ。
ツキカゲのほうが可愛げもあるしイケメンだもん
「そうだ、ナザンカが見つけた面白そうなのってなに?」
「はっ…俺は面白いものは独り占めする質なんだ。悪いが教えられねえな」
だったらそんな笑みを浮かべながら言わないでほしいな。
上目遣いで彼を睨みつけてから適当にクエスト用紙を掲示板から剥がすと受付嬢さんに提出した。
「アプレの実の収穫お手伝いですね!
では早速こちらの果樹園に向かってください。」
即日手伝いに行けってこのギルドどうなってるんだ
とりあえずギルドカードを見せればお手伝いさんだと農家さんが認識するから収穫の仕方とかを教わってもらえと言われてギルドを出た。
果樹園に向かう途中に背負籠とか軍手を買ったほうが良いだろうか。
確か以前テントを立てるときに怪我しないためだけに軍手を買った気がする。
ふとそんなことを思い出してアイテムボックスを確認して軍手を取り出すと、ぴったりサイズのそれを手にはめて握ったり開いたりを繰り返した。
「何だその手袋は?不思議な素材で出来てるのかよ?」
当然のように私の隣に立って軍手袋を引っ張ったり指で感触を確かめる男に小さく悲鳴を上げた。
なぜコイツはいつも私の後ろに回るんだよ
「というかなんでついてきたの!?」
「勘違いするな。俺はアプレの実を買いに行くだけだ。」
つまり農園まで一緒に行こうぜって事かよ紛らわしいな。
傍から見れば私が勝手にぷりぷりと怒っているように見えてもおかしくはないこの状況
一度冷静になって彼に対して敵対心とか嫌悪感を拭い捨ててもありかもしれない。
しかし…
「そういえばアプレの実っつうのは高い位置に実を作るんだ。
お前みたいなチビに出来るとは思えねぇな。」
「なんですって…?
やっぱりあんたを一度細切れにしないと気が済まないわ!」
やっぱりこいつは嫌いだ
初めてであった時から鼻に着くようなその余裕綽々といった表情
更には皮肉やらなんやら言う中で良い事を言ったことの無い口
そしてそのゆらゆらと揺れる緑色の長髪
全部が腹立つ要素になる
ナザンカはヘラヘラと笑いながら私の打撃を受け流して前に進む
こんな時に限ってこいつは高い運動神経を見せつけるから更に腹立つ。
「おっと…じゃれつくのはその辺にして仕事をした方がいいと思うぞ。」
「誰がじゃれついてるって…?」
最近こいつに対する恐怖心よりも力をつけて強くなった分、彼の煽りに意識がいくようになってツキカゲがこいつに対してイライラしていたのがわかってきた気がする。
でも彼の言う通り正面に見えるのは可愛らしいアプレの実のイラストが描いてある看板と広い農園が柵に囲まれていた。
入り口近くで休憩する農家の老夫婦に挨拶をすると、待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「男の人もいるのかい。助かったねぇ」
「えっ…俺は違い……ません。」
こいつおばあさんを見るなり意見変えたぞ
確かにあんなにも期待に満ちた笑顔を見せられたら違いますなんて言えないよな。
「えっと…ツキカゲの軍手使う?」
「……後でギルドに行って手続きしないとだな。」
ため息混じりに軍手を借りると言ったナザンカに渡してあげると、口にくわえて右手にはめた。
妙だな…手袋をはめるのにわざわざ左手を使わずに口にくわえてつけるなんて
しかし何となく私は察してネットショッピングを開いてあるページを開いた。
「これを指にはめて…口を固定した袋を手首に取り付けて簡易的な収穫フォームの完成。」
「…お前気づいていたのか?」
今さっき気づいたばかりさ
指にはめたのは鉤爪型の収穫カッター、そしてするっと手から落ちた先は手首に取り付けた口を固定した袋だ。
なぜこんなことをしなければならないのか、それは彼が右手しか使えないのに理由があるだろう。
「普段からあまりにも自然すぎて気づかなかった。
あなた、左手が無いのでしょう?」
それはトーマス帝国での事、彼の剣の手入れが隅々までよくできている事を高く評価したら、良い武器屋を紹介してやるからまた会おうぜと約束しておきながらも私は約束の日にトーマス帝国から一国の聖女様を連れて逃亡したのだ。
「トーマス帝国では変な別れの仕方をしたわね…というかあの時は約束の日に会えなくてごめんなさい。」
「あの時は何かあったんだと思って焦ったな…見たところお前も旅をしてるのか?」
ナザンカって意外と良い奴なのよね、感心するわ。
トーマス帝国から遠く離れたこの街で奇跡的な再会を果たすとかどういうことだろうか。
「こんなところでたまたま会うなんて…もしかして追ってきた?」
「なわけないだろ…俺は普通に一人旅をしてこの街に来ただけだ。
ちょっと面白そうなのを見つけてな」
不敵な笑みを浮かべている彼の横顔が妙に色気があってはらたつなコイツ。
ツキカゲのほうが可愛げもあるしイケメンだもん
「そうだ、ナザンカが見つけた面白そうなのってなに?」
「はっ…俺は面白いものは独り占めする質なんだ。悪いが教えられねえな」
だったらそんな笑みを浮かべながら言わないでほしいな。
上目遣いで彼を睨みつけてから適当にクエスト用紙を掲示板から剥がすと受付嬢さんに提出した。
「アプレの実の収穫お手伝いですね!
では早速こちらの果樹園に向かってください。」
即日手伝いに行けってこのギルドどうなってるんだ
とりあえずギルドカードを見せればお手伝いさんだと農家さんが認識するから収穫の仕方とかを教わってもらえと言われてギルドを出た。
果樹園に向かう途中に背負籠とか軍手を買ったほうが良いだろうか。
確か以前テントを立てるときに怪我しないためだけに軍手を買った気がする。
ふとそんなことを思い出してアイテムボックスを確認して軍手を取り出すと、ぴったりサイズのそれを手にはめて握ったり開いたりを繰り返した。
「何だその手袋は?不思議な素材で出来てるのかよ?」
当然のように私の隣に立って軍手袋を引っ張ったり指で感触を確かめる男に小さく悲鳴を上げた。
なぜコイツはいつも私の後ろに回るんだよ
「というかなんでついてきたの!?」
「勘違いするな。俺はアプレの実を買いに行くだけだ。」
つまり農園まで一緒に行こうぜって事かよ紛らわしいな。
傍から見れば私が勝手にぷりぷりと怒っているように見えてもおかしくはないこの状況
一度冷静になって彼に対して敵対心とか嫌悪感を拭い捨ててもありかもしれない。
しかし…
「そういえばアプレの実っつうのは高い位置に実を作るんだ。
お前みたいなチビに出来るとは思えねぇな。」
「なんですって…?
やっぱりあんたを一度細切れにしないと気が済まないわ!」
やっぱりこいつは嫌いだ
初めてであった時から鼻に着くようなその余裕綽々といった表情
更には皮肉やらなんやら言う中で良い事を言ったことの無い口
そしてそのゆらゆらと揺れる緑色の長髪
全部が腹立つ要素になる
ナザンカはヘラヘラと笑いながら私の打撃を受け流して前に進む
こんな時に限ってこいつは高い運動神経を見せつけるから更に腹立つ。
「おっと…じゃれつくのはその辺にして仕事をした方がいいと思うぞ。」
「誰がじゃれついてるって…?」
最近こいつに対する恐怖心よりも力をつけて強くなった分、彼の煽りに意識がいくようになってツキカゲがこいつに対してイライラしていたのがわかってきた気がする。
でも彼の言う通り正面に見えるのは可愛らしいアプレの実のイラストが描いてある看板と広い農園が柵に囲まれていた。
入り口近くで休憩する農家の老夫婦に挨拶をすると、待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「男の人もいるのかい。助かったねぇ」
「えっ…俺は違い……ません。」
こいつおばあさんを見るなり意見変えたぞ
確かにあんなにも期待に満ちた笑顔を見せられたら違いますなんて言えないよな。
「えっと…ツキカゲの軍手使う?」
「……後でギルドに行って手続きしないとだな。」
ため息混じりに軍手を借りると言ったナザンカに渡してあげると、口にくわえて右手にはめた。
妙だな…手袋をはめるのにわざわざ左手を使わずに口にくわえてつけるなんて
しかし何となく私は察してネットショッピングを開いてあるページを開いた。
「これを指にはめて…口を固定した袋を手首に取り付けて簡易的な収穫フォームの完成。」
「…お前気づいていたのか?」
今さっき気づいたばかりさ
指にはめたのは鉤爪型の収穫カッター、そしてするっと手から落ちた先は手首に取り付けた口を固定した袋だ。
なぜこんなことをしなければならないのか、それは彼が右手しか使えないのに理由があるだろう。
「普段からあまりにも自然すぎて気づかなかった。
あなた、左手が無いのでしょう?」
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