105 / 170
103話
しおりを挟む
昔から私が見る世界は不完全で物足りない
片目を閉じた世界ではその全てを感じ取ることは無理のようだ。
「あらこんにちは…またここまで迷い込んできたの?」
今日も小さくてふわふわとした小鳥が歌を教えてくれる。
この狭くて苦しい鳥籠に私がいる限り、この世界の誰かが自由に羽ばたいている。
羨ましいな
今日の小鳥はとても大きくて小鳥とは言えない
緑色の髪を揺らして私に笑いかけてくるあなたは私が出会った誰よりも自由奔放に見えた。
片目を閉じて見たあなたではなく、完全な世界にいるあなたを見てみたい。
どうか私に教えてくださいな
それは箱庭の中しか知らぬ哀れな娘
外の世界を恐れ自分を狙う輩から身を守る為に自ら閉じこもり、窓の外からやってくる友人とお話するのが娘の日課である。
今日もまた
「あら…また来たのですか?」
ふらふらと窓辺にやってくるそれは彼女に似合うことの無い風貌で、気味の悪い笑みを浮かべるのだ。
そしていつも彼女に尋ねる
__自由にならないのか?
その問いに彼女はいつものように答える
「私は全ての目を使って世界を見てはいけないの。
片目を閉じたままでこの部屋に閉じこもる事が私にとって一番平穏で一番幸せ」
その答えはふらふらとやってきたそれにとっては不満で1番嫌いな答えだった。
いつの日かこの哀れな娘を攫いたいと思い続けるのだ。
そんな願いが叶う日はいつになるのか、まだ誰にも何も分からない。
花の楽園ヴィル・フルール
この街がそう呼ばれたのはこの街の初代領主の趣味が町おこしに繋がったためであると資料が残っていた。
「花の香りでいっぱいね…ここなら薬草とか調達出来るかも。」
乙女の憧れの地とも言われてるからなのか観光客、特に女性が多い気がする。
ありとあらゆる場所に花開くここでは街のシンボルマークも警備隊の制服にも花のデザインが施されていて美しさがあるような気がする。
「ここがシロさんの言ってた宿屋さん?」
街に着いたらすぐに宿のチェックインをするべきなのは常識だけど、街をよく知らない私にとってはツキカゲやシロさんが結構頼りなところがある。
「ハーブの宿と言ってサービスの紅茶が美味しいの。」
まさかそれだけの理由で選んだのか…でもまあ清潔感のある宿だし問題は無さそうだ。
早速チェックインをして一人一部屋確保すると、あとは自由に行動しようということになった。
シロさんもマアヤも気になるお店があると言ってるし、私もここに来る途中で狩った魔物の素材買取をギルドにお願いしたいし。
夕食は宿でとることを約束して解散をすると、ツキカゲは部屋に戻って寝ると言った。
「眠いから寝る…それだけだ。」
以前のような覇気がない分ちょっと怖いな
なんてことを思いながらギルドに向かうと、やはりそこも花のデザインが施された看板がある。
花と武器が一緒になってるデザインとかすごいなこの街は…
「すみません、魔物解体と素材の買取をお願いします。」
「はい!ただいま伺います!」
買取カウンターに行けばパタパタと足音を立ててこちらに走り寄ってくる気配がして少し待った。
小柄の可愛らしい女の子なのに、撥水性のエプロンを身につけて背中には大きな包丁が装備されているのが恐怖を感じる。
「えっと…石角トナカイが2頭、ジャイアントサーペントにフォレストウルフが5頭ですね!
すごい!かなりの実力を持った冒険者なんですね。」
確かにそこそこの実力はついたと思うけど、このフォレストウルフは全部マアヤが狩ったものなんだよな。
あれは怖かった…うん
「フォレストウルフの分は分けて精算をお願いします。
あとは全部一緒で」
「かしこまりました!
精算に少しお時間をいただきます。それまでの間に簡単なクエストを受けてみてはいかがですか?」
クエストね…こんな平和そうな街だから畑仕事のお手伝いのクエストとかありそう。
「庭を住処にしているマウスドッグの駆除に、アプレの実収穫のお手伝い…こっちは商品販売の売り子を募集してる。」
どれも平和的だな…マウスドッグの駆除はマアヤとシロさんに薬品を作ってもらって餌と混ぜれば簡単に出来そうだな。
りんご収穫はひとつひとつ丁寧にやった方が良いからツキカゲと一緒にできるかも。
…仲が良ければの話だが
未だに仲直りが出来ずにいる情けない私を責めて貰って構わない。
だけど難しい問題なのだ、あの陰キャ何を考えているのかわからない。
「はぁ…どうしようかな。」
「なにかお困りで?お嬢ちゃん」
それがちょうど良いクエストがなくてね…
流れるように答えてしまったけどコイツ誰だ?
横に立っている影をバッと勢いよく首を回して見て目を丸くした。
コイツ…何処ぞであったワカメ頭じゃん
「ワカメ…頭……」
「その呼び名やめろと言っただろうが…俺はナザンカだって言ってるだろ!
それにしても、久しぶりだなカーニャ」
茶色く染めた髪の毛をすくい上げてキスをしてくる腹立つほどにキザな男を私は覚えてる。
それは宗教国家トーマス帝国で出会った奴で、もっと前にヘンリー王国で雇われ盗賊としてドンパチした事があるとかいう妙に縁がある輩である。
自己紹介の時は舌を噛んでカーニャという名前で覚えられたからそのまんまにしてた。
しかしまあ…あれだ
コイツには謝らないといけないことが一つあった。
片目を閉じた世界ではその全てを感じ取ることは無理のようだ。
「あらこんにちは…またここまで迷い込んできたの?」
今日も小さくてふわふわとした小鳥が歌を教えてくれる。
この狭くて苦しい鳥籠に私がいる限り、この世界の誰かが自由に羽ばたいている。
羨ましいな
今日の小鳥はとても大きくて小鳥とは言えない
緑色の髪を揺らして私に笑いかけてくるあなたは私が出会った誰よりも自由奔放に見えた。
片目を閉じて見たあなたではなく、完全な世界にいるあなたを見てみたい。
どうか私に教えてくださいな
それは箱庭の中しか知らぬ哀れな娘
外の世界を恐れ自分を狙う輩から身を守る為に自ら閉じこもり、窓の外からやってくる友人とお話するのが娘の日課である。
今日もまた
「あら…また来たのですか?」
ふらふらと窓辺にやってくるそれは彼女に似合うことの無い風貌で、気味の悪い笑みを浮かべるのだ。
そしていつも彼女に尋ねる
__自由にならないのか?
その問いに彼女はいつものように答える
「私は全ての目を使って世界を見てはいけないの。
片目を閉じたままでこの部屋に閉じこもる事が私にとって一番平穏で一番幸せ」
その答えはふらふらとやってきたそれにとっては不満で1番嫌いな答えだった。
いつの日かこの哀れな娘を攫いたいと思い続けるのだ。
そんな願いが叶う日はいつになるのか、まだ誰にも何も分からない。
花の楽園ヴィル・フルール
この街がそう呼ばれたのはこの街の初代領主の趣味が町おこしに繋がったためであると資料が残っていた。
「花の香りでいっぱいね…ここなら薬草とか調達出来るかも。」
乙女の憧れの地とも言われてるからなのか観光客、特に女性が多い気がする。
ありとあらゆる場所に花開くここでは街のシンボルマークも警備隊の制服にも花のデザインが施されていて美しさがあるような気がする。
「ここがシロさんの言ってた宿屋さん?」
街に着いたらすぐに宿のチェックインをするべきなのは常識だけど、街をよく知らない私にとってはツキカゲやシロさんが結構頼りなところがある。
「ハーブの宿と言ってサービスの紅茶が美味しいの。」
まさかそれだけの理由で選んだのか…でもまあ清潔感のある宿だし問題は無さそうだ。
早速チェックインをして一人一部屋確保すると、あとは自由に行動しようということになった。
シロさんもマアヤも気になるお店があると言ってるし、私もここに来る途中で狩った魔物の素材買取をギルドにお願いしたいし。
夕食は宿でとることを約束して解散をすると、ツキカゲは部屋に戻って寝ると言った。
「眠いから寝る…それだけだ。」
以前のような覇気がない分ちょっと怖いな
なんてことを思いながらギルドに向かうと、やはりそこも花のデザインが施された看板がある。
花と武器が一緒になってるデザインとかすごいなこの街は…
「すみません、魔物解体と素材の買取をお願いします。」
「はい!ただいま伺います!」
買取カウンターに行けばパタパタと足音を立ててこちらに走り寄ってくる気配がして少し待った。
小柄の可愛らしい女の子なのに、撥水性のエプロンを身につけて背中には大きな包丁が装備されているのが恐怖を感じる。
「えっと…石角トナカイが2頭、ジャイアントサーペントにフォレストウルフが5頭ですね!
すごい!かなりの実力を持った冒険者なんですね。」
確かにそこそこの実力はついたと思うけど、このフォレストウルフは全部マアヤが狩ったものなんだよな。
あれは怖かった…うん
「フォレストウルフの分は分けて精算をお願いします。
あとは全部一緒で」
「かしこまりました!
精算に少しお時間をいただきます。それまでの間に簡単なクエストを受けてみてはいかがですか?」
クエストね…こんな平和そうな街だから畑仕事のお手伝いのクエストとかありそう。
「庭を住処にしているマウスドッグの駆除に、アプレの実収穫のお手伝い…こっちは商品販売の売り子を募集してる。」
どれも平和的だな…マウスドッグの駆除はマアヤとシロさんに薬品を作ってもらって餌と混ぜれば簡単に出来そうだな。
りんご収穫はひとつひとつ丁寧にやった方が良いからツキカゲと一緒にできるかも。
…仲が良ければの話だが
未だに仲直りが出来ずにいる情けない私を責めて貰って構わない。
だけど難しい問題なのだ、あの陰キャ何を考えているのかわからない。
「はぁ…どうしようかな。」
「なにかお困りで?お嬢ちゃん」
それがちょうど良いクエストがなくてね…
流れるように答えてしまったけどコイツ誰だ?
横に立っている影をバッと勢いよく首を回して見て目を丸くした。
コイツ…何処ぞであったワカメ頭じゃん
「ワカメ…頭……」
「その呼び名やめろと言っただろうが…俺はナザンカだって言ってるだろ!
それにしても、久しぶりだなカーニャ」
茶色く染めた髪の毛をすくい上げてキスをしてくる腹立つほどにキザな男を私は覚えてる。
それは宗教国家トーマス帝国で出会った奴で、もっと前にヘンリー王国で雇われ盗賊としてドンパチした事があるとかいう妙に縁がある輩である。
自己紹介の時は舌を噛んでカーニャという名前で覚えられたからそのまんまにしてた。
しかしまあ…あれだ
コイツには謝らないといけないことが一つあった。
0
お気に入りに追加
687
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる