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103話

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昔から私が見る世界は不完全で物足りない

片目を閉じた世界ではその全てを感じ取ることは無理のようだ。


「あらこんにちは…またここまで迷い込んできたの?」


今日も小さくてふわふわとした小鳥が歌を教えてくれる。

この狭くて苦しい鳥籠に私がいる限り、この世界の誰かが自由に羽ばたいている。


羨ましいな


今日の小鳥はとても大きくて小鳥とは言えない

緑色の髪を揺らして私に笑いかけてくるあなたは私が出会った誰よりも自由奔放に見えた。

片目を閉じて見たあなたではなく、完全な世界にいるあなたを見てみたい。


どうか私に教えてくださいな










それは箱庭の中しか知らぬ哀れな娘

外の世界を恐れ自分を狙う輩から身を守る為に自ら閉じこもり、窓の外からやってくる友人とお話するのが娘の日課である。

今日もまた


「あら…また来たのですか?」


ふらふらと窓辺にやってくるそれは彼女に似合うことの無い風貌で、気味の悪い笑みを浮かべるのだ。

そしていつも彼女に尋ねる





__自由にならないのか?





その問いに彼女はいつものように答える


「私は全ての目を使って世界を見てはいけないの。

片目を閉じたままでこの部屋に閉じこもる事が私にとって一番平穏で一番幸せ」


その答えはふらふらとやってきたそれにとっては不満で1番嫌いな答えだった。

いつの日かこの哀れな娘を攫いたいと思い続けるのだ。

そんな願いが叶う日はいつになるのか、まだ誰にも何も分からない。














花の楽園ヴィル・フルール

この街がそう呼ばれたのはこの街の初代領主の趣味が町おこしに繋がったためであると資料が残っていた。


「花の香りでいっぱいね…ここなら薬草とか調達出来るかも。」


乙女の憧れの地とも言われてるからなのか観光客、特に女性が多い気がする。

ありとあらゆる場所に花開くここでは街のシンボルマークも警備隊の制服にも花のデザインが施されていて美しさがあるような気がする。


「ここがシロさんの言ってた宿屋さん?」


街に着いたらすぐに宿のチェックインをするべきなのは常識だけど、街をよく知らない私にとってはツキカゲやシロさんが結構頼りなところがある。


「ハーブの宿と言ってサービスの紅茶が美味しいの。」


まさかそれだけの理由で選んだのか…でもまあ清潔感のある宿だし問題は無さそうだ。

早速チェックインをして一人一部屋確保すると、あとは自由に行動しようということになった。

シロさんもマアヤも気になるお店があると言ってるし、私もここに来る途中で狩った魔物の素材買取をギルドにお願いしたいし。

夕食は宿でとることを約束して解散をすると、ツキカゲは部屋に戻って寝ると言った。


「眠いから寝る…それだけだ。」


以前のような覇気がない分ちょっと怖いな

なんてことを思いながらギルドに向かうと、やはりそこも花のデザインが施された看板がある。

花と武器が一緒になってるデザインとかすごいなこの街は…


「すみません、魔物解体と素材の買取をお願いします。」

「はい!ただいま伺います!」


買取カウンターに行けばパタパタと足音を立ててこちらに走り寄ってくる気配がして少し待った。

小柄の可愛らしい女の子なのに、撥水性のエプロンを身につけて背中には大きな包丁が装備されているのが恐怖を感じる。


「えっと…石角トナカイが2頭、ジャイアントサーペントにフォレストウルフが5頭ですね!

すごい!かなりの実力を持った冒険者なんですね。」


確かにそこそこの実力はついたと思うけど、このフォレストウルフは全部マアヤが狩ったものなんだよな。

あれは怖かった…うん


「フォレストウルフの分は分けて精算をお願いします。

あとは全部一緒で」

「かしこまりました!

精算に少しお時間をいただきます。それまでの間に簡単なクエストを受けてみてはいかがですか?」


クエストね…こんな平和そうな街だから畑仕事のお手伝いのクエストとかありそう。


「庭を住処にしているマウスドッグの駆除に、アプレの実収穫のお手伝い…こっちは商品販売の売り子を募集してる。」


どれも平和的だな…マウスドッグの駆除はマアヤとシロさんに薬品を作ってもらって餌と混ぜれば簡単に出来そうだな。

りんご収穫はひとつひとつ丁寧にやった方が良いからツキカゲと一緒にできるかも。


…仲が良ければの話だが


未だに仲直りが出来ずにいる情けない私を責めて貰って構わない。

だけど難しい問題なのだ、あの陰キャ何を考えているのかわからない。


「はぁ…どうしようかな。」

「なにかお困りで?お嬢ちゃん」


それがちょうど良いクエストがなくてね…

流れるように答えてしまったけどコイツ誰だ?

横に立っている影をバッと勢いよく首を回して見て目を丸くした。


コイツ…何処ぞであったワカメ頭じゃん


「ワカメ…頭……」

「その呼び名やめろと言っただろうが…俺はナザンカだって言ってるだろ!


それにしても、久しぶりだなカーニャ」


茶色く染めた髪の毛をすくい上げてキスをしてくる腹立つほどにキザな男を私は覚えてる。

それは宗教国家トーマス帝国で出会った奴で、もっと前にヘンリー王国で雇われ盗賊としてドンパチした事があるとかいう妙に縁がある輩である。

自己紹介の時は舌を噛んでカーニャという名前で覚えられたからそのまんまにしてた。

しかしまあ…あれだ


コイツには謝らないといけないことが一つあった。


    
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