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77話
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あたりは暗く、冷え込むというのに夜空を見上げては白い息を吐き出して星の美しさに嫉妬した。
どの世界にいても星はきれいだし空気がうまいと感じることはいいことなんだろうな
屋根裏部屋の窓を開けてホットミルクを飲みながらしみじみとそう思っていると、後ろから誰かがくしゃみをしていることに気づいた。
振り向いて使われているベッドの方を見れば真剣な表情を崩さずに一枚のスクリーンを見つめている彼女を見てくすりと笑うと、初めてこちらを見てきた。
「なにか私の顔についてる?」
「いや、意外と勉強熱心なんだなって思っただけだよ
それとごめんね窓を開けてたらそりゃあ寒いもんね」
ごめんごめんと言いながら無限収納から熱々の豆腐スコーンをひとつ差し出す
ありがとうと言いながらそれを受け取ればあまりの熱さに驚いてスコーンを手の上で踊らせてたから笑ったよ
「皿が必要かごめん」
「いや、もともとスコーンって熱い状態で食べないから慣れてないだけだと思う
あれ?なんでこんなこと言ったんだ?」
私も驚いたよ
スコーンを焼いてあげたのは今回が初めてだし、この世界にスコーンなんて存在しないから本来の食べ方を現在進行形で記憶喪失を患っているマアヤが知っているわけが無い
少しずつ記憶が戻ってきたのか基本的な知識としてもとから残っていたのどちらかだろう、どちらにせよ嬉しいことである
「何故スコーンの知識が残っていたんだろう?」
私が嬉しく思っているのに対して、彼女は不思議そうに首を傾げながら推測だけどと続けてこう言った。
「元いた世界の私はきっとお茶とか淹れるのが好きだったのかもしれない
茶葉の種類やそれぞれの効果、それに加えてお茶にあうお菓子の知識が自然と思い出せるから…でも家族は完璧には思い出せないの
母を思い出そうとすると決まって申し訳ない気持ちが溢れてくるし、父にいたっては全く思い出せないのよね」
それはきっとお母さんを一人残してしまった後悔が感情だけ残ってしまったんだろうな
そして父は彼女が幼い時にに亡くなったから思い出そうにも思い出せないのかもしれない
かすかに残っていた父との記憶はどんなに頑張ってもこの先取り戻せるかはよくわからない
「じゃあ何か記憶に残ってる歌とかはないかな?
歌詞までは難しくってもメロディなら思い出せるかもよ?」
「歌はどうだろう
聴くのは好きだけど歌うとなるとハードルが上がるよ」
スコーンにかぶりつきながらそう言っている彼女を見て私は色々と考察をしてみることにした
例えばマアヤは勉強熱心なのが意外である思えるのは、いつも胡座座りだからとか時々口調が荒くなったりするのが理由になる
長い髪の毛を邪魔だなと思っているような素振りを見せるから綺麗にまとめてあげると喜んだりするんだ。
もしかしたら彼女は一時期荒れていた時代があってその時の性格が残ってしまったのかもしれないと思ってしまったりする
今だってスコーンをちぎって一口サイズにするのではなくかぶりついているのも、少し野性的な部分が見えている証拠にもなるから面白い
それら全てはきっと、マアヤが私に慣れてきたことにもなるのかもしれない
私を心から許しているのかもしれないと思うと嬉しい
「今日はもう寝ようか、明日からマアヤは忙しくなるからね!」
「そうね…シロさんから薬草やポーションの作り方を教えてもらうから早く寝ないとね
それにカナも体を休めてないとダメよ?」
ニヤリと笑ったマアヤは私を抱き寄せてベッドに引き込んできた。
「うーん、やっぱり子供体温はいいね
寒い屋根裏部屋ではちょうどいいや」
なんて言ってる彼女の体は少し冷えていた
さっきまで私が窓を開けてたからそれが原因だろう
ならば朝まで一緒に寝るとしよう、それが今の私に出来るお詫びならね
おやすみ同士よ
明日もまた前を向けるように私はあなたを支えるから
夜も深け、人々が眠るこの時
そんなものドラゴンには関係ない
「シロ、何かわかったか?」
「わかったと言うよりも考察しか出来ないのが悔しいわね
感じ取れた魂の素質と彼女のスキルを解いた素の姿からして矛盾が生じているのはわかった
確かカナとマアヤは召喚の儀で同時に呼び出された異世界人なのでしょう?」
最後の姉の質問に首を縦に振った弟は初めて相棒に出会った日のことを思い出した。
「今では身体と魂がしっかりとくっ付いているが、あの日会ったカナはかなり不安定だったな
最初は見た目と精神が一致していなかったからおかしいと思ったが異世界召喚者だとわかった時は納得したな」
伝説のドラゴンは物知りである
異世界召喚がどのようなものか、そして一度の召喚の儀に一人ではなく二人同時に召喚すれば何が起きるかも知っていた。
「今回は運が良かったのかもね
本来の召喚の儀は一回一人しか呼び出せないのに二人も呼んでしまったからカナが幼女の体になってしまった
下手すればカナの身体どころか魂も消滅してた。」
召喚の儀は膨大な量の魔力を必要とし、大勢の魔力を集め異世界から一度に一人だけ呼び出すことが出来る
その際にこの世界に召喚した人間を留めるための器を魔力で作る必要がある…だから膨大な量の魔力が必要なのだ。
しかしマアヤとカナの二人を呼び出してしまい、器となる身体を作る途中で魔力が尽きてカナだけがあんな姿になってしまった
最悪の場合カナの身体は作られずに魂がこの世界に留まることが不可能となり元の世界に帰ることも無く、幾多の世界の狭間に閉じ込められていたかもしれない
「あと気になるのは二人から聖女の力を感じなかったことだな
マアヤから聞いた話によると、二人は聖女召喚の儀によって呼び出されたにもかかわらず二人からそのような力は感じられなかった
闇の王座を守るドラゴンだからこそその力に対して敏感になっている…が、何も感じなかった。」
それには姉弟揃って首を傾げ、更には頭を抱えた
謎はまだまだ解決しそうにもない
それに気づいてわかってしまったからにはもう今夜は解決できそうにない
ならばもう考える時間がもったいないというものである
「今夜は寝ましょう…明日マアヤに薬学を教えないといけないからね」
「そうだな
俺はカナについて行く」
当たり前のように人間について行くと発言した弟を奇妙なものを見る姉の心情を知るのは難しいだろう
「あんた…変わったわね」
「…変わらなければいけなかったんだ」
何かを思い出すようにため息をついたかと思えば座っていた椅子から立ち上がり出口を目指す弟を姉は複雑そうな目で見つめていた。
それ以上の詮索も何もすることは無い
だから今日には別れを告げて明日を迎えることにしよう
明日が今日になるように前進して夢を見ることにしよう
どの世界にいても星はきれいだし空気がうまいと感じることはいいことなんだろうな
屋根裏部屋の窓を開けてホットミルクを飲みながらしみじみとそう思っていると、後ろから誰かがくしゃみをしていることに気づいた。
振り向いて使われているベッドの方を見れば真剣な表情を崩さずに一枚のスクリーンを見つめている彼女を見てくすりと笑うと、初めてこちらを見てきた。
「なにか私の顔についてる?」
「いや、意外と勉強熱心なんだなって思っただけだよ
それとごめんね窓を開けてたらそりゃあ寒いもんね」
ごめんごめんと言いながら無限収納から熱々の豆腐スコーンをひとつ差し出す
ありがとうと言いながらそれを受け取ればあまりの熱さに驚いてスコーンを手の上で踊らせてたから笑ったよ
「皿が必要かごめん」
「いや、もともとスコーンって熱い状態で食べないから慣れてないだけだと思う
あれ?なんでこんなこと言ったんだ?」
私も驚いたよ
スコーンを焼いてあげたのは今回が初めてだし、この世界にスコーンなんて存在しないから本来の食べ方を現在進行形で記憶喪失を患っているマアヤが知っているわけが無い
少しずつ記憶が戻ってきたのか基本的な知識としてもとから残っていたのどちらかだろう、どちらにせよ嬉しいことである
「何故スコーンの知識が残っていたんだろう?」
私が嬉しく思っているのに対して、彼女は不思議そうに首を傾げながら推測だけどと続けてこう言った。
「元いた世界の私はきっとお茶とか淹れるのが好きだったのかもしれない
茶葉の種類やそれぞれの効果、それに加えてお茶にあうお菓子の知識が自然と思い出せるから…でも家族は完璧には思い出せないの
母を思い出そうとすると決まって申し訳ない気持ちが溢れてくるし、父にいたっては全く思い出せないのよね」
それはきっとお母さんを一人残してしまった後悔が感情だけ残ってしまったんだろうな
そして父は彼女が幼い時にに亡くなったから思い出そうにも思い出せないのかもしれない
かすかに残っていた父との記憶はどんなに頑張ってもこの先取り戻せるかはよくわからない
「じゃあ何か記憶に残ってる歌とかはないかな?
歌詞までは難しくってもメロディなら思い出せるかもよ?」
「歌はどうだろう
聴くのは好きだけど歌うとなるとハードルが上がるよ」
スコーンにかぶりつきながらそう言っている彼女を見て私は色々と考察をしてみることにした
例えばマアヤは勉強熱心なのが意外である思えるのは、いつも胡座座りだからとか時々口調が荒くなったりするのが理由になる
長い髪の毛を邪魔だなと思っているような素振りを見せるから綺麗にまとめてあげると喜んだりするんだ。
もしかしたら彼女は一時期荒れていた時代があってその時の性格が残ってしまったのかもしれないと思ってしまったりする
今だってスコーンをちぎって一口サイズにするのではなくかぶりついているのも、少し野性的な部分が見えている証拠にもなるから面白い
それら全てはきっと、マアヤが私に慣れてきたことにもなるのかもしれない
私を心から許しているのかもしれないと思うと嬉しい
「今日はもう寝ようか、明日からマアヤは忙しくなるからね!」
「そうね…シロさんから薬草やポーションの作り方を教えてもらうから早く寝ないとね
それにカナも体を休めてないとダメよ?」
ニヤリと笑ったマアヤは私を抱き寄せてベッドに引き込んできた。
「うーん、やっぱり子供体温はいいね
寒い屋根裏部屋ではちょうどいいや」
なんて言ってる彼女の体は少し冷えていた
さっきまで私が窓を開けてたからそれが原因だろう
ならば朝まで一緒に寝るとしよう、それが今の私に出来るお詫びならね
おやすみ同士よ
明日もまた前を向けるように私はあなたを支えるから
夜も深け、人々が眠るこの時
そんなものドラゴンには関係ない
「シロ、何かわかったか?」
「わかったと言うよりも考察しか出来ないのが悔しいわね
感じ取れた魂の素質と彼女のスキルを解いた素の姿からして矛盾が生じているのはわかった
確かカナとマアヤは召喚の儀で同時に呼び出された異世界人なのでしょう?」
最後の姉の質問に首を縦に振った弟は初めて相棒に出会った日のことを思い出した。
「今では身体と魂がしっかりとくっ付いているが、あの日会ったカナはかなり不安定だったな
最初は見た目と精神が一致していなかったからおかしいと思ったが異世界召喚者だとわかった時は納得したな」
伝説のドラゴンは物知りである
異世界召喚がどのようなものか、そして一度の召喚の儀に一人ではなく二人同時に召喚すれば何が起きるかも知っていた。
「今回は運が良かったのかもね
本来の召喚の儀は一回一人しか呼び出せないのに二人も呼んでしまったからカナが幼女の体になってしまった
下手すればカナの身体どころか魂も消滅してた。」
召喚の儀は膨大な量の魔力を必要とし、大勢の魔力を集め異世界から一度に一人だけ呼び出すことが出来る
その際にこの世界に召喚した人間を留めるための器を魔力で作る必要がある…だから膨大な量の魔力が必要なのだ。
しかしマアヤとカナの二人を呼び出してしまい、器となる身体を作る途中で魔力が尽きてカナだけがあんな姿になってしまった
最悪の場合カナの身体は作られずに魂がこの世界に留まることが不可能となり元の世界に帰ることも無く、幾多の世界の狭間に閉じ込められていたかもしれない
「あと気になるのは二人から聖女の力を感じなかったことだな
マアヤから聞いた話によると、二人は聖女召喚の儀によって呼び出されたにもかかわらず二人からそのような力は感じられなかった
闇の王座を守るドラゴンだからこそその力に対して敏感になっている…が、何も感じなかった。」
それには姉弟揃って首を傾げ、更には頭を抱えた
謎はまだまだ解決しそうにもない
それに気づいてわかってしまったからにはもう今夜は解決できそうにない
ならばもう考える時間がもったいないというものである
「今夜は寝ましょう…明日マアヤに薬学を教えないといけないからね」
「そうだな
俺はカナについて行く」
当たり前のように人間について行くと発言した弟を奇妙なものを見る姉の心情を知るのは難しいだろう
「あんた…変わったわね」
「…変わらなければいけなかったんだ」
何かを思い出すようにため息をついたかと思えば座っていた椅子から立ち上がり出口を目指す弟を姉は複雑そうな目で見つめていた。
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