見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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56話

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私は簡潔にできるだけわかりやすく説明をした。

聖女として召喚された佐藤真彩さんがどれほど苦しんでいたのか

何度も涙を流していたのだろうと考えてしまった

だけど彼女は苦しんだ出来事も涙を流していたことも全て忘れてしまった。


自分の名前すらも


私は彼女の記憶を奪い消し去ったあのクソ魔法野郎を許さなかった…だからこの手でその命を終わらせたのだ。


「結局あの野郎の命をこの手で終わらせても全然スッキリしなかった…全然嬉しくない

こんなことをしても真彩さんの記憶は戻らないから…!」


この時はじめて泣いたかもしれない

今まで怒りでどうにかなってしまいそうで、戦い続けて涙なんて流している余裕もなかった。

ポロポロと大粒の涙を流し続けてようやく収まった時には私の目は赤く腫れ上がっていたかもしれない


でもトルマーさんはそんなこと気にせずに私に頑張ったねとか、辛かったでしょうとか言ってくれた。

他の人間だったら心に響かない言葉がトルマーさんなら響くんだ


「ありがとうございますトルマーさん…人殺しをした私なんかを抱きしめてくれて」

「命を終わらせたことの無い人間なんていません

それは動物でも虫でも人間でも変わらないのです」


まさか彼がそんなことを言うなんて思わなかった

結局の所彼は全ての命を平等に見ているらしい

さてと、もう泣くのはやめよう

今だってツキカゲと真彩さんが待っているんだ。

早く私も彼らを追いかけないと


早く行かないと


「……とその前にトルマーさん」

「ん?何かねカナ…」


抱きしめてくれたトルマーさんから離れて大きく開いた窓の縁に足をのせたその時、私はあることを思い出した。

窓の縁にのせてた足を下におろして振り向くと、彼との身長差を利用してあざとく上目遣いで言ったんだ。


「最後に…踊ってくれませんかShall  we dance?」


その瞬間彼は目を真ん丸くして静かに差し伸べた手を取っていた。

驚いて、戸惑いを隠せずにいる彼は私の腰に手を当てて踊ってくれた。

音のない静かな空間で私達は踊ったんだ


「まさか気づいていたのか?

だって…今君が言った言語は……!」



気づいていたさ…だから私はあなたのその口に指を当て無理矢理閉じさせた。

今ただこのダンスを楽しみたいだけなの


「続きは踊り終わった後に…なんてそんな暇はないんですけどね」


ただ踊り続けた

うっすらと灯るランプだけが私達を照らして回る度に影が動いて心も踊る

そして、音のない静かな空間に響く私たちのリズミカルな足音もいずれなくなって踊り終えた私達は一度離れて紅茶を飲むんだ。

心を落ち着かせるためにも


「さて…なぜ私があなたに踊りませんかと聞いたかを話しますかね」

「いや、そこよりも気になるのは





なぜ君は英語を使ったんだい?」



そうだ…私はわざとあなたに英語で踊らないかと聞いたんだ。

これは確認しておきたかったことでもある


「出会った頃から不思議だったんだよね…

なぜ異世界召喚についてあなたが知っているのか

私が異世界召喚された人間だと言うのにあなたは教会または城に連れていくことも無かった

そしてこの国で暮らすあなたが神を呼び捨てにするなんて不敬罪になってもおかしくは無いはずだ。

なぜそんなことをするのか…

それはあなたはこの国…いや、この世界の人間じゃないからなのでは?」


明らかにトルマーさんの顔色が悪くなっていく

ビンゴのようだね

やっぱりそうだったんだ


「最後に核心に迫るために私は英語を使った

大体この世界に日本語や英語なんて存在するわけが無い

普段自動翻訳のスキルのおかげで自然とこの世界に馴染んだ…だから気づきにくかった。

試しにそのスキルのスイッチを切ってみた

そしたらまあびっくり



あなたも普段自動翻訳スキルを使って話していたんだね



ツキカゲに話す時と私に話す時の言語が何故か分かれていた。

だけど口の動きが日本語を話す動きじゃなかったんだよね…よく見たら英語を話す口の動きをしていた

私、大学で英語専攻科だったからすぐにわかったよ」


ここまで私はご丁寧に説明をしたんだ…私が言いたいことがわかるんじゃないのかな?


「トルマー・エンジンさん

あなたの名前は本当にこれなのでしょうか?

本当は別の名前があったりするのでは?」


私は最後の確認のために鑑定スキルを使った

そう…確認のためにね



そして私の考察は間違いなかった



「やはりそうだった…あなただったのですね







トーマス・アルバ・エジソンさん」














私がそう言えば、彼は驚くことも焦ることもやめた

諦めたと言った方がわかりやすいか

ため息をついて紅茶を飲み干すとカチャリと音を立てながらカップを置く

言い訳することもなく彼はにっこりと笑ったんだ。




「……そうだよ

私がトーマス・アルバ・エジソンだ」
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