見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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54話

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脱いだマントを被せてきて私の存在を隠すようにするとニカッと笑って頭を撫でるんだ。

急に優しくしないで欲しいな…なんて言ったらまたあなたは冷たいことを言うのかな?

もう目の前にはいない彼女がくれた暗い色のマントをぎゅっと握り口元が緩んだ。


またあの子とお話したいな

力強いあなたと一緒にいたいな


そのためにも私も勇気を出してみたいんだ


「私に出来ることはなんだろう…祈ることかな?」


ならばお願いします

私とあの子に勝利をください

自由を手にするという勝利を…!


















もう怒った

あのクソ魔法野郎を一発ぶん殴って真彩さんをここから連れ出すだけにしようと考えていたけどそれもやめた。

あいつは神経が狂っていた…なら一度壊して作り直さないとダメだね


「私にとってはあんたは重罪

その魂が消失するその時まで自分がしてきたことに反省して…」


まだ意識がある彼は思ったように動かない身体に苛立ちながらももがいていた。

無駄な抵抗…無駄な足掻きだ


「ねえ…魂が無くなった体はあなたの器になるの?」


周りから見れば私がクソ魔法野郎に話しかけているみたいだけど、実際は違う

私の身体の中にいる彼に話しかけているんだ。



_____そもそも属性が違うからな…やろうと思えばその人間の体を作りかえて器にすることも出来る



それって顔も変わるのだろうか…?

正直この顔を見てると腹が立って仕方がない


じゃあ決めた


とりあえずこいつの体は保管しておこう

いずれ使えるかもしれないしね


「じゃあ魂はいらないから…死んで」


我ながら残酷なことを言うな

なんて心から思っていないくせに手を銃の形にして指先に魔力を溜めるんだ。

闇の魔力を弾丸にして威力を増し増しにするために彼の炎を利用する

身体の損傷は最小限に抑えなくては

やるとしたら脳天に一発入れるだけでいいか

ある程度決めたら引き金代わりの親指を折ってその弾丸をとばした。

指先にぎゅっと圧縮した弾丸は肉眼で確認するには難しい

気づけば奴の額に黒いホクロのような穴が空いている

見事に脳天を貫いたんだな…自分の力が恐ろしいと感じるというのはこういうことか


「影使いのスキルでこれを影の中にしまって…」


自身の影にピクリとも動かなくなった肉の塊を放り込むと私は肩を回してため息をついた。

こんなにあっさりと終わってしまうものだったか

いや、今はそれよりもだ


「このままだと私があなたを取り込んでしまう…だから早く元の世界に帰って」


_____わかった、楽しい時間を楽しませてもらったぞ


少し寂しそうな声が頭に響いてきたから私も名残惜しい気分になってきた

まったく…戦う前に聞かせてくれたあの優しい声で話してくれたらいいのにさ


「……じゃあまた会う時のためにあなたを呼ぶ名前を決めようか

そうすればあなたは私を見つけることができるから」


肉体が滅び魂だけとなったかつての伝説のドラゴン達が暮らす楽園は広すぎる

だから私の名前を呼んで欲しい…代わりに私があなたの名前を呼ぶから

そうすればきっとまた会えるから


「いつまでも名無しで呼ぶのはめんどくさいからね」

_____名をくれるのか…俺に?


当たり前のように言ったがまずかったか?

そう聞いてみると、そうではないらしい

ただ死んで魂だけとなった今になって名前をもらうなんて初めてのことだから緊張しているらしい

まあ誰だって死ぬのは一度だけだしそのあとも意識があるというのは苦しいことなのだろうな

ならば自分の存在を証明する名前位は持っておかないとダメだ


さてと…どんな名前にしようか


ツキカゲとある意味仲良しであり対称的な彼にふさわしい名前はあるのだろうか

炎のような紅い身体と瞳

人の姿の彼の髪は夕焼け空のように紅い髪をしていたね


そうだな…太陽を意味する名前はどうかな


火輪カリン…それは太陽を表す意味で月を表す意味のツキカゲとは正反対のあなたにピッタリだと思う名前

どうかな?」










沈黙が続いた

カリンなんて女の子みたいな名前をつけたから怒ってるのかな?

だって太陽を意味する名前をつけてみたかったんだもん

そしたら「火輪」が思いついただけだもん



_____カリン…よい名だな



あっ良かったお気に召したようだ

これからは赤毛の彼とか君とか呼ぶことなく「カリン」と呼ぶことにしよう


「またいつか会いましょうね…カリン」

_____またな…カナ


体からスっと力が抜けた感覚がした

きっとカリンはあの楽園に戻ったのだろう

それにしても…だ


「あの黒炎の力…凄まじかったな……」


あの時感じたカリンの炎の力は私の闇の力と上手く混ざりあって黒い炎となっていた。

ふたつの力が混ざり合い、今は亡き王宮魔術師に勝利することも簡単だった。

そして私はあるひとつの説が思い浮かんだ


もしツキカゲとカリンが力を合わせたらとてつもない力が生まれるのでは?


簡単に国ひとつ滅ぼしてしまう伝説のドラゴンが力を振るうとなったら国どころか大陸が消滅するかもしれない

その瞬間背筋が凍る

絶対にやってはいけないな…



「……っと

いつまでもここにいては危ないな」


クルリと方向を変えて布を被った何かに近づくと私はしゃがんだ。


「終わったよ真彩さん…さあ行こう」


手を伸ばし頭に被ったフードを脱がせると目を合わせた。

精一杯の優しい笑みを見せると彼女は涙をこぼして私に抱きついてきた

もちろん驚いたけど、彼女の体は孤独感を覚えているんだろうと理解した

知らない世界に連れてこられ、家族も友達もいない孤独感は計り知れない

私だってツキカゲがいなかったら寂しさでどうにかなっていたはず


「大丈夫…あなたの記憶は絶対に取り戻すから

あなたを一人にはしないから」


約束しようと小指を前に出すと、彼女はなんの疑問も持たずに小指を差し出してきて自ら指を絡ませた。


指切りげんまん


絶対に真彩さんを幸せにしよう







「…終わったか?」


誰かが私達に話しかけてきた

その声を私は知ってるし、振り向けばそこには黒髪の彼がいることもわかりきっていた。

私は彼に手招きをしてこっちに来るように言うと足に力を入れて立ち上がった。


「立てる?」

「…うん」


弱々しく手を伸ばしてきた彼女の手をしっかりと取り引っ張ると、彼女はふらつきながらもなんとか立ち上がった。

ツキカゲは私のマントを羽織った真彩さんをじっと見つめていた

一体何をしたいのか…。


「ツキカゲ…今はそんなことしてる場合じゃないでしょ?」

「む?そうだな…念話でこの人間について聞いてはいたが…

本質はマアヤという人間なのに記憶がないだけでこんなに雰囲気が変わるとは

いずれカナや俺様の影響を受けてトゲトゲしくなるだろうな」


なんてこと言うんだこのドラゴンは…

溜息をつきながら真彩さんの手をとると私は窓に向かった。


「ツキカゲ…脱出経路は?」

「警備形態が最大警戒レベルまでいってるからな…お前の前にある窓を壊して外に出るしかないな」


やはりそうなるよな…だから私はここに来たのだろう

この城内を駆け抜けて脱出できる可能性はゼロに等しい

ならばここからツキカゲの背中に乗って逃げた方が絶対に良いに決まってる


「窓の厚さは5センチ、壁は30センチといったところね…。

このくらいならこの子で切れる」


手を繋いでいる真彩さんにツキカゲの背中に隠れて欲しいと言うと、私は前に出て腰にある愛刀を引き抜き体内にある魔力を練り込む

精神を集中してイメージをするんだ。


「落ち着けば何でも切れる

春風乱舞!!」


刃に風を纏わせそれを振り回せばそこにあったはずの窓も壁もなくなっていた

いや、粉々になってしまったのだ。


「窓と壁を粉々にしちゃった…」

「いつの日かこれも当たり前になるよ

ツキカゲ、お願い」


ハルカゼを腰にあるホルダーにしまい、真彩さんが背中にくっついているツキカゲに近づく


「この国にもう用はないな…?」


段々と本来の姿に近づいていくツキカゲにそう言われて私は少し考えた。

そういえばこの国にいる知り合いに別れの挨拶してない

特に大事な話をしたかった人もいるんだ

私、その人に会わないと





「ツキカゲ、真彩さんと一緒に先に国を出てくれる?」








「……は?」


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