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52話
しおりを挟む私はその時ようやく彼女の存在を思い出したのだ。
「そうだった…真彩さんが記憶を抜き取られてそこから気を失ってここに来たんだ」
なぜ私はこんな時にこの世界に来てしまったのだろうか?
毎回この世界に来る時に私は何を考えていたか
それとも誰かが私を呼んでいるからなのか…よくわからない
「なにか考えているようだが…
ひとつわかるのはあの人間はもう記憶を抜き取られた、だからお前のことはもうわからないと思うぞ
お前が必死になってあの人間を助ける必要はもうないだろう?」
このドラゴンはなんてことを言うんだ
さっきまで優しいドラゴンとか言ってた私が馬鹿でアホだったよ
その瞬間私は彼の頬を勢いよく両手で挟んだ。
パチンッ…と頬を叩く音が辺りに響いたと思ったらすぐに風がザワザワと騒がしくなった。
きっと植物達は人間がドラゴンを叩いたことに驚いているのだろう
「よく聞きなさい…
人間は時に諦めが悪い生き物なの
それに、例え手遅れだったとしても記憶を抜かれた彼女の存在を放って置けるわけないでしょ!
私は彼女がどんなことになろうと何度も問題に首を突っ込んで手を差し伸べて助けるわ!」
トラブルに巻き込まれることだって、他人の問題に首を突っ込むのはもちろん嫌だ
だけど、今回は別だ
「今回だけは…あのクソ魔法野郎をぶっ飛ばしたいし真彩さんをあの場から連れ出したいの…!
早くここから出て現実世界に戻らないと」
「帰るのか…?」
なんでこんな時に彼は寂しそうにこちらを見つめて首を傾けてくるんだよ…
まるで大好きな友達と遊んで時間になって帰らなければならなくなった時の子供みたいだ。
寂しそうにこちらを見てくる彼の両頬から手を離し今度は彼の手を握った
「いやまたここに戻ってくるよ
まだこの世界に来るための条件がなにかはわかっていないけど、必ずまた来るから…!」
偽りのない言葉と偽りのない笑顔ほど説得力のあるものはない
彼は寂しそうな表情をやめてまた優しく笑ったんだ。
「そうか…なら俺からお前に会いに行こう」
なんて言って彼は私の額に指を当てて力を込めた
そういえば前にもこんなことをしていた…ということはこの行為は強制的にこの世界から追い出す方法なのだろう
いやそれよりも気になるのは今、彼から会いに行くと言っていたか?
「ちょっと待って!
それってどういうこと……」
私の思いは相手に伝わることはなくどんどん遠くなっていく意識
最後に見たもの、聞いたものは全て彼が関わっていたことだけはわかるんだ。
_____意識を集中しろ
声が聞こえる
ツキカゲの念話とは違う声だ
言われるがままに意識を取り戻した私はそのまま集中した
体内にある魔力を練っては妨害されを繰り返していると、どうすればこの妨害を上手く回避して魔力を練り発動できるかがわかってきた気がする。
集中しろ…この程度の妨害魔法なんて子供とハンデありで遊ぶのとなんら変わらない
目を開けて見えたのは光の檻とその向こう側で私を馬鹿にするように笑ってるクソ魔法野郎
全く腹立たしいものだよ
…いや構うな、あんな奴に苛立ってる暇はない
まずはこの檻から出よう
どうやってこの檻を壊そうか…ふと真上を見て気がついた。
檻のてっぺんに檻の核でもあるマジックコアがあり、それがあるから檻の形を維持出来ているうえに檻に入る対象の人物に妨害魔法を自動的にかける構造になっているみたいだ。
「この檻…特に闇魔法を妨害するのに特化してるわね」
あの時はツキカゲがゴリ押しでこの檻を壊していたけど、私はツキカゲ程魔力を調整するのが苦手である
練習すれば出来るとはツキカゲに言われたけど、未だに制御が難しい…だから私は両耳に魔力を制御するイヤリングをつけているのだが…。
_____闇魔法が使えないのなら火魔法を使え
また声が聞こえる
聞いた事のある声と火の魔法を進めるあたりで誰が話しかけているかはもうわかっていた。
「あなたの声が聞こえたからまさかとは思ったけど…どうやってこっちの世界に来れたの?」
純粋な疑問を見えない誰かにぶつけてみる
これはよくある私にしか聞こえない声で周りから見たら変人にしか見えないあれだと思う
だってさっきからクソ魔法野郎が何言ってんのこいつみたいな顔で見てるもん
_____魂だけとなった者がこの世界に留まるには色々と条件が必要なんだよ…そこで俺はお前の体を一時的に俺の器にすることで今こうやってお前に話しかけてる
なるほど…こいつは私の許可なく私の体を器にしてこの世界にいると
……ん?それって大丈夫なのか?
「待て待て待て!
ひとつの器にふたつも魂が入って大丈夫なのか!?」
ここはあまりにもありきたりな異世界なんだ
もしかしたら私の体を彼が乗っ取って私の魂は永遠に消滅なんてことがあったら…!
そんなのごめんだ
今すぐにでも元いた世界にお帰り願いたい
_____お前…なにか勘違いをしていないか?
「ひぃ!?
わっ私の魂を消さないでぇ!!」
突然頭の中に響いた彼の声を聞いた瞬間つい叫んでしまった。
しかしすぐにハッとして、無意識に下を向いて閉じた目を開けて顔を上げると目をぱちくりとさせたと思えば急に笑いだしたクソ魔法野郎
「は?何を言い出すかと思えば…
魂を消すことは神であるトーマス・アルバ・エジソン様からのお告げで禁じられているからな
だが、悪魔族は別だな」
何故か私を殺る気満々でゆっくりと立ち上がってこちらに近づいてきたぞあいつ
巫山戯るな
私はお前みたいなやつにやられるほどヤワではない
それに私はひとりじゃないからな
「思ったんだけど
この身体にふたつの魂がある場合、そのどちらかが消滅することはあるの?」
足に力を入れて立ち上がり、姿のない彼に聞いてみると彼はすぐに答えてくれた。
_____元から魂の入った器にもうひとつの魂が入った場合、元からあった魂が後に入ってきた魂を取り込もうとする…制限時間はざっと30分と言ったところか。
なるほど…つまり今危険な状態にあるのは私ではなく彼というわけだ。
「ならさっさと終わらせてあんたは元いた世界に帰りなさい…!」
右手に練り込まれた魔力を纏わせそれを火に変換させるとそれを上に掲げるようにした。
火は上へと伸びて行き、ついにはこの檻の形を維持するためのマジックコアすらも溶かして消してしまった。
再び檻を壊されてしまったことに対して驚きを隠せないでいるクソ魔法野郎の表情は置いておいて…ひとつだけ問題がある
「何も考えずに火魔法を使ったんだけどさ…
私、火魔法は上手く制御出来ない方なんだよね
ということで代わりにあなたが制御してくれない?」
派手に火を出しておいて私はこれほどの規模の火の扱いが上手くないのだ。
唯一できる火の扱いなんて料理位よ…なんて言ったら彼は盛大にため息をついた。
なんて失礼な
_____わかった…なら俺が火の制御をしてやるからお前は好きに戦え
身体の内側から湧いてくる暖かい魔力が私を包んでくる…これが彼の魔力なのか
少しだけ安心した気持ちのまま私はその姿を変えた
幼女から中身相応の大人の姿へ
さらに長くなった黒髪を左手で撫でるとその手を左耳に触れさせる
少しだけ本気を出したいんだ…これは必要ない
ただじっとぶん殴る相手を見つめて拳を硬く握るだけでいい
「殴る準備はできている
行くわよ…!」
炎によって自然と生まれた影の中で私の真っ黒な瞳だけがそいつを見ていた。
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