見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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51話

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「春風乱舞っ!!」


いつもよりも多い魔力量の技は一発一発がとても重い技になっている

それを受けきるのにも限度があるのは流石にわかっているようだ。

よく見ると、攻撃を防いでいる結界がひび割れてる


「私が…あんな子供の姿をした悪魔なんかに…!」


本当に理不尽だと思う

ただ髪の毛と瞳が黒いだけという理由で私は悪魔族扱いされなければいけないのか…理解できない

なのにあのクソ魔法野郎の隣にいる彼女は違うというのか?



私も異世界召喚者なのに…この差はなんだろう



「………。」

「(チャンス…!)

魔力封じ!!」


しまった…油断している隙にまた魔力を上手く体内で練れなくなっちゃった。

気づけばまた光の檻に閉じ込められてしまったし…これどうしよう


「ふはは…

流石にこれは破れまい!」


疲れきった表情と乱れた呼吸、そしてあの汗の量からしてきっと魔力が残り少ないのだろう

そして真彩さんは…

まさかあんなクソ魔法野郎に寄り添うなんて



「フラットさん…

治癒ヒール!」



しかも魔法で体力回復ですかそうですか

後になって回復しなきゃよかったとか後悔しても知らんからな


「聖女様…やはりあなたはお優しい

そんなあなたのままでいてもらいたい…!」


なんだろう…嫌な予感がする

私のこの嫌な予感というのは結構当たるみたいで、あのフラットとか呼ばれてるクソ魔法野郎は真彩さんの頭を撫でる振りして魔力を手に集めてる。


あの野郎…彼女の記憶を抜き取るつもりだ!


「真彩さん逃げて!!」

「……え?」


私がどれだけ叫んで注意しても遅い

どうしてもっと早く行動しなかったのだろう

後悔しても遅いのにどうして私は歯を食いしばって今の最悪な状況を見ることしか出来ないのだろう

まるで糸の切れた人形のようにピタリと動かなくなってその場に倒れ込んだ真彩さん

私が何度彼女の名前を呼んでも起きる気配はない

そしてあのクソ魔法野郎の右手にあるのは綺麗な水晶球

あれはきっと真彩さんから抜き取った彼女の記憶


「クソ魔法野郎が…人の記憶を抜き取ることがどれほど重罪かわかってるのか!!」


どんなに私が檻の中で怒鳴り散らしても意味は無いことはわかってる

しかし、あんなことをされては怒るのも無理はないだろう

それなのにあいつはこう言ったんだ


「聖女様は私だけを見てれば良い

私だけを頼っていれば良い

私無しでは生きていけない存在にするのだ…!」



本当にあいつは狂っている


記憶を失ってしまえば彼女がどれほどの孤独を感じるかもわかっていない

彼女を覚えている人がどれほど悲しむかもわかっていない。

無意識に光の檻を掴み無理やりこじ開けようとしているこの手

私にもっと力があればよかったのに…!


なんでどうして私はいつもこうなんだ


中途半端な弱さがこんなことになってしまうんだ



力が欲しい




「……!

なんでこんな時に…意識が……!?」






檻から手を離し、ふらつく身体は意識を保とうとすることすら不可能になっていた。

膝をつき顔も地面につけて私は瞼を閉じて意識を手放すことしか出来なかったのだ













どうして私は今になってこんな世界に来てしまったのだろう

空は青く

大地の緑は生き生きとしている

風も優しく頬を撫でて歌っているようだ


「また来てしまった…

真彩さんを救い出そうとしても結局私は…!」


その場に座り込み手を強く握る

たとえ爪がくい込んで血が流れようと関係ない

ただ悔しくてそうしたいと思っているからそうしているのだ。







「無様だな」






その声が聞こえて私はハッとした

聞き覚えのある声だったんだ


振り向いて声の主の姿を探すんだ

そうすれば解決するかもしれないと勘違いをしているから。


「お前がここにいる理由がわかるか?」

「…なんとなく

ここに来ればなんとかなるかもしれないと思ったから」


まっすぐ真っ赤な瞳を見つめて正直に言うと彼は私を馬鹿にするように鼻で笑ってた。

なにがおかしいのか…多分私がバカ正直に答えまのがおかしかったのだろう

その予想は見事に当たり少しだけ身構えた私が本当に馬鹿みたいだ。


「ふっ……こんな人間にあいつは惹かれたのか

知ろうと思えば、思う程不思議な存在だ」


そう言って整った顔をこちらに近づけてじっと見つめてくる赤毛の彼

顔が良すぎるから見るだけで天に召されそうだよ


「(ひっ…顔良!?なにか話題を変えないと…!)

そっそういえば君の名前を教えて貰っていなかった!

君の名前はあるの?」



その時彼の表情は変わった

表情も心さえも無になってしまった気がした。

そして私は理解したのだ


この質問はしてはいけない…と


「ごめん…聞いちゃいけないことを聞いてしまったのね」

「……いや、伝説のドラゴンというのは元々名はない

お前達のように契約を結ぶことは稀であってその中でも名前をつけるのはさらに珍しい…よって俺に名前はない」


なんてサラッと言うのだろう

名前がないって不便だし、自分という存在を証明するために必要なものだと思うんだ。


「名前…欲しいとは思わないの?」


何も考えずに発した言葉は彼を傷つけるものかもしれないのに私は言ってしまったのだ。

気づいた時にはもう遅い

慌てて口を手で抑えているとその様子をみた彼が首を傾げていた。


「ごめん…言葉にもないことを言って」


腰を90度に曲げ頭を下げる

沈黙が続き風の音だけが聞こえて気まずい雰囲気が漂う

そんな空気の中目立たせるように誰かのため息が聞こえて頭を上げた。

呆れたようにこちらを見てる彼の目はとてもまっすぐだった。

不思議だ…彼もこんな目をするんだと思うと少しだけ口元が緩んだ。




「……カナ」



「…え?」


 
予想外だった

まさか私の名前を呼んでくれるなんて思わなかったから 


「あっ…ごめん、驚いちゃって……」

「…さっきから思ったのだが何故お前はそんなに謝ってくる?

お前は俺に何をした…?」


不思議そうな顔をして先程とは逆に首を傾けて聞いてくる彼

その瞬間私の中にあったなにかが吹っ切れて笑ってしまった。


「ふふふ…なんだ、緊張してた私が馬鹿みたいじゃん!」


目の前にいる彼が私の肩を食い千切ろうとしたドラゴンだったから無意識に緊張してたけど、その必要はなかったみたいだ。

生前の彼と魂だけとなりこの世界で暮らす彼は全く違うのだ…今の彼の顔を見ているとよくわかる。


「なんか…すごい穏やかだね

ツキカゲと激しい喧嘩をしていた話が嘘みたい」


その時私は予想してたんだ

この言葉で彼が怒るかもしれないと勝手に考えていたんだ

だけど


そんなくだらない予想は見事に外れたんだ


「そうだな…ツキカゲと喧嘩してたことも、今の俺の心が穏やかなのも全て真実だ。

嘘も偽りも何も無い」


こんなに優しく柔らかい笑顔を見せてくれるなんて思わなかった

胸がキュッと締め付けられたと思ったら段々とポカポカとした気持ちになる


彼はなんて素敵なドラゴンなんだろう



なんて呑気なことを考えいた私だったけど、次の彼の言葉で現実に戻された気がしたんだ。



「そうだ…お前はあの人間を助けたいと考えていたな

どうやって助けるつもりだ?」


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