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46話

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走れ、もっと速く走れ

はやくしないと取り返しのつかないことが起きてしまう

何度もフードを被り直して涙目になりながら目的地を目指した。


私がそこまで焦っているのは、決まって彼がいるから


彼はいつでも美味しそうに食事をする

不意に優しい笑顔を見せてくる

いつでも冷静で本当に辛いと感じる時にしかため息をつかない

感情を表すことが少し苦手で寂しい時は決まって私髪の毛をいじってくるんだ。


そんなツキカゲが私は愛おしくてたまらないんだ

もし彼になにがあったらどうする?


トラブルに巻き込まれないようにしてねと何度と言ってきたし、私もそれに関しては注意してた。

こそこそと動き回って情報を手に入れようとした結果ツキカゲが捕まってしまったんだ。

どう考えたって私が悪い

私がツキカゲに無茶なことを頼んでしまったから…



城が見えた…あともう少しと思ったその時私の目の前に壁が現れたんだ。


「へぶっ!?

いてて…誰だよ……!」


一歩離れて壁全体を確認しようと顔を上げた私は目を見開いた

全身が氷のように固まって動かなくなると今度は壁が動き出した。






「…ったく気をつけろよ」


こいつに会うのは本日何回目なのだろうか…

心の中では荒ぶっているのを決して表に出すことはなくフードを深く被り直した。

暗い中でもわかるウェーブのかかった長髪のシルエット

そして声からして間違いない


こいつはナザンカだ


というか何故こいつは真夜中の街中をぶらついているのか…理解できない


「お前…どこかで会わなかったか?」


明らかにこちらをじっと見つめているのだろうけど

会ってるよ…本日何回目だと思ってんだよ

いや、日付が変わったから本日会うのは一回目か…


なんて言ってる場合では無いのだよしっかりしろ私!!


「すまない、私はこれから急がないといけないんだ!

これにて失礼する!」


こんな所で立ち止まっている暇は一秒も無いのだ

ナザンカの横を通り再び視線を城に移した

あの遠くから見ても目立つ王の住処にツキカゲがいるんだ…早く行かないと






「おいちょっと待て」


何故だ…何故さっきから邪魔が入るんだ

彼の横を通り過ぎようとしただけなのにそれを妨害するのはワカメ野郎の手だった。

マントから伸びる右手を恨めしく睨むと私はそれを振り払って急いでいることを主張した。


「急いでいるんだよ…!

こんな所で立ち止まっていられないの!」


半分キレかかったこの感情を必死に抑えようと深く息を吸うと何か異変に気づいた彼


「お前の声…まさかカーニャ?」


なんて言ってきたと思えば顔を近づけて私の匂いを嗅いでくる…こいつ変態だったのか

もし私が本来の幼女の姿だったら完全にアウトだからな

まあ今の大人の姿でもギリギリアウトだな


「うん…やはりカーニャだ

アプレのお菓子の甘い匂いがする」


こいつ…ツキカゲには劣るけどそこそこ鼻が良かったのか

なんて言ってられない


「そうだよ私はカーニャだ

早く城に行かないといけないんだよ!」


私の匂いを嗅ぐために近づいた彼を突き放し、くるりと方向転換をする

今度こそ…誰にも邪魔されずにツキカゲに会いに行くんだ



「……なんなんだ?」












さっきから良くない感じがする

前に感じた真紅の竜カルマンドラゴンのような大きな気配とはちょっと違う

怒ってるんだけど、まだ理性が残っていてなんとか自身を制御しているようにも感じる


爆発音と僅かに大地が揺れてる…なのに城自体は壊れていない

どんだけ頑丈な造りなんだろうか…

外壁がどこも崩れていないから中の様子がわからない…一体城内で何が起きているんだ?


「(とにかく急いで行ってみないとね…)

影よ、私の姿を隠しあの子の元まで連れて行って

影移動!」


すると光に当てられた多くの建物から生まれた影が反応して私の方にあつまり優しく包み込んできた。

まるで水の中に体が沈んでいくような感覚がして少し怖いが、ツキカゲに会いに行くためにと考えると全然怖くない

目を開き場所の確認をして見ると、ここはまだ城の外壁だ

なんとか壁を登りきったら誰にもバレないように着地点して影の中を移動していく

まるでスライムのように動いているように見えるけど、実際私は泳ぐように移動している


どこも慌ただしいわね…気配察知のスキルを使って見るとわかりやすく魔力を使って暴れているせいか、すぐに場所を特定できた。


どうやら彼はここから200メートル程離れた西の塔という建物の中にいるらしい


「(うーん…何故だろう

西の塔にいるのはツキカゲ以外じゃないみたいだけど…一体誰が?)」


ツキカゲの影のような黒いオーラはわかる…だけどその真反対の光のようなオーラは一体何なのだろう

この城の兵や魔法使いとは違ったとても強い太陽の光のような感じだ

敵意は感じられない…どちらかと言うと怯えている?

どちらにせよ早く行かなくては…!

私は再び目的地を目指して影の中を移動し始めたのだ。










「…………。」
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