46 / 171
44話
しおりを挟む「今帰った」
いつもよりもテンションの低い声でそう言いながらドアを開けた彼
マントのフードを被ってその下から見えた顔にはちゃんとピエロの仮面がついてる
「おかえりなさい…!
こんな時間まで帰ってこないからなにかトラブルに巻き込まれたのかと思ったよ」
ヘラヘラと笑いながら寂しい気持ちを押し殺していると彼が私の前にしゃがんだ。
勝手にフードを外して晒された私の黒髪を見てそれを撫でる…なんでこんなことをするのだろう
「ツキカゲ…?」
「ん…あぁすまん」
なんだろう…話をしないといけないんだけど、なかなか上手く繋げられない
本当に彼はツキカゲなのだろうか?
こんな所で簡単に情報を集められたかなんて言っていいのかもわからなくなる
「あのさ…仕事は上手くいった?」
「…あぁ、なんとかな」
曖昧な答えに声を絞り出して「そっか…」としか言えない私は食事の準備をしなくてはという使命感を思い出したのだ。
今日はツキカゲのためにカルボナーラと食後に酒とツマミの刺身を用意したんだから
「ちょっと待っててね、今からフィットチーネを茹でるから」
「あっ…あぁわかった…!」
………?
やはりおかしい
少し探ってみよう
立ち上がった彼をじっと見つめて鑑定スキルを使うと私は違和感を感じた。
なんだ?こいつのステータスは?
明らかにおかしい…数値も名前も説明も全てがおかしい
そこで私はようやく理解した
「お前は私の相棒じゃない…
お前は誰だ?」
目が痛むほど明るい部屋…なんでこんな所にいなければならないのか
それは時計の針を少しだけ逆方向に回さないといけない
俺様はカナという人間と契約を交わしたドラゴンだ
俺様の存在を知っている人間達は俺様のことを「伝説のドラゴン」と呼んでいる
そんな俺様はカナからある仕事を頼まれた
内容はこの城にある有力な情報を出来る範囲で集めて欲しいとの事
はっきり言って簡単な仕事だと舐めていた
スキルのおかげで影の中を行き来することが出来る俺様はその力を過信しすぎたのだ。
まさか魔力感知の優れた人間が完全に消したその気配を見つけるなんて…化け物なのでは?
いや、化け物は俺様だったな
そして今俺様は影すらない明るい部屋に閉じ込められている
しかし…窓も無ければ物もないこんな寂しい部屋に取り残されるとは思わなかった。
これは一種の魔法空間だな
サポートアイテムとして魔道具を利用した一つの特殊空間を作り出す魔法
確かカナの使っているインベントリもその部類に入ってたような
しかし…どれほどの時間ここに閉じ込められているのだろうか?
かれこれ数時間はここに閉じ込められていて腹が減ってきた…早くカナの料理が食べたい
なんて考えていたら人間が入って来た。
この気配…間違いなくただものでは無いな
後ろにあるオーラが言っている
これは今逃げるべきではない
「やあやあ初めまして…ネズミくん
まさか影の中を移動するスキル…影使いを使う人間がいたとは
あれは悪魔族や伝説のドラゴンの一体である暗黒竜くらいしか使えないと言われていたのですが…
とても面白い人材を見つけましたね」
ニヤニヤと笑う気味の悪い人間は俺様の顔をジロジロと見ていた。
なんだよ…気持ち悪いな
「ふむ…その髪の毛と瞳の色に違和感がありますね
まるで作り物のようだ」
まじかよバレたのか?
俺様の偽りの容姿をじっと見つめて全てを疑うような目をするその人間は俺の顎を掴んで無理やり顔をあげさせるとニタリと笑った。
「まあこれほど整った容姿ならあのお方も気に入るだろうな…
よし、こいつを聖女様のもとに連れて行け!」
その言葉に従い動き出した兵士達は両サイドから俺様の腕を掴んでにがさないよつにした。
ただでさえ両手を拘束されてる状態に加えて両腕を掴んでくるとは用心深いな
確実に逃がさないとでも言っているようだ。
それにしても聖女……か
またカナと同じ異世界召喚者の部屋にでも行くのだろうか
確か名前は…マアヤと言ったか?
「そうだ…お前にはこの首輪をつけないとな」
そう言って見せてきたのは魔法を完全に封じ込める首輪だった
しかもあの紋章……あいつの作ったやつじゃないか
あいつは絶対に自分の魔道具を世に出さなかった…それはほとんどが強力な効果を持つもので悪用されかねないからだ。
それなのになぜこの国がそんな魔道具を所持しているのだ…はらだたしい
「その首輪…どこで手に入れた?」
すまないカナ…俺様が短気な性格だからお前をトラブルに巻き込んでしまうかもしれない
両手の拘束も両サイドの兵士達も俺様を抑えられると思ったら大間違いだ
派手な音と共に壊れた拘束具
少しの魔力だけで吹き飛ばされた2人の兵士
「あーあ…お前のせいでやらかしたじゃねぇか…
こりゃあカナに説教くらって刺身ナシにされちまう」
責任取ってくれよな…この国の大臣さんよォ
1
お気に入りに追加
689
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる