44 / 171
42話
しおりを挟むツキカゲが真彩さんにアプレパイを届けに行かせている間に私は帰る準備をしていた。
と言ってもマントを羽織ってフードを深く被り、まだ残ってるアプレパイを包んでいるだけだ。
まあ…ついでにいい情報を手に入れてくれたら夕食を豪華にするって言ったから帰りは遅いだろうな
それなら先に帰って夕食の準備をしていると念話で送るだけ送るか…
〈ツキカゲ…私は先に帰って夕食の準備をしてるから
今日はフィットチーネを使った濃厚カルボナーラとあんたの好物の刺身をつけてあげるよ〉
まあカルボナーラと刺身は合わないと思うけどね…
ケラケラと笑いながら念話を切ると私は厨房を出ていった。
そういえば…ナザンカと明後日会う約束はしたけど
どこに集合するとか全く決めてなかった
アホだろ私…あれじゃあたまたまあってまた会える日に会いましょうねみたいなすごい軽い女に見られてもおかしくないだろぉ…
「私って…抜けてるよなぁ」
「そうか?
あんなダガーの使い方をするやつは抜けてるとは言わないと思うぞ」
よく言うよねあんたも…
………隣にいるこいつは誰だ?
「…ってナザンカ!?」
「よっ…明後日会う約束はしたけど場所は教えてなかったからな
尾行して職場を突き止めて終わるまで待ってた」
ナザンカはさも当たり前のように言うけどさ…
それってストーカーじゃん
被害届出したら変な目で見られるかな?
「まさか城の厨房で働くなんてな
あそこはとある条件を満たした者からの推薦が無ければ雑用の仕事すらできない場所だぞ
お前が何者なのかわからなくなってきたな」
へー…ナザンカでもわかるってことは常識なんだろうな
まずナザンカのことをよくわかってないから彼をバカにすることは出来ないんだけどね
「何故だろう…誰かにバカにされたような気がするのだが
カーニャ、知らないか?」
「ウンシラナイナー」
カタコトな口調で私は何も考えてませんと主張すれば「そうか…」と呟きながらもこちらをじっと見つめるナザンカさん
あらヤダ怖い
「そうだ…明後日に会う約束はしたけど、場所を決めてなかったね
どこにしようか?」
「そうだな…この都市のメインストリートの真ん中にある噴水が一番わかりやすいかもな
そこでいいか?」
噴水か…そこなら見たことがあるしいいかもな
結果この都市の大通りにある一番大きな噴水が目印となった。
楽しみになってきたな
「あっそうだ…
ナザンカにこれあげる」
ポケットに入っていたある物の存在を思い出してそれを取り出すと私は紙ナプキンに包まれたそれを彼に渡した。
彼の大きな手に乗せられた小さな包みを開くとそこにあったのはまだ温かいバラのアプレパイだった。
「…さっきから強いアプレの実の匂いがすると思ったがそういう事だったのか」
今朝ナザンカに会った時に美味しそうにアプレの実を食べていたのを私はよく覚えていた。
「ありがとうな
俺、昔から甘いものが好物なんだよ」
子供のような笑みを浮かべて美味しそうにアプレパイをその場で食べているナザンカ
甘い物好きは本当のようだ
「気に入ってもらえてよかった…私はこの後夕食を急いで作らないといけないからこれにてドロン…
また会いましょう、ナザンカ」
去り際に顔だけを彼に向けて笑いかけると私はまっすぐ宿に向かって行った。
「おいちょっと待て…宿までついて行く」
「…へァ!?」
不意に肩を掴まれてそう言われたものだから当然声が裏返るほど驚いてしまった。
何故ついて行くんだこいつ…!
ツキカゲはまだ城で情報収集しているからまだ宿にはいないとは思うけど、さすがにこいつの匂いが宿に残ってそれで勘づかれるに決まってる…
あいつ犬よりも嗅覚が優れてるんだもん
「だっ…大丈夫です!
あなたを護衛として雇えるほどのお金を払えませんし…」
「対価?
そんなのこれで十分だ」
私がなんとか言い訳を探したというのにもう十分に払ってもらったと言って前に出したのはアプレパイを包んでいた紙ナプキン
あんなので良かったんか
そうだな…今インベントリにある材料の他に足りない物ってあったか?
卵や乳製品は電子世界で買ってるかるし野菜もお使いのついでに自分達の分も買ったからな…
足りないものは肉だな
「最近、冒険者としての仕事が出来ずに肉とか狩ることが出来なくてね…
だからこれから肉を買いに行かない?」
ニヤリと笑った彼のその表情は一瞬幼く見えた
1
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く


冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる