見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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39話

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今日もまた一日がおわってしまった

長時間椅子に座り続けて腰が痛い

そりゃあ日が昇る前に起きて勉強をして日が落ちるまでそれを続けているからか…


「(お腹が空いた…)」


空っぽの胃になにか入れないと体が動かなくなってしまう

誰も夕食を持ってくる気配はない

仕方がない…厨房まで行ってみよう


簡単なおやつでも作れるかもしれない

少しふらついた足取りで厨房を目指すとなんだかいい匂いがする

甘いりんごの香りとパイの匂い

誰かがおやつでも作っているのか?

こっそりと物陰に隠れて見てみると人が三人いた

料理長と他の二人は誰だろう?

茶髪に青い瞳…兄妹なのか


そして彼らの手元には出来たてのアップルパイがある

なんて綺麗な焼き色なんだろうか…ただでさえお腹が空いているのに余計にお腹がなってしまいそうだ。







「あの…」

「!?」


背後から聞こえた声に驚き反射的に振り向くとそこには先程まで厨房でアップルパイを食べていた少女がいた。

近くで見るとわかる…この茶髪と青い瞳が顔に似合ってない気がする

いや、それよりもどうして私の存在に気づけたのか知りたい


「あっ…えっと……」


……本当に私はどうして初対面の人を前にすると話すことが出来なくなってしまう

今以上に私のコミュ障を後悔したことはないと思うよ

気づけば少女だけでなく少年の方もこちらに来て私をじっと見つめていた。


「厨房になんの用か?」

「えっと…その……」


お腹が空いたから厨房に来ただけ

そう言いたいのになかなか口から出ないこの言葉

すると言葉にすることが出来ない私の代わりに空腹を知らせる音が私のお腹から鳴った。

なんて恥ずかしいのだろう…


「…なにか作りますよ

丁度あのアプレパイの他にカルボナーラを作るつもりでしたから」


ニッコリと笑って一切れのパイを差し出してきたのは少女だった。

なんて美味しそうなアップルパイなんだ

一口サイズに切り取って口に運べばわかるこの美味しさ

自然と涙が出てきた

こんなに美味しいものを食べたのは久しぶりだ


まるで故郷を思い出す

故郷を思い出せば家族を思い出す

そして家族を思い出したら……



「なぜ…泣いているのですか?」




「……え?」



いつの間にか頬が濡れている

私は泣いていたのか…?

それを理解した瞬間私はボロボロと涙を流していた。

止まらない…止め方がわからないのだ


「……なにかあったのですね

少しだけお待ちください」


なにかを察したように優しい手つきで頭を撫でて優しい声で私に言う少女は私から離れて棚からなにかを出している。

ダメだ…泣きすぎて頭が回らない

皆がなにをしたいのかもわからない

ぼーっとしたままアップルパイを食べていると少女がなにかを持って戻ってきた。

ポットとカップ…紅茶を飲むために用意したのか

この場にいる四人分のカップを用意した少女は程よい温度の紅茶を淹れてみんなに振舞っていた。


「砂糖とミルクは皆さんのお好みでどうぞ!」


そう言った少女の顔はとても可愛かった

とても純粋で優しくて私なんかよりもよっぽど…

いや、そんなことを考えるのはやめよう


「あっ…ありがとうございます」


小さな声でお礼を言って淹れてもらった紅茶を一口飲んだ

なんて香りの良いんだろう

甘いアップルパイにぴったりな渋みのある紅茶を選ぶなんてこの少女は本当に優しい


「しかし…まさか聖女様がこんな所に来るとは思いませんでしたよ

食事だったら運びましたのに…」


聖女…それはもう私には相応しくない称号なんだ

私はもう聖女では無い

いや、最初から聖女ではなかったのだ

下を向き震えてカップの水面が揺れて私の顔が歪んて見えた。




「聖女…?

私には普通の綺麗な女性に見えます」

「…え?」


今、少女はなんと言った?

私が普通の人間に見えるのか

複雑な気持ちだ

嬉しいような悲しいような…腹立たしいような?

すると料理長は青ざめた顔をして少女の肩を掴んで揺らしていた。


「なんて失礼なことを言うんだカナ!

お前不敬罪で死んでも文句は言えないぞ!?」


……カナ?


彼女の名前…なんだか懐かしい響きがする

故郷にそんな名前の人がいたな






「えっ…カナって言った?」

「はい言いました

正確には山下加奈と言います」


その瞬間私は目を見開きカップを雑に置いて今度は私が彼女の肩を掴んだ。

見つけた…彼女もまた異世界から来た私の同士なんだ


「えっと…聖女様?」

「……真彩

私の名前は佐藤真彩だ」


私はつい自分の本名を名乗ってしまった

今、私はどんな顔をしているだろうか

仲間に会えた嬉しさが顔に出ているか?

それとも心の中に秘めた別のことを考えていたか?

あるいは両方か


ふと彼女の顔を見てみると私は言わなきゃ良かったと後悔した。




どうしてそんなに絶望したような顔で私を見るんだ?




気づいたら彼女を突き放して厨房を出ていってしまった

なんでこんなことをしてしまったのかわからない

だけど…

私はこんな所にいちゃダメだとなんとなく察してしまったんだと気づいた。

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