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38話
しおりを挟む市場での買い物を終わらせた私は仕事場である城の厨房に戻って来た。
「ただいま戻りました!」
「おうおかえり
今ツキカゲが一人で凄まじいスピードで皿洗いをしてるから手伝ってやってくれよ!」
帰ってくるなり皿洗いをしてくれと言われた私は袖を捲りあげてツキカゲの隣に立った。
「ツキカゲ、あとはこの皿を片付けるだけ?」
「ああ、拭き取って棚に片付けてくれ」
言われた通り洗われた皿の水分を丁寧に拭き取り一枚ずつ棚にしまえば仕事は終わり
少し休憩して今度は昼食の準備をするのだ
「はぁ…カナの作るものが食べたい」
そうツキカゲが呟くのも仕方ない
なぜなら今、昼食として食べてる物は弾力もなければ大して美味しくないただのパン…
確かに城の者のために昼食を作って大量の皿を洗い、空っぽの胃に収める物がこんなパンだと辛いものがある
ジャムのひとつでもあれば良いのだがそんなものこの国で作れるわけが無い。
私の世界にあったジャムを出そうかとも考えた…だけどやめましたよ。
その他にも私がこの場でおにぎりでも出して食べようかとも考えた
この国では米は鳥の餌であり人間が食べるようなものでは無い
おにぎりの原料が米だと判明した瞬間、変人を見るような目で見てくるだろう。
「まあ…しばらくはパスタかパンだね
パスタも色々種類があるから飽きないと思うよ?」
「そうだな…
そういえば前にフィットチーネというパスタを使った料理が美味かったからそれが食べたいな」
なるほど、ツキカゲはスパゲッティよりもフィットチーネの方が好きと…。
実際私もフィットチーネの方が好きだからそこら辺の好みはツキカゲと合うのかもしれない
よし…今日の夕食は濃厚ソースが良く絡むフィットチーネのカルボナーラを作ろう。
「ほう…それは他国の料理か?」
「さも当たり前のように話に入ってこないでくださいよ料理長…」
なに勝手に私達の話を聞いているんだこの人は…。
呆れてため息をついていると料理長はケラケラと笑ってツキカゲと肩を組んだ。
うわぁ…すごい嫌そうな顔をするなうちのドラゴンは
「まあまあ!
……で、ぶっちゃけカナの料理は美味いのか?
いや~まだカナが料理をしているところを見たことないからな」
まあ確かに私はまだこの厨房で料理はした事ないよ…
そしてこのツキカゲの表情よ
私の方を見て言ってもいいか?と聞いてきている気がする
まあここでまかない料理を作るのもありかもしれないな
例えばこの小麦粉や冷蔵庫に入っているバター
そしてデザートに使われたと思われるりんご…
「うん…これなら簡単なおやつくらい作れるかもね」
ニヤリも笑って材料を手に取ると、料理長は首を傾げていた
「あんなんでなにをするつもりだ?」
「料理長…カナの好きにさせて欲しい」
私は手を洗浄して料理するに相応しい格好になると早速始めることにした
まずは小麦粉とバターを使ってパイ生地を作ろう
小麦粉をあらかじめ降るっておいて、2センチ角に切ったバターは冷やしておく
そして振るっておいた粉に冷やしたバターを入れて切るように混ぜる
バターがひと回り小さくなったら冷水を入れてさらに切るように混ぜる
水魔法で冷えた水をだせる私にしか出来ない技だね
「カナって魔法が使えたんだな…
皿洗い係にするのがもったいない」
「魔法が使える・使えないで物事を判断しないでください
それに私は大して水魔法が優れている訳でも無いので…」
苦笑いをしながら工程を進めていくと、一度冷蔵庫で冷やした後
ここがパイ生地作りの楽しいところとも言える
そう…綿棒で伸ばしていく作業だ
生地を伸ばして三つ折りにしてまた伸ばす
そうして色が変わってきたら伸ばすのをやめて生地をまた冷蔵庫に入れて寝かす
………あ
「しまった…生地を寝かすのに時間がかかることをすっかり忘れてた
これでは昼休みが終わってしまう」
「なっ…!?
ではおやつは無しなのか?」
すごい辛そうな顔をしてこちらを見てくるツキカゲにすまないと言って頭を撫でると私は考えた
どうにかならないものか…
結局私はツキカゲを大人しくさせるためにネットショッピングで買っておいた一口サイズのチョコを無理やり口に突っ込んで今日の仕事が終わるまで待っていて欲しいと言った。
それまでツキカゲだけでなく料理長もそわそわしていたのは無視してもいいよね?
……ダメ?
今日の仕事は終わらせた
皿も全部ピッカピカの綺麗だ
そして私とツキカゲと料理長以外に人はいない
あれを作るなら今がチャンスだ
「まずは冷蔵庫に入れて寝かせたパイ生地を取り出します」
「待ってました」
真顔で言わないでもらいたいそこのツキカゲさんよぉ…
まあそんなことよりも今は料理ですよ
……というかお菓子作りだな
「はーい今回作るのはみんな大好きアップルパイです」
「アップルパイ?なんだそれ」
ツキカゲの質問に俺もわからんと言ってくる料理長…
なるほど上手く私の言葉が自動翻訳されていないのか
確か…この世界でりんごってなんて呼ばれていたっけか?
その時私が思い出したのはくすんだ緑髪の彼だった
_____ほう…アプレの実か
思い出した、アプレの実だ
記憶の引き出しから引っ張り出してきたその単語を言うとすぐに頷いて理解した二人はアプレの実をじっと見つめていた。
では気を取り直して…
アプレの実を水で洗って皮をむき、8等分に切る
そしたら切ったアプレの実に砂糖とバターとレモン汁を入れて中火で炒めます
砂糖が溶けたら蓋をして10分程煮込む
「……10分経ったぞ」
相変わらず料理に関することになると正確に時間を測るのがうちのドラゴンだ
内心ため息をつきながら表ではありがとうとお礼を言って蓋を開けると木べらで優しく混ぜながら水分を飛ばした。
「水分がなくなったらどうするんだ?」
「そしたらバターを入れますそしてまた水分がなくなるまで炒めます」
バターを入れて優しく混ぜること数分
ようやく水分がなくなって完成……では無い!
アプレの実はこのまま冷ましておきます。
「ここでようやくパイ生地の出番です」
あらかじめ買っておいたパイ型に生地を入れて形を作ります
そして底の部分にはフォークをさして穴を開ける…いわゆるピケってやつだな。
そしたら冷ましておいたりんごを放射状に並べていく
これだけでも綺麗だなと思うけどまだ完成ではない。
そしたら残ったパイ生地をカットして並べたアプレの実の上に格子状に編み込んでいく
ただ乗せる訳ではないからな。
「そしてら外側を折り込んでツヤ出し目的で卵黄を塗って…」
「……完成か?」
気が早いぞ料理長
私が作っているのはアップルパイだぞ
最後にオーブンで焼くまでがセットだから!
オーブンで焼く…良かった魔石で温度調節できるタイプのやつがあった
まずは二百度に温めておく
そしたらパイを入れて二十分焼く
今度は百八十度に下げてまた二十分やく
この温度調節が大事なんだと誰かが言ってた気がする
よし……とうとう完成した
「アップルパイ…じゃなくてアプレパイの完成じゃぁぁぁぁ!!」
「「よっしゃァァァァ!!」」
テンションが最高潮にまで達した私たちは完成したアップルパイ…ではなくアプレパイを見つめて感動していた。
「これがアプレパイ…なんて美しいのだ!」
「カナはこんなものを作れるのか!?
天才じゃないか…」
まだ食べていないというのにこのテンションの上がりようである
「いいからさっさと食べようよ…
せっかくのアプレパイが冷めちゃう」
まあ冷めても美味しいのがこのパイの良いところだけどね
綺麗に切り分けられた黄金に輝くアプレパイは甘い匂いが鼻から脳へと伝わってきた
早くこれを食べろと誰かが訴えかけてくるようだ。
「ではいただきます…」
フォークで一口サイズに切り取り口に運んだその瞬間サクサクのパイとトロトロのアプレが広がった
程よい甘みと酸味のバランスが良いアプレの実じゃないとこんなのは作れない
つまり、何が言いたいかと言うと…
「めちゃくちゃ美味しい…!」
ということだ
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