37 / 171
35話
しおりを挟むそれから話は更にスムーズに進んだ。
トルマーさんがこの国の地図や通常ルートでは手に入らない下水道の地図まで用意してくれたり、他にも首都に暮らす友人がいるから連絡しておくと言ってくれたり…
もう至れり尽くせりだよ
「よし、ではこの作戦でいきましょう
ツキカゲも頼りにしてるわよ」
「……カナのためならなんでもやる」
相変わらずのようで安心したよ
そして私は最後にトルマーさんにここであったことを秘密にしてくれるように頼むとそれを快く了承してくれた。
「君達の幸運を祈るよ…
そして無事に帰ってきてまた会えるのを楽しみにしている」
本当にこの人は優しすぎるよ
なにか裏があるみたいで……怖いな
「ありがとうございます
ではいってきます!」
不安と期待が心の中で混ざるこの感覚を私はよく知らない
だけどよくわかることがある
それは身体の奥底から湧き上がるこの熱い感情だ
これはきっとわくわくというものなのだろう
「えっと…君達が新しく雇われた料理人ね
いくらあの方の推薦でも雇って一日目の君達が食材を触れるかと言ったらノーだ
まずは皿洗いから頼む」
「はい!」
ここは首都アルバの中でも核の中
つまり城の中だ
「これも頼む」
「はいっ!」
と言っても料理人の活動場所でもある厨房で皿洗いをするだけだが…
どんなに頑固な汚れはこっそり魔法を使って落としてる
というのも料理人に魔法が使える人はいないらしいからもしその程度の魔法が使えたら別の部所に異動されるから
ここは慎重に行動するべきだと判断した結果だ。
ちなみに完全に魔法が使えない訳ではなく、魔石の力を僅かに操れる程度の人がほとんどらしい。
さてと…そんなこんなで皿洗いも終わって今日のお仕事は終了だ。
普段城の者のために大量の食材を用意して作って下げられた皿を私が洗う…それが一日に三回繰り返される
これだけでも疲れるのだよ
ついでに言うと皿の管理も私とツキカゲが担当する
「カナ、この皿はもう洗われたやつか?」
「うん!とりあえず棚に閉まっておいて
そしたら先に外で待っててよ」
一度手を止めて皿をしまう棚を指さすとすぐに理解をして皿をしまい始めてくれた。
私は再び残りの皿を洗うと布で水分を拭き取った。
「おつかれさん
今日はもうあがりでいいよ」
「はい、ありがとうございます!
ではお先に失礼します」
しっかりと料理長に挨拶をして先にあがらせてもらうと途中でも先輩にあたる人達もまた明日ねとか言って手を振ってくれた。
今日一日働いて思ったのだが…
この厨房の人達、めちゃくちゃ優しい
異世界召喚されたばかりの私を侵入者と勘違いして牢屋に入れてきた人達とは大違いだ。
そういえばドラゴンの姿のツキカゲを見ただけでビビる王様なんかもいたな…
あんなんでよくこんなでっかい国を治められるよね
「おまたせツキカゲ!」
「……帰ったらなにか作ろう」
相変わらずな様子のツキカゲに抱きついた
本当にこの子はいい子だよ
帰路の途中で買い物をしてそれでデザートだけでも作ってあげるか
「おいお前ら」
後ろから声が聞こえて振り返ると私は少しだけ顔をしかめた
なんだよあのいかにも悪役ですと言っているような顔は
しかもニヤニヤしてる
こいつらは何者なんだ?
そして一体なにが目的なんだ?
「お前らまだ仕事が残ってるぞ
こんな所でサボってんじゃねーよ!」
なるほどだる絡みか
どうみたって彼らは厨房にいた人間ではない
ということは別の部所の人間というわけか
「なんだと思えば…厨房とは違う部の人間がなんのようだ?
俺様達はこれから帰るところなんだ
だからそこどけ」
どうやらツキカゲもイライラしているようで口調が荒く、一人称が「俺様」になっていた。
これはまずいな…
ここで暴れたら事件どころじゃなくなる
災害だよ大災害になるよ
「ツキカゲ落ち着いて…」
どうにかなだめようと彼の手を握っているところを見た奴らはそれを面白くないと思ったのだろう
勝手に私の腕をとって引っ張ったかと思えば自分の胸に私の顔をくっつけて自分のモノのように扱ってきた。
なんだよこいつ…臭いな
人がやってきたことに対して辛辣なコメントしか浮かばない私よりも気にするべきなのはツキカゲの方なのかもしれない
もうブチ切れ寸前の顔だ
見たまんまだとすごく冷静な表情に見えるが、オーラが全然違う
さてと…この状況をどうするべきか
ため息をついた私はその腕を払うと素早くツキカゲの背中に隠れて耳元でこう言った
「変装を維持する魔力が残り少ない…
早く宿に戻らないと…!」
その瞬間ツキカゲの表情が変わった
素早く私を抱えて足に力を入れると一気に跳躍をする
それは通せんぼをしていた人間を軽々と越えてしまうほどの高さでよく顔を見たらあんぐりと口を開けていた。
綺麗に着地をするとそのままダッシュをして近くの宿に向かって行ったのだった。
1
お気に入りに追加
689
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる