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34話
しおりを挟む「さてと…そこに立ちっぱなしなのもよろしくないね
早く中に入ってお話をしようじゃないか」
自然と背筋が伸びるほど緊張するその空間は私が入ってもいいものか迷う程で少しだけ怖かった。
それにしても、何故受付嬢さんは私達をギルドマスターの所まで連れてきたのだろうか?
そんな疑問を抱えながらも素直に指示に従い客用の椅子に座ると、その数分後にお茶とそれに合う茶菓子が出てきた。
「突然連れてこられて驚いただろう?
すまない、だけど仕方が無かったんだよ」
なにを言っているのかわからないその発言は私の頭を混乱させるだけだった。
この人は一体なにを言いたいのか?
そしてその顔は見たことがある気がするのだ
トルマー・エンジン…その姿はとても高貴なもので動作のひとつひとつが上品で、紅茶を持つ手や飲む仕草、私達を見るときの目の動かし方なども全てが綺麗だ。
「まずは君達の名前を教えて貰ってもいいかな?」
そうだよ…まずは自己紹介からしないとダメだよな
慌てた私は座っていた椅子から立ち上がり緊張しながら自己紹介を始めた
「初めまして、隣国のヘンリー王国から来ましたカナといいます!
こちらは私の相棒の…」
「ツキカゲだ
俺様は長い話が好きじゃないんだ
手短に願おう」
こいつはまたなんて失礼な態度を…
いつもの口調に戻ってるツキカゲの口を無理やり塞ぎ彼の無礼を謝ろうとした時、トルマーさんは大丈夫だと答えた。
なんて広い心の持ち主なんだ…ロキシーさんとはまた違った優しさがある
確かに彼も優しい人だったけど、はっきり言って上品さはトルマーさん程はなかった。
「わかりました…ではこちらも少し口調を崩しましょうか」
ははは…と笑っているトルマーさんなんか可愛いな
時々いるかっこいいおじ様のようだ
そしてそんなおじ様も笑う時はめちゃくちゃ可愛いというあれだ。
「そういえば…何故私達をお呼びになったのですか?
私達はただ、受付の方に探し人の特徴を言っただけなんですけど…。」
するとトルマーさんの顔は真剣そのもので妙な緊張感が漂った。
「君達が探している人物…
それはきっと異世界から召喚された聖女様だね」
やはりそうだったのか…私が探していた彼女はそのまま聖女様として頑張ってるんだ
私もあの場にいたはずなんだけどな
無視された挙句に勝手に城に入り込んできたネズミ扱いされて牢屋に入れられるというね…。
まあお陰様でツキカゲに出会ってこうして生きていられるんだけど
それにしても聖女様か
どうしてヘンリー王国に来てたんだろうか?
お忍び…とは言えないよなあんなに沢山の人が影で護衛してたわけだし
「この宗教国家トーマス帝国は名前の通りトーマス教の指導者のトップでもあるイーヴォン=ゴルムが治めるとても大きな国
彼は治安を良くするために東西南北の地域に分けて冒険者ギルドの設立と兵団の設置を命令したのだ。
これも全てトーマス教が崇める神
トーマス・アルバ・エジソンのお告げだからね…」
なるほど…やはり彼が関係していたというわけか
トーマス・アルバ・エジソン
それは私の時代ではとんでもない発明品の数々を作り現代に大きな影響を与えた偉人の一人である。
まさかとは思うが彼が死んでからはこの世界に転生したとか言わないよね?
あまりにもすごいことをして神扱いされたとかだったら有り得るよな…
「それで…その神を信仰しているこの国がどうして聖女様を異世界から呼び出すのでしょうか?」
するとトルマーさんは少し下を向いた
「この国が信仰している神も、この国が召喚した聖女様も同じ異世界という神聖な世界から来た者だからなんだよ
聖女様の持つ力は神の使いとして恥じぬ力を持つと言われている
聖女がこの国の繁栄を祈ればその願いは神であるトーマス・アルバ・エジソンに届きその年は災害に巻き込まれることもなければ病気が流行ることも無くなる…
聖女様というのはそういうものらしいのだよ」
聖女がそれほどの力を持つ…というより異世界から来た私やその聖女はとんでもない力を持っているというわけか
ここで法則のようなものが生まれた
異世界から来た者はこの世界からすれば神の力に等しいというものか…
いや、私召喚されたと同時に縮んだんだけど!?
15歳程若返ったんだけど!?
スキルがないと酒すら飲めないんだけど!?
なんて心の中で叫んでも意味は無いか…
「それに今のこの国の政府はピリピリしている
だからあまり城の周辺をうろつかないようにしてもらいたいよ
と言うよりもあまり首都に近づくこともおすすめしないね」
なるほど…トルマーさんがここまで言うなんて
政府がピリピリしている……か
1番気をつけないといけないのはその政府達ってことね
「まあ…私が探している人がこの国の聖女様だということはわかりました
となると会いに行くのも難しいですね…
それに異世界召喚者が神に等しい力を持つと言われているのなら私の身も危ういわね……
ツキカゲ、どうにか彼女のもとまで行けないかしら?」
「あっ…あの?」
「そうだな…相手は俺達とは相性の悪い光魔法を使ってくる
まあこちらも相手からしたら相性の悪い闇魔法を使ってくる厄介者だけどな
いつも以上に気を引き締めるか」
着々と話しが進む様子を見て動揺を隠せないでいるトルマーさん
何故そんなに冷静でいられるのか、そして何故そこまでして探し人に会いたいのか理解できないと言っているような顔だった。
それもそうか
今私達が話してるのは誰がどう見ても、聖女に会いに行くと言っているようなものだから
「君達は何故そこまでして聖女様に会いに行こうとするのだ?
とても理解できない」
理解できないか……でもそうだよね
その理由は私達だからとしか言えないからな
「カナ…こいつなら信用しても大丈夫な人間だ
今くらいはあの姿に戻っても問題ないだろ
それに魔力のムダだ」
ほう…言ってくれるねこのドラゴンは
確かにトルマーさんは確実にいい人だ
それは私の目で見ても、スキルで見てもそうだ
「そうね…この人なら問題ないわね」
にっこりと笑って身体の力を抜くとどんどん本来の姿に戻っていくような感覚がした。
閉じてた目を開けて自身の手を確認するとそこにはとても小さくて可愛らしい手があった
長い後ろ髪を前に引っ張って黒髪だということを確認したり
ぺたぺたと顔を触って子供特有のもち肌を確認した。
よし、上手く元に戻ったようだ。
ツキカゲの方を見れば本来の姿までとは言わないがいつもの黒髪と金色の瞳に戻っていた。
「君達は……!
なるほどそういう事か」
何かを察して理解したトルマーさんの顔はとても優しくてそれでいて嘘偽りのない瞳をしていた。
「では改めて自己紹介を…
私の名前は山下加奈
異世界から来た日本人です!」
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