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32話
しおりを挟む「はいグラモフォンに到着っと…」
トーマス帝国の首都ともいえるアルバでのおつかいクエストを終わらせた私とツキカゲは活動拠点グラモフォンに帰って来た。
それにしても…気になるな
「あの…どうして私達におつかいクエストを勧めたのですか?
確かにここに来たばかりで土地勘も全くない私達にとってはこの土地を知るいい機会になったのですが…」
すると受付嬢さんは笑ってた
今の発言のどこに笑い要素があったかなんて全く分からない
「ふふ…申し訳ございません
理由は先程あなたが言った通りこの土地…というよりこの国に慣れてもらうためにわざわざ首都のアルバまで行かせたのです」
ニコニコと笑いながらもアルバはどうだったかと聞かれて私は腕を組んだ。
アルバ…確かに高級感のある上品な街並みだったとしか言えない
とりあえず謎の敵意を向けられたことは秘密にしておこう
しかし、トーマス帝国にはじめて来たからという理由でおつかいクエストを勧めるとは
意外とヘンリー王国よりもそこら辺優しいのかもしれない
まあ私はあちらの国が国外から来た冒険者にどんな対応をとるかなんて知らないが。
「まあ…お陰様でこの国にも慣れそうです
ありがとうございます」
今日も1日頑張ったから疲れた
さっさと宿に帰って夕食を作るか…。
「ツキカゲ~今日はミノタウロスのステーキにしない?
たまにはガツンとしたものを食べないとやってられないもん」
「それはいいな…ソースはおろしポン酢にしてくれ!
あとは食後にプリンが食べたい
前に食べたことがあったがあれは美味だった!」
料理の話になった瞬間口を開いてペラペラと喋るこのドラゴンは…
今度ドラゴンの姿になった時を狙って尻尾をちょんぎってやろうかしら
そしてその尻尾の肉を美味しく料理して…。
いや、やっぱりやめておこう
貰った報酬をすぐに懐にしまいギルドを出ると背伸びをして少しだけリラックスした。
「宿に帰ってらご飯を作って…
汗でベタベタだからシャワー浴びよう」
この世界の風呂事情はどうかは知らないけど、最近体を洗う時に色々と思いついたことがある
まずは体を濡らして普通に体を洗い、それを水魔法で流して闇魔法で全部処理するというもの
闇は魔力の込められたものならなんでも食べる性質があり、魔法で出した水と一緒に泡を流せばそれを食らうというものだった。
なぜそんなことが出来るのか調べたらどうやらそれは水に理由があるらしい
水に入った魔力を闇がくらおうとするというもの
大変便利で驚きました
「…なんてことを考えてたら宿に着いてしまった。」
その宿の名前を「ツバメの巣」
世界を旅する私達にとってはぴったりな宿だ
部屋の鍵もしっかりとしており2人分のベッドにクローゼット、トイレもあって1泊銀貨3枚
日本円に直せば三千円と言ったところ
普通にいい宿だと思うよ
清潔感のある壁に天井に床だしね
それに宿主である老夫婦もとても優しい
「ん?何を考えてたのだ?
もしかして新しいスイーツか!?」
んなわけあるかよ…
まったく、このドラゴンにはいつも呆れてしまう
もし真紅の竜がこんな様子を見たらなんてリアクションをするのだろうか?
いや、今はそんなことよりも夕食だな
宿主に挨拶をしていつも通り部屋に荷物を置いたら厨房をお借りしよう
「ただいま戻りました~!」
「おう…おかえり
悪いが今日は厨房が使えないんだ…後処理をするなら外で焚き火をしてもいいから外で飯を作って食ってくれないか?」
なんと…今日は厨房が使えないのか
不思議に思って周りを見ればすぐに納得した
今日はお客さんが多いのだ
冒険者もいれば街の衛兵達もいる
うーん…外で火を使っても良いとは言われたけどBBQセットは使えそうにないな
どうしたものか
ツキカゲのためにも今日はミノタウロスのステーキを作ってやりたいし…
「よしツキカゲ…今から森に行くぞ」
「…は?」
夜空にきらめく星の海
あまりにも綺麗で見とれてしまう
「おい、ステーキが焦げるぞ!」
そうだった…今は上ではなくて下を見なければいけないんだった。
私達がいるのはグラモフォンから少し離れた森の中
なぜこんな所にいるのか…それには理由がある
先程、宿主に厨房を使わせてもらうための許可をもらおうとしたら今日はお客さんがいっぱいいて厨房の方が忙しいからと拒否されてしまったのだ。
代わりに外で火を使ってもいいと言われてしまったけど…
残念ながら私には薪を組んで火をつけてそれ料理することが出来ないのだ。
いつもは人気のない場所を探してBBQセットを使って作るのだ。
仕方が無いのでミノタウロスのステーキを諦めますなんてツキカゲの前で言える訳もなく、ステーキのために私達は森に来たのだ
こんな魔物が出てきそうな夜に!!
「いくらツキカゲが結界魔法を張ったからと言ってもやっぱり怖いわね…」
「安心しろ…ステーキを食べる為に頑張ってるカナのためなら俺様は何でもする
ちゃんと米も炊いたしな!」
さも当たり前のように言う彼に感謝をしながら焼き加減を見ていると肉のいい匂いが鼻を刺激する
やばい、腹の虫がさっきからうるさい
「……まだか?」
「まってもう少し…。
よし、完成!」
香ばしい肉の匂いがこれでもかというほど香ってヨダレが止まらない
この肉を早く食らえと脳が言ってる
テーブルにそれを置けば白いご飯が隣に置かれた…ツキカゲが炊いたご飯だ。
茶色い至高の1枚肉
真珠のように輝く米
そして彩り野菜のサラダ
まさに最高の食事だ
「じゃあ…
いただきます!」
両手を合わせてこれからいただく命に感謝をしながらナイフとフォークを手に持つ
すっと簡単に切れた肉の段目は綺麗な赤色
それを口に入れた瞬間広がる旨味と肉汁
「最高」以外に思いつく言葉が見つからない
「美味い…!
このおろしポン酢があるからどんどん胃に入る
最高以外の言葉が思いつかんな」
ツキカゲも全く同じことを考えてたよ
でもそれくらい美味しいってことならこれを作った者としてとても嬉しいってものだ
腹と心を満たした我々がすること…それは
「使った食器や調理器具の片付け…水魔法で汚れと一緒に闇に食わせたら何故か食いつきがいいんだよね…
なんでだろ?」
「それは謎だな…
まさか闇に自我が芽生えたとでも言うのか?」
他愛もないことを話して後片付けをするのだ
こんな幸せが続くか…なんてわけもない
ただそのことを知ってたうえでこの一瞬の幸せを噛み締めるしか私には出来ないのだ。
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