33 / 171
31話
しおりを挟む「うーん…確かこの辺にいるって聞いたんだけどな……。」
人々が集まるここは建物の清潔感や上品さが相まって謎の高級感があり、場違い感が酷い。
だけどこれも仕事のためだから耐えないと
このトーマス帝国の中心部でもある都市名前を「アルバ」
先日、活動拠点でもある街グラモフォンで受けたクエストの内容が……
「グラモフォンからアルバまでのおつかいクエストでそろそろこの荷物を受け取る人が来るみたいだけど…
道のりも別にキツくはないし税金払ってこの都市に入った訳でもない…なにか裏がありそうね」
そんな謎だらけのクエストなのにどうしてギルドの受付嬢さんはそれを勧めたのだろう?
「まあいいじゃないか…
もしかしたらここで求めていた情報を手に入れることが出来るかもしれないからな」
なんてことをツキカゲと話していたらようやく荷物の受け取り人と合流することができた。
見た感じ長年一人の主に仕えてきた使用人って感じがするけど…
「荷物の配達感謝致します…
こちらは報酬のおまけです」
と言って渡してきたのは冒険者には嬉しいポーションの材料になる薬草
後で薬屋に持って行ってポーションにしてもらいますか
「わぁ…ありがとうございます!
あっそうだ…私、とある女性を探しておりまして」
人探しの情報はこういうところから手に入れるのがいい
「一体どんな人をお探しで?
私はそれなりに人との関わりがあるのである程度の特徴を言ってくださればもしかしたらわかるかもしれません…。」
なるほど…なら私が知ってる特徴を全部言うとしよう
「私と同じ位の年齢の女性で少し暗めの茶色の髪と瞳でこの2つの紋章がついた服を着ている人なんですけど…」
そう言ってこの国で買った2つの旗に描かれたマークを見せたその瞬間薄く開いていた目がぱっちりと開かれた。
それは誰がどう見ても驚きの表情で自分の耳を疑っている様子も見られた。
「…あなたはこの国の者ではありませんよね?」
「えっと…まあ、はいそうですけど?
私とそこにいる仮面をつけた彼は隣国のヘンリー王国から来た者です
いつも通り仕事をしてたらさっき言った特徴の女性と出会って…忘れられなくてここまで来たということです」
事情を説明すればなるほどと呟いて考える素振りを見せた使用人は私に謝ってきた
「申し訳ないがあなたが探している人物は存じ上げておりません…
それでは私はこの荷物を一刻も早く主様の元に届けなくてはいけないのでこれにて失礼します」
「えっ…ちょっと待って…!
……逃げるように帰っちゃった」
なにをそんなに恐れているかはわからないけど一つだけわかるのは、私達はこれからとんでもない事に首を突っ込んでしまうかもしれないという予感
「ツキカゲ…もう少し慎重に調べていこうか」
「……そうだな
明らかにあの人間の態度はおかしかった。」
残された我々は呆然としながらも少し冷静になって、あの使用人の態度を思い出しながらとある推測をすることにした。
あの態度からして私が探している人はかなりの有名人だな
それにあの様子からしてその人物を恐れているようにも感じられた
あの女性は一体なにをしたのか…
考えれば考えるほど頭が痛くなりそうだ
「……1度グラモフォンに帰りましょうか」
この都市にいるのは少し危ないと思える
さっきから私達を見る視線がまあ痛い
出来るだけ平静を装って歩いてこの街を楽しむように周りを確認しよう
帰る途中にある広場の噴水なんて清涼感があっていいなとか
この国の名物のお菓子は美味しいなとか
旅人のように絶対に怪しまれない行動を取るんだ。
なのにどうしてだろうか?
「(まだ私達のことを監視してる…一体なにが目的なのかさっぱりわからん)」
未だに感じる視線が痛いから怖いに変わって嫌な感覚が身体中に流れている気がしてならない
嫌だな…気持ち悪くなってきた
「……カナ、少しだけ辛抱してくれ」
ツキカゲのその言葉が聞こえた瞬間彼は私を軽々と抱き上げて早足でグラモフォンを目指した。
石畳の道の色が変わって都市からかなり離れたことがわかる
しかしどうしてあの時気分が悪くなったのか…
「カナ、体調は大丈夫か?」
森に入って木陰で足を止めたツキカゲは私を降ろして肩を掴むと酷く心配そうにこちらの顔色を見ている…そんなに今の私は顔色悪いのか?
確かに思考も少しおかしくなってきて考えることとかが苦しくなったけど
「私は大丈夫…でもどうしてそんなに心配そうに見てくるのよ
そんなに私の顔色悪かった?」
戻りつつある調子で、出来るだけテンションをいつも通りに戻して聞けば彼はホッとした様子だった。
いや、彼がこうやって心配してくるのだってなにか意味があるはずだ。
例えば先程痛いくらい感じた視線とかが原因になる可能性だってある
「お前…光魔法の影響を受けて体調を崩したんだ
俺も少し気分が悪かったからな」
光魔法…そう言えば闇魔法とは真反対の属性の魔法だったような
闇は光を恐れて、光は闇を恐れる
表裏一体のようにも見えるこの2つの属性は別に仲が悪い訳では無いのだ。
実際ツキカゲは光属性の伝説のドラゴンと仲が良かったらしい
でもそれは敵意がないから一緒にいても辛くないというもの
「あの視線、そして微弱に感じた光魔法…明らかにあれは敵意ある者のすることだ。
やはりこの国に来ることは間違ってたんだ!
カナ、今すぐにでもこの国を出て……」
……それはダメだ
「ツキカゲ…私はこの国でやらなきゃいけない事があるの
国を出るのはそれを終えてからじゃないとダメだ」
そう言って今度は私がツキカゲの頬を両手で挟んでこちらを向かせてはっきりと言った。
「私は絶対、あの子に…彼女に会いたいの!
もしかしたら本当にあの時一緒に召喚された異世界人かもしれないから
誰だって自分と同じものを求めようとするでしょ?」
ふわりと笑うことの出来ない今、私がやったのはひきつってる笑顔
段々と視界がぼやけてきた
頬が濡れるような感覚がしてその時はじめて私は泣いているのだと自覚した。
この世界に来てから今まで泣いたことの無い私が人前で泣くことはとても珍しいことかもしれない
そして私が20年も積み重ねてきた世界の常識はこの世界では通用しない
不安を抱えながら生きていく中で唯一の光かもしれない彼女の存在はとても大きいのだ。
だからその希望を掴み取りたいし諦めたくない
涙を見せる私に対して慌てたツキカゲは私を抱き寄せて誰にも見られないようにすると優しく頭を撫でてくれた。
黙って彼の服を濡らして袖を握る私の喉から出るのは嗚咽だけ
本当に言いたい「寂しい」という言葉も出てこない私は弱いのだ。
「すまない…お前からしたら理不尽にこの世界に呼び出されて来たようなものだものな
頼れる仲間もいないのによく頑張った…」
ツキカゲ…あなたは優しすぎる
でも少しだけ
その優しさに触れてもいいですか?
11
お気に入りに追加
689
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる