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30話
しおりを挟むがやがやと昼間から人が沢山いる酒場で私達は昼食をとっていた。
「むう…カナの手料理が食べたかった」
そう言ってくれるツキカゲに対して可愛いなとか嬉しいなとか思ってしまうけど一つだけ言わせて欲しい。
「あのねぇ…なんのためにここにいると思ってるの?
情報収集のためでしょ?」
子声で言えば不機嫌な様子は消えてはいないけど「わかった」と言って運ばれてきたエールを飲んだ。
仕方がない、今日の夕食は刺身定食にしてあげよう
それにしても…結構情報が集まるな
街で新しく出来た施設とか、今の季節どんな食材が安いか高いかとか…。
他にも帝国の中央部に位置する都市の話だったり様々だ。
他には……
「最近、腕の立つ盗賊がこの街に来てるらしいぜ…」
「聞いたことある!噂によると帝国の兵士百人分の力を持ってるらしいぜ!」
帝国の兵士百人分の力を持つ盗賊ね…そんなに強い奴がいるなら戦ってみたいものよ。
それにそこまで強い盗賊なんて私が今まで見た中では1人しか……
「……まさかね」
嫌な予感がして一筋の汗が流れた。
心を落ち着かせるために自分のエールを飲むと勢いよくそれをテーブルに置いた。
そうだ、忘れよう
その盗賊については忘れてしまおう
今私が欲しい情報はヘンリー王国で出会った女性についての情報だ
決してその盗賊が気になるとかそんなんじゃ……
「ん?お前らさっきの……」
…なんだろうな~?聞き覚えのある声だな~?
恐る恐る声の聞こえた方を向けばまるで体が石のように固まって動かなくなってしまった。
私はこいつを覚えてる
こいつヘンリー王国で会った雇われ盗賊団のリーダーじゃねぇか!
ウェーブのかかったくすんだ緑の長髪に、骨ばった輪郭だけど整った顔立ち…
間違いない、こいつが先程周りの客が噂してた腕の立つ盗賊だったんだ。
「…どうも、人を覚えるのが得意なのですか?」
「意味のわからんデザインの仮面をつけてる奴を連れてる時点で忘れろと言う方が難しいぞ」
なるほどこいつツキカゲで覚えたな
私を見てもそこまで過剰に反応しないところを見ると、まだ初対面だと思ってるみたいだ。
しかしまぁ…前見た時と変わらないワカメ頭のようで
まぁそんなこと口に出して言えないのだが
「悪いがどっか行ってくれ…10秒以内に」
その時やっと口を開いたツキカゲの言葉はあまりにもトゲトゲとしていて少し怖い
というかこいつまだ不機嫌なんだと理解してしまう…
小声で注意してチョップでもするか
「こら怒るな…
後でなんか作ってやるから大人しくして……」
「わかった大人しくする」
本当にこいつは…
今だけはその食欲お化けを褒めてやりたい
「だが、お前が他の人間と話すのは好かん…
そこのワカメ頭、カナに手を出すのも話しかけるのもやめろ」
なんでこいつは余計なことを言うかなぁ!?
「ワカメ頭ぁ…?
どうやらてめぇは自殺志願者のようだな?」
ほら、絶対「ワカメ頭」って言われたことに対して怒ってるよ!
頼むからここで暴れるのはやめてくれ!
慌ててエール代をその場に置くとピエロの仮面をつけてフードを深く被らせると私も同じようにフードを被ってその場から逃げるように店を出た。
「なんで人を煽るようなことを言うかなぁ!?」
まさかツキカゲがあそこまで機嫌が悪くてあのワカメ頭(仮名)までとばっちりを受ける羽目になるとは思わなかった…。
いや、今はそんなことを考えてる場合ではない
絶対あの人短気な性格だと思うから逃げないとダメだ
「とにかく早くこの場から離れて……」
「どうして離れるんだ?」
どうしてって…あのワカメ頭を怒らせたからだよ
……………………。
「あぎゃぁぁぁぁぁ!?でたぁぁぁぁ!!」
予想外に見えて予想通りの人物が後ろから話しかけたことにより女らしからぬ声を上げてしまった。
それに反応するようにツキカゲは私を抱き寄せて手に筋が浮き上がるくらい力を込めている
「カナになんて声を出させるんだ…やっぱりお前はここで消してカナの視界に入らないように……」
しなくていいから!
むしろ私は彼を拒否して絶対に視界に入れないようにするから!
「そんな女に興味はねぇよ…それに俺は他に気になる女がいるからな」
なるほどなら早くその女性だけを見てください
私みたいなどこにでも居そうな人よりもそっちの方が絶対いいから
「俺は隣国のヘンリー王国で出会ったそこの女と同じ位の背丈の黒髪に黒い瞳の女を探してるからな…」
それって私じゃない?
黒髪なんてそうそういないし、異世界から来た日本人くらいでしょそれ…
「(私かよぉぉぉ!?)
それでなぜあなたはこのトーマス帝国にいるのですか?
ヘンリー王国にいる女性が気になるのならこんな所にいる場合では無いのでは?」
まさか私の事を調べてここまで来たとかないよね?
私って自意識過剰すぎるか?
「俺がこの国にいる理由は女とは関係ない
俺はあの国では指名手配扱いだからな」
なるほど…逃亡してきたと
そしたら部下はどうなるんだ?
あんた盗賊団のリーダーだったでしょ…
「……とそんなことを言ってる場合では無い
そこの仮面男、覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
あっ…やっぱり怒ってる
嫌な予感がしてツキカゲが戦闘体勢になる前に先に私が腰を90度に曲げて頭を下げると謝罪の言葉を述べた。
「先程はうちのものが大変失礼な発言をしてしまったことお詫び申し上げます、大変申し訳ございませんでした!!
もし貴方様の心が寛大だった場合、この場で起きたことはなかったことに……」
「カナは何も言うな…俺様はさっきからあのワカメ頭が気に食わないのだ。
最低でも腕と足全部の骨をおらないと気が済まない」
なんであんたはそんなことを…
さっきから私のテンションがおかしくなってるのを察して欲しいものだ。
「いいだろう…その偉そうな態度を叩き直してやる!!」
相手も変なスイッチが入って剣を引き抜いちゃったよ…
これはもう私が止めないといけない状況になってしまった。
この状況をどうするか………
なんてことを考えている間にも時は進んで剣と爪がぶつかり会おうとしてた。
「まずい…っ!」
すかさず腰に装備したハルカゼを握り引き抜くと彼らの間に入る
剣にはハルカゼで、爪には竜の鱗で硬くした腕で受け止めるとその瞬間土煙が舞った。
まったく…女が男の喧嘩を止めるとかどんだけだよ
「やめなさいツキカゲ…!
こんなことをすればご飯が食べられなくなることくらいあなたなら容易に予想できるでしょ!?」
そして視線をツキカゲから反対側にいる彼に移すと再び謝罪の言葉を述べた。
「先程も言った通りうちのツキカゲが失礼なことを言った…申し訳ない」
「……お前、面白いな」
それをあなたから聞いたのは2度目だよ…
なんてこと言える訳もなく無言で相手の剣をしまわせると私もハルカゼをホルダーに収めた。
「この女の行動を評価してお前の発言はなかったことしてやるよ…
感謝するんだな仮面野郎」
「そっちこそカナに惚れるんじゃないぞ…ワカメ頭」
だからなんで喧嘩を売るかな…
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