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27話
しおりを挟む優しい夢から目覚めた
一体何が起きたのか…それを思い出すのにそう時間はかからなかった。
また伝説の楽園に行って赤毛の彼にあったのだ。
「最後にあのドラゴン…名前は教えてくれなかったけど代わりに私の名前を呼んでくれた」
なんだか嬉しくなって口角が上がって来て表情が緩みきっているのがよくわかる
さてと、喜び悶えるのはもうおしまいにしよう
今が朝なのか夜なのかも分からないのでテントからでないと
そんな思いで寝袋をしまい外に出ると私は目を見開いた。
「ん?やっと目が覚めたのか…」
普段なら私が朝ごはんを作るのを待ってる彼が朝ごはんを作ってる…
いつもとは違う異常な光景に私は動揺を隠せないでいた。
「…ツキカゲだよね?」
「あぁ…正真正銘俺様がツキカゲだ」
胸を張って自信満々に言うその姿は間違いなくツキカゲ本人だ
しかしまたなんで自分で朝ごはんを作っているのか…
なんて考えながらも朝食作りを手伝おうと大人の姿になった時だった
辺りは朝にしては明るすぎる…そんな気がした
違和感を感じステータスに表示される時間を見た
なるほどそういう事か
「ひっ…昼の12時!?
私そんなに疲れてたのか…」
「何度起こしても起きなかったからな
仕方がないから朝食は俺様が作った
そして見てみろ!こんなに米が上手く炊けたぞ!」
そう言って嬉しそうに土鍋に入ったつやつやの炊きたてご飯を見せてくるツキカゲ
その時私はあの楽園で赤毛の彼から聞いた話を思い出した。
あの赤毛の彼から見てツキカゲはガラリと変わったんだろうな
「よし、ツキカゲが炊いたご飯に合う最高のお供を買うか!」
なんて言いながらネットショッピングで鮭フレークやイクラを注文しているとツキカゲはとても嬉しそうだった。
初めて出会った時は威厳のあるクールな彼だったけど
今ではここまで目を輝かせることが出来るようになったんだな
たった二ヶ月しか一緒にいないはずなのに
「ツキカゲ…あんたは変わったんだね
でもひとついい?」
「ん?どうしたカナ…」
赤毛くん…ツキカゲはここまで変わったけど変わってないところはあるよ
それはね…
「その調理に使ったと思われる道具を片付けなさいっ!!」
赤毛の君
多分ツキカゲは片付けとかその場を綺麗に保つことが苦手なだけだと思うよ
ナワバリを汚されたことは許してあげて
どれほどの時間歩いただろうか
3つ目の山をようやく越え、森を抜けるとようやく見えてきた。
「あとはこの一本道をいけば目的地に着くんだよね
それにしても…このマジックアイテムすごいわね」
そう言って手で触れるのは耳飾りだった
白黒の勾玉デザインのそれは右耳に白、左耳には黒をつけるタイプ
これは若葉たちとダンジョン攻略をした時に手に入れたアイテム
ボス部屋の奥にあった宝部屋にあったのは今までゴブリン達が集めていた宝の他にこの耳飾りがあったのだ。
この耳飾りをつけると私が今まで魔物達を寄せ付けないように無意識に放出していたオーラを抑えることが可能になるのだ。
それにしても…前までは普通に森に行っても普通にゴブリンやスライムに遭遇してた
なのにある日を境に1匹も遭遇しない
おかしいな
「でもこの耳飾りのおかげでまた魔物と戦って経験を積めるよ」
「まあたしかに実践をつむことでさらなる高みへ行けるからな
その耳飾りを手に入れたことは嬉しい誤算ということだ」
いいこと言ってくれるねツキカゲ
でも一つだけ言いたいことがある
こんな魔物の返り血で染まっている私達が話すような内容ではないと思うんだよね……。
血なまぐさくて鼻をつまんでも臭うこの酷い場所
早くこんな所を離れるためにもいきなり襲ってきた森の角狼達の死体をインベントリにしまうと辺りの血をどうしようかと悩んでいた。
こんな森の近くで戦闘をして血溜まりができるほどの量の血が出たのだ
この血の匂いを辿って魔物が寄ってくるかもしれない
さっさと処理をしないと…
「なら闇魔法でこの血をどうにかするか?
闇は全てを食らう…血なんて最高の魔力になる」
なんか恐ろしいことを言ってる気がするぞ
闇魔法は確か、ツキカゲの得意とする属性の魔法で光魔法とは真反対の魔法だ。
私も闇魔法の素質があり使えるが、ツキカゲは更に上を行く
まあ彼曰く「カナが闇魔法を極めれば俺より強くなる…魔王より強いかもな」
なんて言ってた
というかこの世界にも魔王とかいたんだ…
「闇魔法で血を処理なんて…そんなことができるの?」
「簡単だ…魔力を練って闇の空間を作ったら
その闇が血に混ざっている魔力を喰らおうと勝手に動く」
わおなんか気持ち悪い
そう思って見ていると黒い塊がスライムのようにひとりでに動きだし、血を全て体に取り込んで全て処理してしまった。
その魔物の血で汚れた地獄のような光景はなかったかのように元通りになってしまった。
私達が浴びた返り血も地面や近くの木に染み込むようにあった血も全て…
闇魔法とはここまで便利だったのか
再び目的地に向けて足を運びながら私はしみじみと思った
それなのにツキカゲは少し寂しそうな顔をした。
彼より1歩前に出て歩いていると少しだけ歩く速度が遅いように感じられる
「どうしたの?
急に元気無くなったようだけど…
まさかお腹が減ったとか言わないでしょうね…?」
「違う、ただ疑問に思うところがある」
空腹を即否定されて戸惑ってる私に対してため息をついてるツキカゲはまた少し寂しそうな顔をした。
何をそんな心配しているのだろうか
進めた足を止めて彼に近づくと少しだけ手が震えていたのがわかった。
いきなりどうしたというのか
「カナと出会った時から疑問だった…どうしてお前は俺に対して怯えた様子を見せないのだ?
人間だったら誰だって俺を恐怖の対象として見てくる…なのにカナは怯えることなくいつでも俺のそばにいてくれた。
闇魔法を使ってもお前は決して怯えることなく俺とまた一緒にいてくれた…。
何故なのだ?」
もしかしてツキカゲは私が離れることを恐れているのか?
確かにツキカゲは6つしかない王座の中でもひ闇の王座を守るすごいドラゴン
人々が恐れるのも無理はない
私は人間…ただの人間
どうせ私もまた同じように怯えて逃げてしまうと思っているのだろう
私はため息をついて俯く彼に座れと言った
何をするつもりなのだろうと不思議に思いながらも座る彼はとても素直だ
私から見てこんなに素直で優しいドラゴンは今まで見たことがない
それにあんなに強気なツキカゲがここまで不安そうな様子を見せて来るということは少しずつだけど
人間が好きになってきたということだ
「私はどこにも行かないよ…こんなに人間に慣れて来てだんだん好きだと認識するようになった愛しいツキカゲを捨てるなんてありえない。
絶対にこの手を離さないからね」
つま先立ちをして頭を撫でるとそのまま滑るように手を下ろし彼の両手を握った。
するとその手を握り返して先程までの寂しそうな顔は何処へ行ったのか
なにか吹っ切れたような笑顔を見せてきた
「無駄な考えだったということか…
そうだ、俺様の元を離れるなんて許さないからな!」
うん、君はそうしている方が君らしいよ
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