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15話
しおりを挟む真っ暗な視界の中に見える1点の白い光
それを掴み取るためにもと重たい瞼を開けると先程まで見た青い空でも緑の大地でもなく木でできた天井だった。
「ぁあ…私は……?」
「目が覚めたようですね…!良かったです」
ぼんやりとした頭を傾け視線を声のする方へと移すとそこに居たのはケイミーだった。
私が目が覚めたのと同じタイミングに部屋に入ってきた彼女の顔はとても優しく聖女のようだ。
ケイミーに起き上がるのを手伝ってもらい体を拭かれるとまるで私だと気づいていないような態度でここはどこかとか教えてくれた。
「あなたツキカゲさんに抱えられてここに来たんですよ
それはボロボロの状態で驚きましたけど、もっと驚いたのはツキカゲさんのあの表情ですかね…とても冷静とはかけ離れた慌てた様子でギルドマスターに言っていたので」
それは意外…ではなく必然なのだろう
私の死は彼の死を意味するもので自分の命が大事だからとった行動でツキカゲに会ったらきっと心臓がいくつあっても足りないと文句を言ってくるだろうな。
「そう…ですか……」
5歳の幼女がまさか同じ釜の飯を食うほどの仲である人物とは思っていないようで、ケイミーは何も知らぬまま部屋を出ていった。
1人部屋に残された私は身体を可能な限り動かした。
手は動くし足も問題ないようだし問題である肩も回せるほどに回復している…大丈夫みたいだ。
とりあえずツキカゲを探そう
大人の姿の時よりも高く感じるベッドから飛び降りると、綺麗に並べられた靴を履きマントを羽織る。
ここがどんな部屋なのかは大体予想ができるが私にとってはもう必要のない部屋だろう
ツキカゲはどこにいるのだろうか
早く会いたい
会ったらまず初めに抱きしめて無事でよかったことを伝えたい
いつの間にかそんな思いが込み上げてきてそれは目を潤ませる程の涙に変わった。
「……ツキカゲ」
ボソッと今私が1番会いたい彼の名前を呟いても誰も来るわけが無い
ため息をついて部屋を出るために隙間の空いたドアを開けると目の前にある壁に顔から思い切りぶつかった。
「いっ………てぇ…なに?」
じんじんと痛む鼻を抑えながら顔を上げると目を見開いた。
見慣れたサラサラな黒い髪を風になびかせてこれでもかというくらい金色の瞳を開いて驚いた顔をしている。
私に視線を合わせるためにその場に膝を着いて震える大きな手で私の頬を撫でると口を開け小さな声で質問してきた。
「身体の調子は…?」
その一言だけかと思ったらどんどん早口になって声量も大きくなってきて
「傷は痛むか?腹は空いてないか?辛くないか!?」
感情を抑えられなくなってきているツキカゲを見たのは初めてだった。
どうしてそんなに…
「なんで…あなたが私の心配をするの?」
私の傷はあなたの傷だから痛いんだとでも言いたいのか?
それはそれで腹が立つ
その気持ちが伝わってしまったのかツキカゲは黙り続けて抱きしめるのを辞めると真剣な表情をして私を見てきた。
「確かにお前が痛みを感じれば俺にもそれは来る…それはいつでもじゃない
確かに契約した時俺はお前、お前は俺と言ったから力も共有できるようになった
だけどそれだけだ」
……ん?
もしかして私は今まで盛大な勘違いをしたということか?
「ちょっと待って…私とツキカゲは契約してスキルや魔法を共有することができるようになった。
つまり痛みまでは共有されないってこと?」
自分の考えがあっているか確認すればツキカゲはため息をついてそうだといった。
「だいたい痛みまで共有されたら契約なんてしない…それは俺様だけじゃなくて他のモンスターもそうだろ…」
まあ確かにそうか…
じゃあなんであの時…あの真っ赤なドラゴンに対して怒っていたんだろうか?
何故だろうと考え唸っているとツキカゲはまた私を抱きしめて頭を撫でてきた。
「あいつの…あの赤いドラゴンのことはもういい
あいつはもう死んで魂だけになって俺たちの中で生きていく存在になったからな」
おいちょっとまて
今とんでもない発言をしたように思えたのだが
「うん…とりあえずご飯作るからあの時のこと、それからなにがあったのか全部教えてくれる?」
私が食事を作るから代わりに色々と聞かせてもらうとしよう。
あの赤いドラゴンの正体
クエストをクリアしたのか否か
私とツキカゲが交わした契約の詳細など
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