25 / 56
3‐6
しおりを挟む「ブォォォォォォ!!」
全く…理性を失った義獣人は面倒臭いったらありゃしない
この義獣人の特徴は猪そのもの
・嗅覚は犬と同じ
・下顎の犬歯が発達している
・厚い毛皮に覆われており爪が刺さっても痛みを感じない
・脚力も発達しており助走なしでかなりの高さまで跳べる
…なんて特徴をあげている暇は無いのだ
現に私はやつの突進を食らったり鼻の力だけで持ち上げられて投げ飛ばされてるんだからな
「がぁッ!
いったいわね…」
受身を取ることも出来ずに背中を強打した私は空っぽになった肺に急いで空気を取り込んだ
そうでもしないと…
今目の前で突進の準備をしている猪から逃げることが出来ないからな
「ウグォォ…
ニン…ゲン……ニクイ」
人間が憎い…か
自分だって元人間のくせして憎しみの対象を人間にするあたり彼はもう猪になってしまったのだ
血のように赤い毛皮と巨体を持つ猪
確か研究所から押収した資料の中にそんなモンスターが書いてあったな
名前はえっと…
「レッドボア…だっけか?
確かステーキにすると美味いとか何とか…
私は肉が好きだけどあんたの肉は食いたくないね!」
突進してくるのと同時に天井に向かって跳ぶとそのまま吊るされた電球につかまった。
猪は車と同じように急には止まれない
よって、彼がぶつかるのは私ではなく
瓦礫の山ということだ
これで隙が生まれた
電球から手を離して着地をすると腰に装備された麻酔銃を手に取り照準を合わせると迷いなくその引き金を引いた。
「……やっぱりダメか」
麻酔弾は確かに命中した
しかし、それは体内に入ることなくカランッと音を立てて床に落ちた。
さすがは猪のように厚い毛皮をもつ義獣人だ
まったく効いていない
これは…もっと強力なやつを作るようにお願いするしかないな
なんて呑気に考える暇をあいつは与えてくれないようだ
再び私の方に向き直った猪は再び突進の準備をしていた。
「同じことを繰り返したとしても私にそれは当たらないわよ…!」
やはり私も少しだけ本気を出すべきだろうか…
溜息をつきながら首を右に傾け左に傾けポキポキと音を鳴らす
悪く思わないで欲しいものだ
私が少しだけ本気を出すのは私が面倒くさがりやで仕事をさっさと終わらせたいからだ。
「ふぅ…安心しなさい
これで終わらせてあげるから」
ニタリと笑って今度はこっちから突進してやると、遅れて相手も突進してきた。
今だ…!
心の中の合図と同時に私が投げたのは腰に装備していた対義獣人スタンガン
普通のスタンガンよりもサイズが大きく高い電圧の電気をくらわせることができる代物だ。
何故投げたのか…それは猪の特性を利用した作戦だ。
猪というのは目の前に自分が躓きそうな棒や木が横に倒れているのを見るとジャンプをして躓くのを回避する習性がある
そしてこの義獣人もまた高くジャンプをして絶対に躓かないようにした。
アホだねー
彼は身も心も猪になってしまったんだ
なんて考えている暇はないな
彼がまだ空中にいるうちに素早く体制を低くし走り出すとスタンガンを拾い上げスイッチを入れた。
流れるように作業をすればあとは仕上げ
「毛皮が最も薄い腹を見せてくれるなんて…
さっさと痺れな!!」
BZZZZZ!
派手な電流の音と猪が鳴き叫ぶ声は聞いてるだけでこちらも苦しくなってくる
重力に従って地面に落ちるその音は以外にも軽い音がした。
気になって見てみればそこにはもう猪なんておらず、人間の姿に戻った義獣人が気絶していた。
ぴくぴくと身体を動かしているのを見ているとまだ電流で痺れているのがよくわかる
「まぁ…仕事終了かな」
まさか単独で行動して仲間の増援も待たずにこのビルにいる義獣人を行動不能にしたなんて…
こんなことが司令官にバレたらなんて言われるか想像したくない
ため息をつきながら背伸びをして身体の緊張を解すと私は外の様子を見ようと窓に近づいた。
それがいけなかったんだろうな
突然、背後から派手にものを壊す音が聞こえて振り向いたその時にはもう遅い
黒い影が私に襲いかかり身体のバランスを崩すとそのまま
高い場所から落ちていった
「なっ…!?」
「アニキの仇!
オイラと一緒に死にな!!」
完全に油断してた
こんな高い所から落ちたらひとたまりもない
いくら私でも落ちて背骨でも折れたら再生に時間がかかる
「ふざけるな…!」
なんとか空中で体制を変えることに成功した私は自分の足で着地をして私ごとビルから飛び降りた影の正体の身柄を確保した。
私を押し出すほどの力がある奴がいるんだなと思ったが…なんだこのちっこいガキは
「お前…見た目も中身が矛盾してないか?」
「オイラのことをチビだと言いたいのか!
変な実験を受けるうちにだんだん背が縮んだんだよ!」
なるほど…こいつも義獣人なのか
これはまた面倒くさいったらありゃしない
だけど、油断したらそこで終わりだ。
絶対に気を抜くな
「その小柄な体型
お前の義獣人モデルはゴブリンか?」
「ほう、よくわかったな
そうだ!オイラはゴブリンの義獣人だ!」
そういうのってネタバレと言うんだが
まあそこが単純思考なゴブリンの特徴でありそれがこのガキにも反映されているのか
単純思考は時に自分に牙を向くということを教えてやらんとな
「ククク、ではお仕置きタイムといこうか」
この私から逃げられると思うなよ
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~3巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
第四巻は11月18日に発送。店頭には2~3日後くらいには並ぶと思われます。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
アラフォー料理人が始める異世界スローライフ
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる