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第十四話 RoundⅡ

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 ◇◆ ロシア モスクワ

ホトトギスキーとタチアナの警邏隊がいる区画から大分離れた場所……

現在、その巨人の足元では、蜘郎が滅茶苦茶に駆けずり回り、出鱈目に辺りの粘体生物達を切り刻んでいました。

「よいしょ!…1025体目」

「こい!?そ■きしに■…来いぃぃ!?」

細切れに分割された肉粘体は体液を撒き散らして、活動を停止させていく……

「けだ■えま■お■■いル…ズ……!?!?」

「■■■……てけ…」

「…1026体目!…1027体目!…」

粘体群は抵抗のため無茶苦茶に触手を振り回しますが、蜘郎から見てそれは苦し紛れの緩慢な攻撃です。

蜘郎は、それらを全て避けて、更に衝撃波を纏う閃光の蹴りで粘体生物を3匹同時に破壊します!……が、

「1028…1029…1030体目と……はぁ、駄目だな。お肉達が一向に減らない」

それでもなお、粘体生物たちは一向に数が減りません。

故に蜘郎はアプローチを変えて、狙いを巨人へと変更します。

蜘郎は巨人が人型故に、その人体構造上で歩行に必要となる脚の健らしき間接を刹那の速度で斬り裂きく!!

しかし、周りの粘体群がその傷を埋めるように癒着して再生させるため現状では足止め以上の効果はありません。

「■オ■オ■オ■■ーー!!」

(……肉めらが巨人に集合して再生してる。捕えた人間を分解して巨人に集めているのか?)

その間にも、消えた粘体群の隙間を埋めるように、次々と湧いて現れる粘体の生物達。

「アァァ…「こ■ろせ!…「ァァ」「オォ…ころして」…■■■」オぼぉ……」

それらは分裂し、触手を用いて蜘郎に襲いかかりますが……

蜘郎は執拗な触手攻撃を無視して、巨人の背を垂直に駆け上がると、動脈等人体の急所を斬り裂き廻ります。

だが、巨人の傷口は、即座に周りの肉色粘体が結合して再生する。

対人戦では無敵の強さを誇る蜘郎ですが、異常な耐久性を持つ巨体相手には相性が悪く、苦戦します。

「僕に広範囲を破壊する攻撃能力は無いからなぁ……持久戦かな。……だが、頑張ろう」

暫くして……

当初、粘体群は蜘郎の斬撃の威力と異常な速度に対応できずに、一方的に駆除されていましたが、次第に高速移動する蜘郎を、周囲の粘体同士が縦横無尽に張り巡らせた触手で捉えようと連携し始めます。

(僕への攻撃を点ではなく面に切り替えたか。見た目はあれだが、脳はあるのか?周囲の人間から奪ったわけではあるまいな……)

「まぁ良いさ、踊るとしようか!」

肉色の包囲を、蜘郎は躱し、切り刻んで突破します。

群体相手に個の極地たるサムライが駆け巡る攻防は、しかし徐々に蜘郎が優勢に成りつつありました。

それは騎士達の活躍で、周囲から集まってきた粘体の総数が明らかに目減りしてきたからです。

遠くないうちに巨人の再生能力では、蜘郎の攻撃を止められなくなる。

(……勝ったな)

蜘郎は勝利を確信します。

それは巨人にも理解できたのでしょう。

それ故に巨人は奥の手を使用します。跪いて自身の両手を融解させると、市街区画の奥底まで根を張り……

「■■■■■!!!」

その間、準備中の巨人を守護するため、粘体生物達は自身の体から無数に人間の口と発声器官らしき物を制作すると、悲鳴のような怪音波を幾重にも発生させます!

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「なっ……共鳴振動!?」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

「「「ぎゃぉぁあああああぁああああぁあああぁあ!!!」」」

怪音波により蜘郎は握っている刀を落としそうになるが、巨人の狙いはそこではない……巨人は腰を屈めて区画を畳返しの様に持ち上げると、一瞬だけ意識のそれた蜘郎をその区画ごと遠方に吹き飛ばしました!!

「ふぎゃあっ!?」

崩れる建造物達と共に物理法則に従い彼方に吹き飛ばされる蜘郎は……



『八艘飛び』



蜘郎は時を静止させました。

時が静止する空間では、空を舞う建造物や瓦礫も例外なく空中で静止します。

蜘郎は空中で静止した手近な建物を、壁が陥没するほどの握力で掴み、そこで強引にブレーキをかけると、空中から大地に降りる。

そして、逆襲するため巨人に向い一直線に駆けぬけます!!

……しかし、その途中で見知った魔装鎧を発見して、加速を停止する。

(あれは、エカテリーナ達と夕食の時に邸で見たな。……たしか魔導鎧『ぺとるーしか』だったか?……ならば、あの騎士はホトトギスキー男爵か)

ホトトギスキーとタチアナの警邏隊は特殊な粘体生物を核として粘体群が集合合体した人型粘体、粘体の王《ロード》とも言うべき怪物と戦闘している最中でした。

この人型粘体はホトトギスキー男爵の強力な物理攻撃と、タチアナの厄介な氷結魔法に対して、外皮を風船の様に膨らませて防御することで自身へ受ける損傷を最小限に留めていました。

さらに、全身から放つ触手をスパイクの様に尖らせて魔道鎧の関節部分を的確に攻撃出来るまで成長しており、魔導騎士の部隊相手に善戦しています。

……蜘郎は此処で彼らを援護するより、早々に巨人の相手をした方が合理的だと判断しました。

なぜなら巨人は区画の畳返しの反動で体の関節などが引き千切れて、目に見えて衰弱していたからです。

此処で時間を潰すと折角蓄積させた損傷が時間経過で再生してしまいます。

それ故に蜘郎は、ホトトギスキー男爵を見捨てて、先を急ごうとしました。

しかし、その時です!……蜘郎は大好きな兄が死の10秒前くらいに残した言葉を思い出しました!

『クハハハハハ!!良い様だな!!…似合っているぞ九郎…昔からお前の小奇麗な顔は気に入らなかったが。…こうして這いつくばっていると中々愛い顔じゃ…どれ首を刎ねる前にその顔の皮を剥ぐとするかのう…クハハハハハ!!!!!』

「僕の兄様……なんてかっこいい!!」

蜘郎は兄弟の絆の力で、子供のころには持っていた優しい心を思い出しました。

「袖ふり合うは多少の縁《えにし》……助太刀しよう!」

蜘郎は人型粘体を倒すために、七二ある必殺技の一つを放ちます!!

「ブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラ」

凄まじい蹴りのラッシュで穿たれて、人型粘体の身体全体には、無数の穴が開きます!!

途中で時間の静止状態は解除されましたが、しかしそれでもラッシュは続くのです!!

「ブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラ」

「「「■■■■■■―――!?」」」

「ブラーザコンプレックス!(あにすきだ)」

108の強力な蹴りの連打!!……その威力により人型粘体は、ジッパーで無惨に引き千切られた肉のようにバラバラに引き裂かれて倒れました。

「何なんだ……!?一体なんなんだ!?これは!!」

周囲の騎士たちは、時間静止が解除され突如として現れた蜘郎が何者なのか……敵なのか、味方なのか理解できません!

(生身で…魔法なしで!あの化け物を屠ったのか!?)

(……この男は一体誰だ?なぜ我々を助けてくれたのだ?)

(この男が何者なのかは分からない……ただ一つ理解できるのは…奴は…ヤツはブラザーコンプレックスだ!!!!)

しかし、蜘郎が兄が大好き。……という気持ちは皆に伝わりました。

それが混沌とした状況をさらに意味不明な状況にしました。

「む、君は……クロウくんか!?なぜ此処に……」

理解不能な状況を打破したのはホトトギスキーです。

「あっ……ホトトギスキー男爵のお知り合いなのですね!?」

魔導騎士たちに安堵が広がります。謎のブラザーコンプレックスは味方でした。

強力な力を持つ味方の登場に騎士たちは一様に歓声を送ります!!

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

蜘郎は右手を挙げてそれに答えます!!

源氏万歳げんじばんざい!!」

「ゲンヂィ―…バン…ジィ?」

「ば、ばんじー!」

「げんじ…ばんじー…」

「げ・ん・じ・ば・ん・ざ・い!」

「げ、げんじばんじい!」

「「「げんじばんじい!」」」

2、3人の心優しい騎士たちが空気を読んでそれに追従してくれました!!

(見ていてくれましたか…お星に御座す兄様…)

その後、残存する周囲の粘体群を掃討すると、蜘郎はホトトギスキーから警邏隊長のタチアナへと手短に紹介されました。

タチアナはヘルムを外して蜘郎を見ると切れ長の目をさらに細めてニンマリと笑います……

「貴方……随分と綺麗な顔をしているわねぇ……アハッフフフッ…それに強い男は好きよ…」

蜘郎の顔を両手でつかむとタチアナは魔道鎧の胸部装甲を展開して抱き寄せる。

タチアナの白い豊満な胸に顔を埋めた蜘郎は……咽ました。

(蒸れた匂い……汗臭い女だな……)

それを見ていたホトトギスキーはタチアナを諌めます。

「……タチアナ隊長。クロウ君はすでに義妹と婚約しているのだ。……遠慮してくれないか?」

「ますます気に入ったわ♪…人の物って何故か欲しくなるのよねぇ…フフフ、それに新しい愛玩奴隷ペットが欲しかったのよ。東洋産か…そういう趣向は斬新よねぇ、アハッフフフ♪」

「……あの世でクルシンスキー伯爵が泣くぞ!」

「死人なんてどうでもいいでしょ?……ねぇクロウ♪」

タチアナは蜘郎の顔をその長い舌で慈しむように舐めると、自身の口内で複数の魔術式を同時発動します。……そして舌先に氷の鍵を生成すると、タチアナはそれを口移しで蜘郎に渡します。

「私の部屋の鍵……部屋の中でなら私に好きなだけ粗相をしても構わないわよ。でもその氷は3日で溶けちゃうから私の奴隷になりたいなら急ぎなさいね♪」

(…全然好みではないのだが、素敵なお誘いだ。美人だし後腐れないなら一度くらい行ってみようかな。柔らかいし…)

口の中で氷結の鍵を転がしながら、蜘郎はタチアナのマシュマロに埋まります。

……既にエカテリーナの事は完全に忘れている。

3日間ロシアに滞在すれば婚姻届は受理される。

そうなれば事前に考えていた化け物との戦いによる名誉の戦死という欺瞞情報を置いて、日本へ逃走するという外道な作戦は実行できません。

だが、蜘郎は目の前のマシュマロに夢中で気が付きません。

そして蜘郎が白く柔らかい2つのマシュマロと戯れている間に……

「ギャアアアア■■ガぁああガガガ―――!!!■オオ■グア■ああああァ―――!!!」

巨人は完全復活してしまいました。
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