【完結】闇堕ちメモリアル

■謎解き×「闇堕ちメモリアル」 織田童夢

　いきなり裏話になりますが、執筆当初の話では織田真理に憑いた悪霊が原因で次々と殺人が……みたいな話を考えていたため、織田童夢はホストではなく霊能者の設定となる予定でした。大半の人が気付いているでしょうが、主人公の名前は織田無道のアナグラムです。

　結局霊能者という設定はなくなりましたが、名前だけその名残として残してあります。理由としては織田真理と同じ苗字にしておけばスムーズに下の名前で呼び合う展開が書けるからです。

　余談はさておき、作中で最も二面性が顕著なこの主人公について触れていきたいと思います。

　前述の通り織田童夢は妄想の中だとイケメンホストであり慈善事業に従事する正義の味方となっていますが、現実世界では身勝手な理由で推しの風俗嬢とその恋人を殺害した凶悪犯罪者であり死刑囚となっています。

　死刑判決を受けて十三階段を昇る日を待つ間、織田童夢は政府機関の人間とある取り引きをしました。それはテスト段階にあるプログラムの被験者になることでした。

　このプログラムでは、どのような犯罪者でも一定の手順を経ていくことによって一様に真人間へと更生出来るというものでした。

　もしテストに合格すれば、童夢は死刑を免れるという寸法です。まあ、結果は見事に失敗しているのですが。

　ちなみにですが、現実にはこんな無茶なプログラムは実在しませんので悪しからず。そこはラノベだと思ってもらえればいいかと。重すぎる気もしますが……。

　さすがに信じる人はいないかと思いますが、こうやって注記しておかないと現実と架空の話を混同してしまう方もいるので……。

　さて、作中の後半では（妄想の）織田真理がホス狂いであることが分かりますが、現実世界の彼女が風俗嬢であったことを加味すると、現実世界で巻き添えを喰って刺殺された真理の恋人はホストであった可能性が高いものと類推されます。実際にそのようなことが書いてありますね。

　つまり、織田童夢は自分が殺した男のアイデンティティを「ゲーム」の中で取り込んだということになります。それで彼は妄想の中で元ホストのイケおじということになっているわけです。

　自分が手にかけた者の存在性を手に入れ、そしてホストから世の女性を守る「正義の味方」の役割を構築するという、言ってみれば織田童夢のひどい正当化がこの「ゲーム」の中で働いているというわけです。

　ここから一層被害妄想はひどくなり、童夢は妄想の世界でもヒロイン格であった織田真理をもっともらしい理由で殺してしまいます。だから彼は色々な意味で「ゲームオーバー」となってしまったわけです。彼をモニタリングしていた研究者及び関係者も、「この男は救うことが出来ない」と判断を下すしかありませんでした。

　プログラムの目的は犯罪者の更生のはずですが、結局やっていることは現実世界と何ら変わりませんでした。根本的にはやはり「見えている世界が違う」ことからそのような結末を迎えるようになっているわけです。