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事後の朝

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 いつの間にか眠っていた。

 どうやって移動したのか全く記憶にないが、知らぬ間にベッドで寝ていた。すぐ隣にはすうすうと寝息を立てている梨乃ちゃんがいる。

 まずいな。時間を調べないと。気が付いたら昼でしたという最悪の結末は回避したい。そんなことを一度でもすれば、昼間の仕事ではあっという間に信用を失う。梨乃ちゃんを起こすのもかわいそうなので、手探りでスマホを探した。

 充電の少なくなったスマホを確認すると、狩野から大量の着信履歴とLINEメッセージがあった。スリープモードにしていたせいで鳴らなかったようだ。着信は異常な数だが、詳細は後で見よう。昨夜の梨乃ちゃんが激しかったせいで、まともな思考が難しくなっている。

 しかし思い出すだけでも情けなくなる。俺はほとんど下にいるだけのマグロだった。童貞じゃあるまいし、四十路のイケオジとして梨乃ちゃんをリードするはずが、とんだ失態だ。もっとも、肝心の梨乃ちゃんは少しも気にしていないようだったが。

 スマホの時刻を見る。朝の5時。早く起き過ぎたか。いや、もう始発は出ているはずだから、一度帰ってシャワーでも浴びた方がいい。

「う、ん……」

 ゆっくりと起き上がろうとすると、梨乃ちゃんが目覚めた。

「ごめんよ。起こしちゃって」

「今、何時、ですか……?」

「まだ朝の5時だ。俺は一度帰ってから出社するよ。梨乃ちゃんは寝ていて」

 着替えようとすると、梨乃ちゃんが体を起こした。ベッドの上で女の子座りをする。毛布に隠されていた豊満な体があらわになる。夜が明けても、彼女は規格外の爆乳をぶら下げていた。

 思わず視線が下へと行きそうになるが、オッサンの対面と理性を働かせてなんとか自重する。

「童夢さん、昨日のことだけど……」

「ん? ああ……」

 一人で悶々としていたせいで、梨乃ちゃんの意図を汲み取るのが一瞬遅れた。自己嫌悪に陥りかけていると、梨乃ちゃんが縋るような顔で訊く。

「昨日の、その……したってことは、あたしは童夢さんのオンナってことで、いいんだよね……?」

「……あ、ああ。そうだな」

 口から出る曖昧な言葉。梨乃ちゃんはいくらか抱えた不信感を押し殺しながら「良かった」と呟いた。部屋に妙な沈黙が流れる。

「……とりあえず帰るよ。今後については、また後で話そう」

「うん。出て行く前にキスして」

 一夜にしてガチデレへと急変した梨乃ちゃん。無言で唇を重ねた。本当に幸せそうだ。

 まるで新婚の夫婦だ。このままここにいれば第2戦目が始まる予感がしたので、そそくさと服を着た。ヤっていて遅刻しましたはアホ過ぎる。

「行くよ」

 それだけ言うと、俺は返事を待たずに梨乃ちゃんの家を後にした。

 ひとまず彼女の家を出て、安堵の溜め息をつく。その後にいくらかの後悔が襲ってくる。

 ――梨乃ちゃんとヤってしまった。真理ちゃんではなく。これで色々とややこしくなる気がするが、もうどうしようもない。

 それに真理ちゃんとの仲はすでに壊滅的だ。あのシンママは他の誰かに譲った方がお互いのためになるだろう。自分にそう言い聞かせた。

 これからどうするか。頭は混乱しているが、帰ってシャワーでも浴びれば頭もスッキリしていい考えが浮かんでくるだろう。

 梨乃ちゃんの家を出てすぐにシャワーを借りれば良かったことに気付いたが、まあいい。どちらにしても、戻ったらまたベッドで第二戦が始まるに決まっているのだから。

 それに他人の家というのは落ち着かない。時間はあるのだから、自分の家でじっくりと汗を流そう。

 年も年だから服も一日ごとに変えないと加齢臭が出る。清潔感のないオッサンは職場でただ女子を不快にさせるだけ。ホストは引退したとはいえ、それはあるまじきことだ。

 俺は早朝の電車に乗り、自宅へと向かった。
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