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抱擁と告解
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――梨乃ちゃんの話が終わった。
話の途中からずっと泣いている。梨乃ちゃんなりに苦しい思いや真理ちゃんを助けたいという思いがあったんだろう。
だが、同情して涙する以前にドン引きした話がある。
「180万って……それって、真理ちゃんのために利息ごと梨乃ちゃんがカブったってこと?」
「ええ。どうしても必要だって言われて。賃貸の更新料やら保育園のお金に、その他色々とかかるみたいです。あたしも最初っから180万貸したんじゃなくて、何回かに分けて貸しました」
「まるで……」
言いかけて、口を噤んだ。
本業で担当するホス狂いの女の子は、ホストの沼から出られなくなるとサラ金、闇金と手を出し、その前後でやむにやまれず風俗で働きはじめる。そうでもしないとアホみたいな金利の借金を返せないからだ。
梨乃ちゃんの話を聞いていると、金額が異常な点や何回か分割して大金を借りさせること、そしてその借入先が闇金というところがホス狂いの女の子たちと酷似している。
いくらシンママにお金がないとはいえ、そんな大金がいっぺんに必要となる話など聞いたことがない。それが本当なら、日本でシンママは生きていけない。このままいけば、梨乃ちゃんは風俗で金を稼ぐしか道がなくなるだろう。
真理ちゃん、君は一体――
「どうしたんですか?」
よっぽど俺が青い顔をしていたのか、泣き顔の梨乃ちゃんが不思議そうに訊く。
真実を伝えるか? いや、まだ状況証拠の一つが出てきただけだ。本当に何か理由があったのかもしれないし、何よりこれ以上梨乃ちゃんを傷付けたくない。
「ああ、いや、その……。梨乃ちゃんは、本当に心の優しい女の子なんだなって、驚いていたところ」
「あたしなんて……。でも、それだけ真理ちゃんがあたしにとって大事な友だちだったからだと思います」
――友だち、か……。
名付けるのが難しい、モヤモヤとした気持ち悪さが胸でくすぶっている。
「梨乃ちゃん、友だちが大事なのは分かる。だけど、それで自分を犠牲にするのはやめてくれ」
偽らざる本音を言った。その瞬間に梨乃ちゃんの大きな瞳に涙が溢れだす。
「あたし、あたし……!」
「大丈夫だ」
俺は梨乃ちゃんを抱きしめた。彼女は、声を上げて泣いた。
しばらく泣き続けて、次第に落ち着きを取り戻していく。涙どころか鼻水まで出ている。それだけ抑えていたものが大きかったのだろう。
「落ち着いたか?」
「ええ、少し」
梨乃ちゃんはぐしゃぐしゃになった顔のまま、手の甲で涙を拭う。
「どうしてですか?」
「何が?」
「どうして、童夢さんはこんなに優しくしてくれるんですか?」
「そりゃあ……単に梨乃ちゃんが大事だからだ。それは真理さんと変わらないよ。一応、慈善事業をやっている会社のメンバーだからな」
金はねえけどな、とは付け加えなかった。
「童夢さんはホストだったんですよね? それで、なんでホスト狂いの女の子を守ろうって思ったんですか?」
「それはな……」
言いかけて、本当にそれを今言うべきなのか考える。だが、いずれは分かることだろう。俺の忌まわしき過去を知ることによって、逆に俺の言葉が梨乃ちゃんにも届くようになるかもしれない。
「これは、一種の贖罪でもあるんだ」
俺は覚悟を決めて、全てを話すことにした。
話の途中からずっと泣いている。梨乃ちゃんなりに苦しい思いや真理ちゃんを助けたいという思いがあったんだろう。
だが、同情して涙する以前にドン引きした話がある。
「180万って……それって、真理ちゃんのために利息ごと梨乃ちゃんがカブったってこと?」
「ええ。どうしても必要だって言われて。賃貸の更新料やら保育園のお金に、その他色々とかかるみたいです。あたしも最初っから180万貸したんじゃなくて、何回かに分けて貸しました」
「まるで……」
言いかけて、口を噤んだ。
本業で担当するホス狂いの女の子は、ホストの沼から出られなくなるとサラ金、闇金と手を出し、その前後でやむにやまれず風俗で働きはじめる。そうでもしないとアホみたいな金利の借金を返せないからだ。
梨乃ちゃんの話を聞いていると、金額が異常な点や何回か分割して大金を借りさせること、そしてその借入先が闇金というところがホス狂いの女の子たちと酷似している。
いくらシンママにお金がないとはいえ、そんな大金がいっぺんに必要となる話など聞いたことがない。それが本当なら、日本でシンママは生きていけない。このままいけば、梨乃ちゃんは風俗で金を稼ぐしか道がなくなるだろう。
真理ちゃん、君は一体――
「どうしたんですか?」
よっぽど俺が青い顔をしていたのか、泣き顔の梨乃ちゃんが不思議そうに訊く。
真実を伝えるか? いや、まだ状況証拠の一つが出てきただけだ。本当に何か理由があったのかもしれないし、何よりこれ以上梨乃ちゃんを傷付けたくない。
「ああ、いや、その……。梨乃ちゃんは、本当に心の優しい女の子なんだなって、驚いていたところ」
「あたしなんて……。でも、それだけ真理ちゃんがあたしにとって大事な友だちだったからだと思います」
――友だち、か……。
名付けるのが難しい、モヤモヤとした気持ち悪さが胸でくすぶっている。
「梨乃ちゃん、友だちが大事なのは分かる。だけど、それで自分を犠牲にするのはやめてくれ」
偽らざる本音を言った。その瞬間に梨乃ちゃんの大きな瞳に涙が溢れだす。
「あたし、あたし……!」
「大丈夫だ」
俺は梨乃ちゃんを抱きしめた。彼女は、声を上げて泣いた。
しばらく泣き続けて、次第に落ち着きを取り戻していく。涙どころか鼻水まで出ている。それだけ抑えていたものが大きかったのだろう。
「落ち着いたか?」
「ええ、少し」
梨乃ちゃんはぐしゃぐしゃになった顔のまま、手の甲で涙を拭う。
「どうしてですか?」
「何が?」
「どうして、童夢さんはこんなに優しくしてくれるんですか?」
「そりゃあ……単に梨乃ちゃんが大事だからだ。それは真理さんと変わらないよ。一応、慈善事業をやっている会社のメンバーだからな」
金はねえけどな、とは付け加えなかった。
「童夢さんはホストだったんですよね? それで、なんでホスト狂いの女の子を守ろうって思ったんですか?」
「それはな……」
言いかけて、本当にそれを今言うべきなのか考える。だが、いずれは分かることだろう。俺の忌まわしき過去を知ることによって、逆に俺の言葉が梨乃ちゃんにも届くようになるかもしれない。
「これは、一種の贖罪でもあるんだ」
俺は覚悟を決めて、全てを話すことにした。
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