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職場の異変
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コールセンターの仕事に慣れてきた。さすが俺。補助金のシステムも復習して理解を深めたので、下手をすると先輩の派遣社員より俺の方が詳しい。加えてイケメンで口が上手いので、俺はあっという間に職場カーストの上位へと食い込んだ。
よくよく見れば、真理ちゃんや梨乃ちゃん以外にもかわいい女の子はたくさんいる。俳優の卵やら声優もいるらしいので、それも納得出来る気がする。まあ、ほとんどは冴えない窓ぎわ族のオッサンばかりなんだろうが。
というわけで、俺は少しばかり調子に乗りはじめた。こう見えても40まで現役だったホストだ。見た目には絶対の自信があるし、周囲の空気を読む能力にも長けている。
だから時折女性から注がれる視線にも気が付いているし、それに偶然を装って目を合わせてから微笑むことも忘れない。そうすれば彼女たちは喜ぶからだ。
狩野の言う通り、モテている内に未来のヨメを探した方がいいのかもしれない。本業ははっきり言って利益度外視の慈善事業だし、それを理解出来る精神性を持った女性でないと上手くいくことはないだろう。それはアホな俺でも分かる。
それとは別に、最近は気になる動きがある。
「室長、また警察が来ているみたいです」
「え? また? 何なんだろうな」
コールセンター内で起こったトラブルを解決する役割の室長が来客対応のために部屋を出る。ここ最近では滅多に使われない応接室へ毎日のように来客があるそうだ。
なんでも会社に警察が来ているみたいで、過去に何度かお世話になりかけた俺はちょっと気になっている。
因縁をつけるのに近いことを言われて、思わず手を出したために公務執行妨害でしょっ引かれた奴もいた。本気になった警察のやり方はなかなかエグい。夜の街の住人であった者にとって、警察は天敵だ。
しかし、警察って何なんだろうな?
ここは学歴のない奴でも働ける場所だから、もしかしたら桐島なんとかみたいに激ヤバの犯罪者が潜んでいることもあるのかもしれない。そう考えるとあのオッサンもこのオッサンも怪しい。いや、彼らからすれば俺も十分怪しい人間なんだろうが、少なくとも俺は警察が職場に押しかけるほどのことはやっていない。
だが、それでも好奇心というものはある。不謹慎と言われるだろうが、事件がどうこうと言われると、他人事であれば興味が湧いてしまうものだ。
◆
昼食の時間は梨乃ちゃんと一緒だった。真理ちゃんは子供が熱を出したとかで早退していた。子供がいるとそういう事もあるから、シンママは大変だなと思う。
「なんか警察が来てるらしいって話、知ってる?」
「あ、それ、あたしも噂で聞きました」
「俺は何も知らないんだけど、なんか事件になるようなことってあったっけ?」
俺が訊くと、梨乃ちゃんは周囲の視線を気にしながら、小声で話しはじめる。
「人が噂しているのをたまたま聞いたレベルですけど、なんか、行方不明になった人がいるみたいです」
「行方不明って、ここの人で?」
「そうです。童夢さん、ちょっと声が大きいです。その、なんでもその行方不明になった人って、真理ちゃんに教えていた先輩らしいんですよね」
ああ、あのデレデレしていたオッサンか。なんとなくだが、どんな顔をしていたかはある程度思い出せる。
「いや、でも派遣のバックレなんて珍しい話でもないかと思うけど、わざわざ警察なんか来るか?」
「それなんですよね。だから、なんか事件に巻き込まれたんじゃないかってもっぱらの噂です。それ以上のことは何も分かっていないんですけどね」
「そうか。別に大したことなんかないと思うけどな」
心から言った。本業の慈善事業だと、ホス狂いの女の子がバックレたせいで話がひっくり返る状況なんて腐るほどある。そうなったら連れ戻すか、話そのものを白紙に戻すしかない。
派遣社員の仕事をバイトの延長だと思っている奴も結構いるそうで、バックレて営業を困らせる人間がいるというのはよく聞く。噂によるとバックレが一番多いのは派遣社員らしい。
真理ちゃんの指導役、いかにも窓際って感じのオッサンだった。どうせ前の仕事で色々やらかした挙句にバックレて、それが癖になって嫌なことがあるとすぐバックレるようになったんだろう。ほとんど断定的な形で、俺は勝手に失礼な推理を展開する。
しかし、そうなると誰が真理ちゃんの指導をやるんだろうな。俺が考えることじゃないだろうが。それでも気になる女性の動向を左右する問題なので、どうしても注意を取られてしまう。
「なんか、考えごとでもしてます?」
物思いに耽っていると、梨乃ちゃんが心配そうな顔で訊く。
「いや、真理さんがちょっと心配になってな。指導役の先輩がコロコロ変わったら心配もあるだろうし」
「彼女は大丈夫ですよ。ああ見えて、結構逞しいから」
梨乃ちゃんはいたずらっぽく笑って呟く。
「でも、あたしの心配もしてほしいな」
テーブルの下で、手を握られる。そのままの体勢で、梨乃ちゃんが口を開く。
「本当はあたしの気持ちも分かっているんでしょう?」
「……」
ふいに始まった展開に、下半身がかすかに疼く。
「だから、あたしのことも見ててね」
「……ああ、分かった。大事な、仲間だしな」
梨乃ちゃんは小首を傾げて答えた。
やれやれ、モテる男は世間一般でも色々な方面に気を遣わないといけないらしい。
よくよく見れば、真理ちゃんや梨乃ちゃん以外にもかわいい女の子はたくさんいる。俳優の卵やら声優もいるらしいので、それも納得出来る気がする。まあ、ほとんどは冴えない窓ぎわ族のオッサンばかりなんだろうが。
というわけで、俺は少しばかり調子に乗りはじめた。こう見えても40まで現役だったホストだ。見た目には絶対の自信があるし、周囲の空気を読む能力にも長けている。
だから時折女性から注がれる視線にも気が付いているし、それに偶然を装って目を合わせてから微笑むことも忘れない。そうすれば彼女たちは喜ぶからだ。
狩野の言う通り、モテている内に未来のヨメを探した方がいいのかもしれない。本業ははっきり言って利益度外視の慈善事業だし、それを理解出来る精神性を持った女性でないと上手くいくことはないだろう。それはアホな俺でも分かる。
それとは別に、最近は気になる動きがある。
「室長、また警察が来ているみたいです」
「え? また? 何なんだろうな」
コールセンター内で起こったトラブルを解決する役割の室長が来客対応のために部屋を出る。ここ最近では滅多に使われない応接室へ毎日のように来客があるそうだ。
なんでも会社に警察が来ているみたいで、過去に何度かお世話になりかけた俺はちょっと気になっている。
因縁をつけるのに近いことを言われて、思わず手を出したために公務執行妨害でしょっ引かれた奴もいた。本気になった警察のやり方はなかなかエグい。夜の街の住人であった者にとって、警察は天敵だ。
しかし、警察って何なんだろうな?
ここは学歴のない奴でも働ける場所だから、もしかしたら桐島なんとかみたいに激ヤバの犯罪者が潜んでいることもあるのかもしれない。そう考えるとあのオッサンもこのオッサンも怪しい。いや、彼らからすれば俺も十分怪しい人間なんだろうが、少なくとも俺は警察が職場に押しかけるほどのことはやっていない。
だが、それでも好奇心というものはある。不謹慎と言われるだろうが、事件がどうこうと言われると、他人事であれば興味が湧いてしまうものだ。
◆
昼食の時間は梨乃ちゃんと一緒だった。真理ちゃんは子供が熱を出したとかで早退していた。子供がいるとそういう事もあるから、シンママは大変だなと思う。
「なんか警察が来てるらしいって話、知ってる?」
「あ、それ、あたしも噂で聞きました」
「俺は何も知らないんだけど、なんか事件になるようなことってあったっけ?」
俺が訊くと、梨乃ちゃんは周囲の視線を気にしながら、小声で話しはじめる。
「人が噂しているのをたまたま聞いたレベルですけど、なんか、行方不明になった人がいるみたいです」
「行方不明って、ここの人で?」
「そうです。童夢さん、ちょっと声が大きいです。その、なんでもその行方不明になった人って、真理ちゃんに教えていた先輩らしいんですよね」
ああ、あのデレデレしていたオッサンか。なんとなくだが、どんな顔をしていたかはある程度思い出せる。
「いや、でも派遣のバックレなんて珍しい話でもないかと思うけど、わざわざ警察なんか来るか?」
「それなんですよね。だから、なんか事件に巻き込まれたんじゃないかってもっぱらの噂です。それ以上のことは何も分かっていないんですけどね」
「そうか。別に大したことなんかないと思うけどな」
心から言った。本業の慈善事業だと、ホス狂いの女の子がバックレたせいで話がひっくり返る状況なんて腐るほどある。そうなったら連れ戻すか、話そのものを白紙に戻すしかない。
派遣社員の仕事をバイトの延長だと思っている奴も結構いるそうで、バックレて営業を困らせる人間がいるというのはよく聞く。噂によるとバックレが一番多いのは派遣社員らしい。
真理ちゃんの指導役、いかにも窓際って感じのオッサンだった。どうせ前の仕事で色々やらかした挙句にバックレて、それが癖になって嫌なことがあるとすぐバックレるようになったんだろう。ほとんど断定的な形で、俺は勝手に失礼な推理を展開する。
しかし、そうなると誰が真理ちゃんの指導をやるんだろうな。俺が考えることじゃないだろうが。それでも気になる女性の動向を左右する問題なので、どうしても注意を取られてしまう。
「なんか、考えごとでもしてます?」
物思いに耽っていると、梨乃ちゃんが心配そうな顔で訊く。
「いや、真理さんがちょっと心配になってな。指導役の先輩がコロコロ変わったら心配もあるだろうし」
「彼女は大丈夫ですよ。ああ見えて、結構逞しいから」
梨乃ちゃんはいたずらっぽく笑って呟く。
「でも、あたしの心配もしてほしいな」
テーブルの下で、手を握られる。そのままの体勢で、梨乃ちゃんが口を開く。
「本当はあたしの気持ちも分かっているんでしょう?」
「……」
ふいに始まった展開に、下半身がかすかに疼く。
「だから、あたしのことも見ててね」
「……ああ、分かった。大事な、仲間だしな」
梨乃ちゃんは小首を傾げて答えた。
やれやれ、モテる男は世間一般でも色々な方面に気を遣わないといけないらしい。
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