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楽しい帰宅時間
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初めての電話業務後、俺は道すがら会った真理ちゃんと合流して一緒に帰るところだった。彼女とは昼メシも一緒なので、さすがに帰る時ぐらいはバラけていくが、それでも道中で互いの姿を見つければ声ぐらいはかける。大体そんな時は駅まで一緒に帰ることになる。
「今日の電話はどうだった?」
「全然でした。わたし、ここでやっていけるのかなって」
まあ、あんなバケモノがちょいちょい出てくるんであればそんな考えを抱いてもしょうがないよな。一人目でモンスターを引き当てたのもあり、俺は変に納得してしまう。
「真理さんは先輩が付いているんだって?」
「はい。最初の電話で慌てふためいて、それを見ていた室長がすぐサポート役を付けたみたいです。そのまま一人でやらせたら危ないからって」
そうか。それで上手く対処してしまった俺は「このままやらせてもOK」と見なされて一人でずっと受電となったようだ。なんだか損をした気分にもなるが、管理者の視点からすれば正しい判断に見える。
「そうか。俺は一発目からバケモノを引いちゃったよ」
「変な人が来たんですか?」
「変な人っていうか、電話を取った時点からすげえ怒っている客だね。飲食店にいたら通報されるレベルの」
「うわ。そんなのに当たったら、わたしは心が折れちゃいそう……」
真理ちゃんは小動物のように怯える仕草を見せる。かわいい。
「まあ、俺も夜の街にいた人だからね。幸か不幸かヤバい奴は見慣れているところもあって……」
謙遜のつもりでそう言うと、真理ちゃんの目が輝きだす。
「でもすごいです。最初からそんな場面に当たっても冷静にやっていたなんて。わたしも遠くから見ていましたけど、本当に落ち着いていますよね」
「まあ、表面上はね。実際にはいっぱいいっぱいだったよ」
「それを感じさせないのが本当にすごいんだと思います。童夢さん、やっぱりタダ者じゃないですね」
「そうか。じゃあ俺、調子に乗っちゃってもいいのかな?」
軽口を叩くと、真理ちゃんが少しためらいながら言う。
「童夢さんがいれば、きっとわたしは大丈夫」
「んっ」
文脈に合っていないセリフのような気はしたが、悪い気はしない。真理ちゃんはニコニコしていた。その顔を眺めるとともに、俺にもこんな青春が早く来ていれば良かったのにな、と思った。
駅まで歩いて、手を振って別れた。真理ちゃんの笑顔は本当に無垢で、だからこそろくでもない男に騙されたのかなとも感じた。幸せを掴むのは善人であっても存外に難しい。
別れる手前までの道のりで、なぜか梨乃ちゃんの話になった。
理由は分からないが、真理ちゃんは梨乃ちゃんの容姿をベタ褒めだった。「あんなにかわいいコは見たことがない」と言われて「そうか?」と思ったが黙っていた。美人と言えば美人なんだろうが、そこまで賞賛される美貌かと言われたら違うと思う。どっちかといえば量産型のギャルのような……。
まあ、真理ちゃんの推しとなる梨乃ちゃんにはいくらかのバイアスがかかっているのだろう。そういう時は素直に推しを褒めておくことだ。
そのまま駅に着いたら別れた。電車が発車するまで、真理ちゃんはずっと手を振っていた。いいコ過ぎる。
ただ一緒に帰っただけなのに、これまでにない幸福さを感じた。これが中学生の味わう甘酸っぱい思い出というやつなのだろうか。モテにモテまくって無敵だった中学生時代の俺は知らない味だ。悪くない。
その日の夜、俺は狩野から「何をニヤニヤしていやがる」と何度も注意を受けた。思えば幸せな時間だった――あの帰り道が、他のどの出来事よりも。
「今日の電話はどうだった?」
「全然でした。わたし、ここでやっていけるのかなって」
まあ、あんなバケモノがちょいちょい出てくるんであればそんな考えを抱いてもしょうがないよな。一人目でモンスターを引き当てたのもあり、俺は変に納得してしまう。
「真理さんは先輩が付いているんだって?」
「はい。最初の電話で慌てふためいて、それを見ていた室長がすぐサポート役を付けたみたいです。そのまま一人でやらせたら危ないからって」
そうか。それで上手く対処してしまった俺は「このままやらせてもOK」と見なされて一人でずっと受電となったようだ。なんだか損をした気分にもなるが、管理者の視点からすれば正しい判断に見える。
「そうか。俺は一発目からバケモノを引いちゃったよ」
「変な人が来たんですか?」
「変な人っていうか、電話を取った時点からすげえ怒っている客だね。飲食店にいたら通報されるレベルの」
「うわ。そんなのに当たったら、わたしは心が折れちゃいそう……」
真理ちゃんは小動物のように怯える仕草を見せる。かわいい。
「まあ、俺も夜の街にいた人だからね。幸か不幸かヤバい奴は見慣れているところもあって……」
謙遜のつもりでそう言うと、真理ちゃんの目が輝きだす。
「でもすごいです。最初からそんな場面に当たっても冷静にやっていたなんて。わたしも遠くから見ていましたけど、本当に落ち着いていますよね」
「まあ、表面上はね。実際にはいっぱいいっぱいだったよ」
「それを感じさせないのが本当にすごいんだと思います。童夢さん、やっぱりタダ者じゃないですね」
「そうか。じゃあ俺、調子に乗っちゃってもいいのかな?」
軽口を叩くと、真理ちゃんが少しためらいながら言う。
「童夢さんがいれば、きっとわたしは大丈夫」
「んっ」
文脈に合っていないセリフのような気はしたが、悪い気はしない。真理ちゃんはニコニコしていた。その顔を眺めるとともに、俺にもこんな青春が早く来ていれば良かったのにな、と思った。
駅まで歩いて、手を振って別れた。真理ちゃんの笑顔は本当に無垢で、だからこそろくでもない男に騙されたのかなとも感じた。幸せを掴むのは善人であっても存外に難しい。
別れる手前までの道のりで、なぜか梨乃ちゃんの話になった。
理由は分からないが、真理ちゃんは梨乃ちゃんの容姿をベタ褒めだった。「あんなにかわいいコは見たことがない」と言われて「そうか?」と思ったが黙っていた。美人と言えば美人なんだろうが、そこまで賞賛される美貌かと言われたら違うと思う。どっちかといえば量産型のギャルのような……。
まあ、真理ちゃんの推しとなる梨乃ちゃんにはいくらかのバイアスがかかっているのだろう。そういう時は素直に推しを褒めておくことだ。
そのまま駅に着いたら別れた。電車が発車するまで、真理ちゃんはずっと手を振っていた。いいコ過ぎる。
ただ一緒に帰っただけなのに、これまでにない幸福さを感じた。これが中学生の味わう甘酸っぱい思い出というやつなのだろうか。モテにモテまくって無敵だった中学生時代の俺は知らない味だ。悪くない。
その日の夜、俺は狩野から「何をニヤニヤしていやがる」と何度も注意を受けた。思えば幸せな時間だった――あの帰り道が、他のどの出来事よりも。
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