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童夢の独り言
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コールセンターの研修はしばらく続いた。なにせ制度やら対応の実践練習など、色々と覚えることが多い。どういうわけか、練習段階でギブアップしていくオッサンが何人かいるが、あいつらは次の仕事でどうするつもりなんだろう。
もうちょっと頑張れよと言いたいところだが、他人のことをどうこう言っている場合じゃない。俺自身が生き残らねばならない。別に競うわけじゃないが、ここでの生き残りは想像以上に弱肉強食であることが分かってきた。
当初からやたらと新人が多いとは思っていたが、それは単純に辞めていく奴の数も多いから、絶えず雇い入れをしないと人員の確保が追い付かないというだけの話だった。多くの同期は流しそうめんのように入っては消えていく。
やはり補助金の申請というだけあり、客の質はヤクザみたいな奴らばかりで、理不尽な因縁をつけられたり怒鳴られることもしょっちゅうある。そういう客を相手に出来る人間というのは限られている。
辞めていく大体の人はメンタルを破壊されて去って行く。普通に働いている人間にとって、大声で怒鳴られることは想像以上にストレスなんだろう。
幸か不幸か、俺は夜の街出身のせいか、よほどのことでない限りはそこまで精神的な影響を受けない。理不尽な理由で先輩ホストにボコボコにされている奴もいたし、ホス狂いの客同士がケンカする場面を何度も見てきている。
伊達に修羅の国でこの年齢まで生き抜いてはいけない。ベテランにはある程度の鈍感さも必要なわけだ。だから俺自身はモンスター客をそれほど恐れてはいない。あのバケモノたちは人間ではない――それだけが分かっていればそう傷付くことはない。
問題はこの補助金のややこしいシステムだ。補助金の付与が承認されるには、いくらかの条件がある。それは立場や状況によって多岐に渡るのだが、それを専門にやっている俺ですらシステムの理解が難しいのだから、アホなモンスター顧客にとってそれが理解出来るはずがない。
もう少し単純なシステムにしてくれればモンスター客はかなり減るんだろうが、そうなったら俺たちのお仕事も不要と判断されるだけだろう。嫌なジレンマだ。
それに、本業は金にならない慈善事業だ。これがなければ俺はただのコールセンターでバイトをしているだけの人になる。それだったら普通に正社員で働いていけばいいだろという話になるが、それはそれで生きていく自身がない。夜の世界だけで生き続けて40歳を迎えた男のポテンシャルを舐めないでほしい。色んな意味で。
さて、これからどうやって昼職ライフを楽しむか。幸いにしてここには真理ちゃんと梨乃ちゃんがいる。彼女たちがクレーマーとやり合えるかは怪しいところだが、少なくとも一緒にいられる内は楽しんでいきたい。
特に真理ちゃんは出会い方といいその後の親密さといい運命めいたものを感じるので、もしかしたら本当に未来のヨメになるかもしれない。初日には不可思議な瞬間もあったが、あれ以来、彼女は三白眼になっていない。あのおっかない顔は、きっと気のせいだったのだろう。
昼食も含めた休憩時間は真理ちゃん、そして梨乃ちゃんとツルむことが多くなった。ホストだったから分かるが、現時点では二人とも俺のことが好きになりかけというところだろう。
まあいい。ここは歌舞伎町じゃない。色恋営業を使う必要もないし、シャンパンを入れさせることもない。俺としては、いわゆる普通の人間関係から恋へと発展していく過程を楽しんでみたいというのがある。
やはり顔が良いのは得だ。それだけで扱いが違う。すでに他の社員や派遣社員からも陰で王子様扱いされはじめている。しばらくはこのぬるま湯に浸って、その温かさを堪能することにしよう。
この会社には二種類の男がいる。
――俺か、俺以外か。
ホスト界で伝説となった男の受け売り。構わない。俺が言えば、それは俺の言葉なのだ。
調子に乗った俺は、それが死亡フラグになりつつあることを知らなかった。
もうちょっと頑張れよと言いたいところだが、他人のことをどうこう言っている場合じゃない。俺自身が生き残らねばならない。別に競うわけじゃないが、ここでの生き残りは想像以上に弱肉強食であることが分かってきた。
当初からやたらと新人が多いとは思っていたが、それは単純に辞めていく奴の数も多いから、絶えず雇い入れをしないと人員の確保が追い付かないというだけの話だった。多くの同期は流しそうめんのように入っては消えていく。
やはり補助金の申請というだけあり、客の質はヤクザみたいな奴らばかりで、理不尽な因縁をつけられたり怒鳴られることもしょっちゅうある。そういう客を相手に出来る人間というのは限られている。
辞めていく大体の人はメンタルを破壊されて去って行く。普通に働いている人間にとって、大声で怒鳴られることは想像以上にストレスなんだろう。
幸か不幸か、俺は夜の街出身のせいか、よほどのことでない限りはそこまで精神的な影響を受けない。理不尽な理由で先輩ホストにボコボコにされている奴もいたし、ホス狂いの客同士がケンカする場面を何度も見てきている。
伊達に修羅の国でこの年齢まで生き抜いてはいけない。ベテランにはある程度の鈍感さも必要なわけだ。だから俺自身はモンスター客をそれほど恐れてはいない。あのバケモノたちは人間ではない――それだけが分かっていればそう傷付くことはない。
問題はこの補助金のややこしいシステムだ。補助金の付与が承認されるには、いくらかの条件がある。それは立場や状況によって多岐に渡るのだが、それを専門にやっている俺ですらシステムの理解が難しいのだから、アホなモンスター顧客にとってそれが理解出来るはずがない。
もう少し単純なシステムにしてくれればモンスター客はかなり減るんだろうが、そうなったら俺たちのお仕事も不要と判断されるだけだろう。嫌なジレンマだ。
それに、本業は金にならない慈善事業だ。これがなければ俺はただのコールセンターでバイトをしているだけの人になる。それだったら普通に正社員で働いていけばいいだろという話になるが、それはそれで生きていく自身がない。夜の世界だけで生き続けて40歳を迎えた男のポテンシャルを舐めないでほしい。色んな意味で。
さて、これからどうやって昼職ライフを楽しむか。幸いにしてここには真理ちゃんと梨乃ちゃんがいる。彼女たちがクレーマーとやり合えるかは怪しいところだが、少なくとも一緒にいられる内は楽しんでいきたい。
特に真理ちゃんは出会い方といいその後の親密さといい運命めいたものを感じるので、もしかしたら本当に未来のヨメになるかもしれない。初日には不可思議な瞬間もあったが、あれ以来、彼女は三白眼になっていない。あのおっかない顔は、きっと気のせいだったのだろう。
昼食も含めた休憩時間は真理ちゃん、そして梨乃ちゃんとツルむことが多くなった。ホストだったから分かるが、現時点では二人とも俺のことが好きになりかけというところだろう。
まあいい。ここは歌舞伎町じゃない。色恋営業を使う必要もないし、シャンパンを入れさせることもない。俺としては、いわゆる普通の人間関係から恋へと発展していく過程を楽しんでみたいというのがある。
やはり顔が良いのは得だ。それだけで扱いが違う。すでに他の社員や派遣社員からも陰で王子様扱いされはじめている。しばらくはこのぬるま湯に浸って、その温かさを堪能することにしよう。
この会社には二種類の男がいる。
――俺か、俺以外か。
ホスト界で伝説となった男の受け売り。構わない。俺が言えば、それは俺の言葉なのだ。
調子に乗った俺は、それが死亡フラグになりつつあることを知らなかった。
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