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机の下で
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地獄の講義はまだ続いている。最悪だ。スリプルでもかけられたかのように、俺の意識は遠くへ引っ張られていく。ああ、おそらく井上尚弥に倒されたボクサーっていうのはこういう光景が見えるんだろうなと思う。
と、そんな時――
「んっ」
思わず声が漏れる。大丈夫、講義に掻き消されたお陰で誰にも聞かれていない。だが、問題はそういうことじゃない。
机の下で、俺の手を包む感触。隣を見ると、真理ちゃんが意味ありげな笑顔を浮かべていた。
「眠くなっちゃいますよね」
耳打ち。彼女の吐息が当たる。細い指先は、俺の手の甲を握っている。細い指先は俺の太ももへと移り、その表面を爪の先が撫でた。なんだ、このエロい展開。
真理ちゃんを見やる。いたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを一瞥すると、何事もなかったかのように前を向く。はた目には真面目に講義を受けているようにしか見えないが、その指先は俺の太ももの上でスタッカートを刻んでいた。
勃起した。防ぎようもない。こんなにいい女が下半身を刺激したら、誰だって生殖本能を呼び覚まされるに決まっている。
とはいえ、元ホストの俺が素人に遊ばれているのはよろしくない。それは職業イケメンの沽券に関わる。
俺も対抗して、机の下で真理ちゃんの手をいじくりはじめる。ノールックでさりげなく、性感帯が集まっているとされる手の平の中心を狙っていく。
「ふぅっ」
真理ちゃんが小さく呻く。やはり講義の声に掻き消されて聞こえない。無言で始まった謎の我慢大会。互いの顔をチラチラと見ながら、指先同士を絡ませていく。
静かな闘いは長机の下で続いていく。当初の目的も忘れて、遥か昔に置いてきた性欲というやつがにわかにその姿を現しはじめた。
部屋の最奥では講師役の社員が補助金について平坦な口調で説明を続けている。手元の分厚い資料。もうどこまで進んでいるかも分からない。机の下で遊んでいる俺たちは、完全に意識が勉強の外へと放り出された。
攻防は一進一退。さっきから太ももをしつこく攻められているせいで、完全に勃起している。このネジの飛んだ美女はこの場で俺を射精でもさせるつもりなのか。
「いつまでやるつもりだ?」とばかりに彼女を見る。変な意地でも張っているのか、微笑んでいるように見えても口元がいくらか引きつっている。
そうか。それならトドメを刺してやろう。俺は人差し指の爪を、真理ちゃんの太ももを縦断するように滑らせた。
「ひゃん♡」
クリティカルヒットだったのか、ごまかしようのない声が真理ちゃんから漏れる。他の派遣社員たちがこちらを振り向いた。
「すいません。ちょっとしゃっくりが出ちゃいました♡」
――苦しい。苦しいぞ真理ちゃん。
かなり苦しい言い訳だったが、他の人たちも面倒臭いせいか、何事もなかったかのように前を向いた。
「まだ青いな」
前を向いたまま小声で言うと、真理ちゃんが悔しさを滲ませた顔でじっと見ている。
机の下での攻防。40にしてベテランの俺が、大人気なく勝利を手にして終わった。
と、そんな時――
「んっ」
思わず声が漏れる。大丈夫、講義に掻き消されたお陰で誰にも聞かれていない。だが、問題はそういうことじゃない。
机の下で、俺の手を包む感触。隣を見ると、真理ちゃんが意味ありげな笑顔を浮かべていた。
「眠くなっちゃいますよね」
耳打ち。彼女の吐息が当たる。細い指先は、俺の手の甲を握っている。細い指先は俺の太ももへと移り、その表面を爪の先が撫でた。なんだ、このエロい展開。
真理ちゃんを見やる。いたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを一瞥すると、何事もなかったかのように前を向く。はた目には真面目に講義を受けているようにしか見えないが、その指先は俺の太ももの上でスタッカートを刻んでいた。
勃起した。防ぎようもない。こんなにいい女が下半身を刺激したら、誰だって生殖本能を呼び覚まされるに決まっている。
とはいえ、元ホストの俺が素人に遊ばれているのはよろしくない。それは職業イケメンの沽券に関わる。
俺も対抗して、机の下で真理ちゃんの手をいじくりはじめる。ノールックでさりげなく、性感帯が集まっているとされる手の平の中心を狙っていく。
「ふぅっ」
真理ちゃんが小さく呻く。やはり講義の声に掻き消されて聞こえない。無言で始まった謎の我慢大会。互いの顔をチラチラと見ながら、指先同士を絡ませていく。
静かな闘いは長机の下で続いていく。当初の目的も忘れて、遥か昔に置いてきた性欲というやつがにわかにその姿を現しはじめた。
部屋の最奥では講師役の社員が補助金について平坦な口調で説明を続けている。手元の分厚い資料。もうどこまで進んでいるかも分からない。机の下で遊んでいる俺たちは、完全に意識が勉強の外へと放り出された。
攻防は一進一退。さっきから太ももをしつこく攻められているせいで、完全に勃起している。このネジの飛んだ美女はこの場で俺を射精でもさせるつもりなのか。
「いつまでやるつもりだ?」とばかりに彼女を見る。変な意地でも張っているのか、微笑んでいるように見えても口元がいくらか引きつっている。
そうか。それならトドメを刺してやろう。俺は人差し指の爪を、真理ちゃんの太ももを縦断するように滑らせた。
「ひゃん♡」
クリティカルヒットだったのか、ごまかしようのない声が真理ちゃんから漏れる。他の派遣社員たちがこちらを振り向いた。
「すいません。ちょっとしゃっくりが出ちゃいました♡」
――苦しい。苦しいぞ真理ちゃん。
かなり苦しい言い訳だったが、他の人たちも面倒臭いせいか、何事もなかったかのように前を向いた。
「まだ青いな」
前を向いたまま小声で言うと、真理ちゃんが悔しさを滲ませた顔でじっと見ている。
机の下での攻防。40にしてベテランの俺が、大人気なく勝利を手にして終わった。
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