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金森研二◆
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ああ、どうも。あなたが例の記者さんですか?
そうですか。そりゃご苦労なことですね。こうやって色んな人の話を聞いて回ってるんですか? そら大変ですね。
ところで取材のギャラっていうのはいくらぐらい貰えるものなんですか?
……ああ、思っていたよりもいい金額ですね。それじゃあ頑張って話さないといけませんね。
ええ、あの男の話ですよね。あいつ、前からヤバい奴だと思っていましたけど、予想通りやらかしましたね。
何を知っているのかって訊かれると、大して知ってもいないんですけどね。ただ、近隣住民とのトラブルも多かったし、夜中にいきなり叫び始めるとか、色々と奇行も目立っていましたからね。俺個人としてはクスリでもやってるのかなって思ってましたけど。
そうですねえ……例えば、TEMGAってあるじゃないですか。あの、有名なオナホール。
あいつ、TEMGAを分別せずに燃えるゴミに出しやがったんです。それも、一度にたくさん。
普通ね、ああいう大人のオモチャっていうやつは、使っているのがバレないように努力するものじゃないですか。社会通念上というか、建前上そういうものは見せないというか。
だけど、あのオッサンはそんなの全く気にしないというか、そもそも羞恥心というものが欠落しているような人でした。
あれって中身は紙になっていて、外はプラスチックになっているんですけど、普通であれば使用後は洗って分別して、それから捨てるんですよね。え? ああ、私だって一回ぐらい使ったことはありますからね。いや、ちょっとした興味があっただけです。今はその話はいいでしょうよ。
……話は戻しますけど、あのオッサンは使用済みのオナホを洗うことも無ければ、燃えるゴミと不燃物に分類することもしなかったんです。
この団地にはゴミ出し警察って呼ばれているババ……いや、女性がいましてね。こいつがまたキチガ……じゃなくて厳格な人でして、人のゴミをチェックしては分別がなされているかどうかを確認して、出来ていないとその住民のところへ直接文句を言いに行くんです。
それであのオッサン、分別していない大量のTEMGAを発見されまして……ええ、年食った学級委員長みたいなババ……じゃなくて、その女性は怒り心頭になったわけですよ。
それで「誰がTEMGAを捨てたのか」っていうアダルトなんだかミステリなんだか分からない見出しの張り紙を団地の掲示板にしたんです。で、すぐにあのオッサンが犯人だとバレて……。
それで何の権限かは知らないんですけど、その女性が「直接文句を言いに行ってやる」って言い出して、あの人の部屋まで行ったわけですよ。
仲のいい住民と「これは怪獣対決が見られるな」って軽口を叩きながら、その通りにバケモノ二人の対決を遠くから見ていたんですけど、その結果は意外な形で終わりを告げたんですよね。
あのバ……じゃなくてゴミ出し警察があいつの部屋へ行くと、なんでか部屋の中へ招き入れられたんです。
ああ、こりゃ世紀の一戦を見逃したなと思っていると、あいつの部屋から獣のような声が聞こえてきました。はい、壁が薄いから叫ぶと余裕で聞こえるんですよ。
あ、これ、もしかしたら殺人事件が起こったかも、と思いました。事件の流れを見ているとTEMGA殺人事件とか呼ばれそうな気がしましたが、あのババアも行き着く先は三流ゴシップ記事の主役かと思うと、妙な感慨が湧いてきました。
え? いや、助けようなんて思いませんよ。俺じゃなくても、ここの住人なら誰もそんなことは考えつきもしないですよ。だって、町中に頭のおかしい奴がウロウロしているんですから。
ただ、気にはなったので壁に耳を押し当ててその声を聞いてみたんです。すると、どうやらこの声は断末魔の叫びじゃなくて、ババアの喘ぎ声なんじゃないかと思ったんです。
うわ、あのババアを攻略とか、どこの勇者だよ――率直な感想を言えば、そんなことを思いましたね。だって、あれは妖怪……いや、これ以上はやめておきますけど。
叫び声というか喘ぎ声みたいなのはしばらく続いていましてね、あんまりにも長いので面倒くさくなったのもあり帰ったんです。
まさかあいつとゴミ出し警察がゴールインか。そんなことを思いながら眠りに就きました。
翌日になったら、いつものようにゴミ捨て警察と会いました。お互いに挨拶もしないで空気扱いですれ違うんですけど、その時のババアの目、忘れられませんね。
何て言うか、女にされたというよりは、人間として大切な何かが欠落してしまった顔でした。いや、もともと色んなものが欠落しまくったババアだったのは間違いないんですけど、言うなれば魂が抜かれた感じというか、無愛想なロボットがさらに愛想を失った感じですかね。いい表現が思いつかないですけど。
とにかくゴミ捨て警察のババアがあいつの女にされた噂は結構盛り上がりました。蓼食う虫も好き好きなんて言いますが、あのババアの場合はあまりにも悪食というか……。まあ、世の中にはもの好きがいるよねって話で盛り上がったんです。
そんな感じで近隣住民の下衆な噂話も落ち着いた頃になって、すっかり牙を抜かれたババアを見なくなりました。まあ、彼女を好きな人なんていませんでしたから、「なんか最近あのババア見ないね」ぐらいの話だったんですけど、そんな時に事件が起こりました。
ババアが、首を吊って死んでいたそうです。
これは不動産会社の人から聞いたので間違いないです。ええ、これで立派な事故物件ですよ、ここも。
ただ、ここって土地柄本当に色んなことが起こるので、ババアが死んだと聞いた時は驚きましたけど、考えてみたらそう珍しいことでもないなと思ったんです。おそらくこれは住民全員がそんな感じなんじゃないですかね。みんながみんな、行き着いた果てがここって感じの人ばかりだったので。
……え? 彼ですか?
イケメン? いや、そうは思いませんけどねえ……。でも、近くで見たら違う感じなのかもしれませんね。でも、さすがにあれはどう擁護しても……。
まあ、謎の多い人でしたよ。俺に言われたくないだろうけど。
俺の知っている話はこれぐらいですかね。あの時ババアとヤっていたんだろうなとは思いますけど、実際のところ見たわけじゃないですからね。もしかしたら指を一本ずつ切り落としていただけかもしれないし。
あいつ、どうなるんですか? 求刑は死刑になるんですかね?
どちらにせよ行き先は地獄ですよ。生きるも地獄、死ぬも地獄。そう考えると、なんだかヤケになっちまった彼の気持ちも分からないでもないですけどね。
いや、でも分からないか。あんなことをやった奴の脳ミソがどうなっていたかなんて、きっと誰にも分からないですよ。それが狂人なんでしょうね。
そうですか。そりゃご苦労なことですね。こうやって色んな人の話を聞いて回ってるんですか? そら大変ですね。
ところで取材のギャラっていうのはいくらぐらい貰えるものなんですか?
……ああ、思っていたよりもいい金額ですね。それじゃあ頑張って話さないといけませんね。
ええ、あの男の話ですよね。あいつ、前からヤバい奴だと思っていましたけど、予想通りやらかしましたね。
何を知っているのかって訊かれると、大して知ってもいないんですけどね。ただ、近隣住民とのトラブルも多かったし、夜中にいきなり叫び始めるとか、色々と奇行も目立っていましたからね。俺個人としてはクスリでもやってるのかなって思ってましたけど。
そうですねえ……例えば、TEMGAってあるじゃないですか。あの、有名なオナホール。
あいつ、TEMGAを分別せずに燃えるゴミに出しやがったんです。それも、一度にたくさん。
普通ね、ああいう大人のオモチャっていうやつは、使っているのがバレないように努力するものじゃないですか。社会通念上というか、建前上そういうものは見せないというか。
だけど、あのオッサンはそんなの全く気にしないというか、そもそも羞恥心というものが欠落しているような人でした。
あれって中身は紙になっていて、外はプラスチックになっているんですけど、普通であれば使用後は洗って分別して、それから捨てるんですよね。え? ああ、私だって一回ぐらい使ったことはありますからね。いや、ちょっとした興味があっただけです。今はその話はいいでしょうよ。
……話は戻しますけど、あのオッサンは使用済みのオナホを洗うことも無ければ、燃えるゴミと不燃物に分類することもしなかったんです。
この団地にはゴミ出し警察って呼ばれているババ……いや、女性がいましてね。こいつがまたキチガ……じゃなくて厳格な人でして、人のゴミをチェックしては分別がなされているかどうかを確認して、出来ていないとその住民のところへ直接文句を言いに行くんです。
それであのオッサン、分別していない大量のTEMGAを発見されまして……ええ、年食った学級委員長みたいなババ……じゃなくて、その女性は怒り心頭になったわけですよ。
それで「誰がTEMGAを捨てたのか」っていうアダルトなんだかミステリなんだか分からない見出しの張り紙を団地の掲示板にしたんです。で、すぐにあのオッサンが犯人だとバレて……。
それで何の権限かは知らないんですけど、その女性が「直接文句を言いに行ってやる」って言い出して、あの人の部屋まで行ったわけですよ。
仲のいい住民と「これは怪獣対決が見られるな」って軽口を叩きながら、その通りにバケモノ二人の対決を遠くから見ていたんですけど、その結果は意外な形で終わりを告げたんですよね。
あのバ……じゃなくてゴミ出し警察があいつの部屋へ行くと、なんでか部屋の中へ招き入れられたんです。
ああ、こりゃ世紀の一戦を見逃したなと思っていると、あいつの部屋から獣のような声が聞こえてきました。はい、壁が薄いから叫ぶと余裕で聞こえるんですよ。
あ、これ、もしかしたら殺人事件が起こったかも、と思いました。事件の流れを見ているとTEMGA殺人事件とか呼ばれそうな気がしましたが、あのババアも行き着く先は三流ゴシップ記事の主役かと思うと、妙な感慨が湧いてきました。
え? いや、助けようなんて思いませんよ。俺じゃなくても、ここの住人なら誰もそんなことは考えつきもしないですよ。だって、町中に頭のおかしい奴がウロウロしているんですから。
ただ、気にはなったので壁に耳を押し当ててその声を聞いてみたんです。すると、どうやらこの声は断末魔の叫びじゃなくて、ババアの喘ぎ声なんじゃないかと思ったんです。
うわ、あのババアを攻略とか、どこの勇者だよ――率直な感想を言えば、そんなことを思いましたね。だって、あれは妖怪……いや、これ以上はやめておきますけど。
叫び声というか喘ぎ声みたいなのはしばらく続いていましてね、あんまりにも長いので面倒くさくなったのもあり帰ったんです。
まさかあいつとゴミ出し警察がゴールインか。そんなことを思いながら眠りに就きました。
翌日になったら、いつものようにゴミ捨て警察と会いました。お互いに挨拶もしないで空気扱いですれ違うんですけど、その時のババアの目、忘れられませんね。
何て言うか、女にされたというよりは、人間として大切な何かが欠落してしまった顔でした。いや、もともと色んなものが欠落しまくったババアだったのは間違いないんですけど、言うなれば魂が抜かれた感じというか、無愛想なロボットがさらに愛想を失った感じですかね。いい表現が思いつかないですけど。
とにかくゴミ捨て警察のババアがあいつの女にされた噂は結構盛り上がりました。蓼食う虫も好き好きなんて言いますが、あのババアの場合はあまりにも悪食というか……。まあ、世の中にはもの好きがいるよねって話で盛り上がったんです。
そんな感じで近隣住民の下衆な噂話も落ち着いた頃になって、すっかり牙を抜かれたババアを見なくなりました。まあ、彼女を好きな人なんていませんでしたから、「なんか最近あのババア見ないね」ぐらいの話だったんですけど、そんな時に事件が起こりました。
ババアが、首を吊って死んでいたそうです。
これは不動産会社の人から聞いたので間違いないです。ええ、これで立派な事故物件ですよ、ここも。
ただ、ここって土地柄本当に色んなことが起こるので、ババアが死んだと聞いた時は驚きましたけど、考えてみたらそう珍しいことでもないなと思ったんです。おそらくこれは住民全員がそんな感じなんじゃないですかね。みんながみんな、行き着いた果てがここって感じの人ばかりだったので。
……え? 彼ですか?
イケメン? いや、そうは思いませんけどねえ……。でも、近くで見たら違う感じなのかもしれませんね。でも、さすがにあれはどう擁護しても……。
まあ、謎の多い人でしたよ。俺に言われたくないだろうけど。
俺の知っている話はこれぐらいですかね。あの時ババアとヤっていたんだろうなとは思いますけど、実際のところ見たわけじゃないですからね。もしかしたら指を一本ずつ切り落としていただけかもしれないし。
あいつ、どうなるんですか? 求刑は死刑になるんですかね?
どちらにせよ行き先は地獄ですよ。生きるも地獄、死ぬも地獄。そう考えると、なんだかヤケになっちまった彼の気持ちも分からないでもないですけどね。
いや、でも分からないか。あんなことをやった奴の脳ミソがどうなっていたかなんて、きっと誰にも分からないですよ。それが狂人なんでしょうね。
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