27 / 44
遠野さんの独白1
しおりを挟む
僕は社会人になる前、V系のバンドでヴォーカルをやっていました。V系というのはビジュアル系のことで、有名どころではX JAPANやLUNA SEAのようにメイクをしてやるバンドのことですね。
僕は本気で彼らのようになりたくて、毎日音楽に命を懸けていました。
暇さえあれば練習していたし、移動中でも曲を研究しているか書いているレベルで、日常生活の全てが音楽になっていました。
破天荒な人というか、ただ豪快なだけの人もたくさんいたんですけど、僕は酒も飲まず、女の子とも遊ばずに自分がどこまで行けるのかをただ追及していました。
活動時の名前はRAYでした。これは僕の本名が零であるのと、太陽の光を意味するrayをかけたものです。
僕達のバンド、Magical Rayはインディーズですぐに頭角を現しました。なにせ全員がストイックで才能の塊みたいな奴らでしたから。
インディーズでありながら、音源を出せばすぐにチャート・イン。大した儲けにはなりませんでしたが、将来のVロックを担う新気鋭なんて言われていたこともありました。
そんな状態なので、当時は桁違いにモテました。ファンからは何万回も「愛している」って言われたし、あわよくば一夜の恋人になろうとする女性が後を絶ちませんでした。
ただ、僕には誰にも言っていないことが一つありました。
おそらくハーレムを作れるレベルにまでモテまくっていた僕には、女性経験がありませんでした。
というのも、僕がストイック過ぎて「女になんかかまけていられない」と創作活動に人生の全てを注ぎ込んでいたせいです。
当時の僕は、付き合っている人に創作時間を削られることが耐えられませんでした。それだけ自分のやっていることに夢中だったというか、自分の世界に部外者を介入させたくなかったというのがあります。
ええ、まあ、引きますよね。そうだろうと思いますよ。ただ、当時の僕はただ本気だったんです。自分が遊んでいる間に他のもっと才能のある人が練習していると思うと、もう気が狂いそうになりました。今考えたら、そんな風になっている時点で才能なんて無かったんでしょうけどね。
そんなわけで、メンバーですら引くほどストイックだった僕は、女性と触れ合う機会を失ったまま年齢を重ねていきました。
今考えたら、まあ不思議な光景でしょうね。恋愛経験が無いにも関わらず、愛だ恋だの歌っているんですから。まあ、これもある程度はテンプレート的というか、表現方法が決まっているんですよね。V系の歌詞独自の文脈というか、これを言えば伝わるみたいなのがあるんです。
ただ、創作物は才能のあるメンバーが全力を注いで作っているので、我ながら素晴らしいものができたと思っています。現に僕の歌で多くの人々が感動しては拳を振り上げ、ヘッドバンギングで髪を振り乱し、涙すら流すんですから。それは誰にでもできる芸当ではないと思います。
話は逸れましたけど、全力で走り抜けてきたこともあり、我らMagical Rayはあと少しでメジャーデビューというところまで来ました。バンドマンにとってメジャーデビューは夢の一つです。
メジャー行きの前に有名なライブハウスでの公演が決まっていました。キャパシティが千人を超える、大きなライブハウスです。この公演でメジャーデビューが発表される予定でした。
僕たちはものすごくワクワクしていました。とうとう今まで重ねてきた努力が実って、より多くの人を熱狂させられる時が来るのだ――バンドをやっている人で、この状況に興奮しない人なんて絶対にいません。
だから僕たちは輪をかけて練習しました。記念すべき日に、最高の音を届けられるように。メンバーの一人一人がそう思っていたはずです。
ですが、あの事件が起こりました。
今でもあれさえなければ、僕は違う人生を歩んでいたのではないかと思います。
僕は本気で彼らのようになりたくて、毎日音楽に命を懸けていました。
暇さえあれば練習していたし、移動中でも曲を研究しているか書いているレベルで、日常生活の全てが音楽になっていました。
破天荒な人というか、ただ豪快なだけの人もたくさんいたんですけど、僕は酒も飲まず、女の子とも遊ばずに自分がどこまで行けるのかをただ追及していました。
活動時の名前はRAYでした。これは僕の本名が零であるのと、太陽の光を意味するrayをかけたものです。
僕達のバンド、Magical Rayはインディーズですぐに頭角を現しました。なにせ全員がストイックで才能の塊みたいな奴らでしたから。
インディーズでありながら、音源を出せばすぐにチャート・イン。大した儲けにはなりませんでしたが、将来のVロックを担う新気鋭なんて言われていたこともありました。
そんな状態なので、当時は桁違いにモテました。ファンからは何万回も「愛している」って言われたし、あわよくば一夜の恋人になろうとする女性が後を絶ちませんでした。
ただ、僕には誰にも言っていないことが一つありました。
おそらくハーレムを作れるレベルにまでモテまくっていた僕には、女性経験がありませんでした。
というのも、僕がストイック過ぎて「女になんかかまけていられない」と創作活動に人生の全てを注ぎ込んでいたせいです。
当時の僕は、付き合っている人に創作時間を削られることが耐えられませんでした。それだけ自分のやっていることに夢中だったというか、自分の世界に部外者を介入させたくなかったというのがあります。
ええ、まあ、引きますよね。そうだろうと思いますよ。ただ、当時の僕はただ本気だったんです。自分が遊んでいる間に他のもっと才能のある人が練習していると思うと、もう気が狂いそうになりました。今考えたら、そんな風になっている時点で才能なんて無かったんでしょうけどね。
そんなわけで、メンバーですら引くほどストイックだった僕は、女性と触れ合う機会を失ったまま年齢を重ねていきました。
今考えたら、まあ不思議な光景でしょうね。恋愛経験が無いにも関わらず、愛だ恋だの歌っているんですから。まあ、これもある程度はテンプレート的というか、表現方法が決まっているんですよね。V系の歌詞独自の文脈というか、これを言えば伝わるみたいなのがあるんです。
ただ、創作物は才能のあるメンバーが全力を注いで作っているので、我ながら素晴らしいものができたと思っています。現に僕の歌で多くの人々が感動しては拳を振り上げ、ヘッドバンギングで髪を振り乱し、涙すら流すんですから。それは誰にでもできる芸当ではないと思います。
話は逸れましたけど、全力で走り抜けてきたこともあり、我らMagical Rayはあと少しでメジャーデビューというところまで来ました。バンドマンにとってメジャーデビューは夢の一つです。
メジャー行きの前に有名なライブハウスでの公演が決まっていました。キャパシティが千人を超える、大きなライブハウスです。この公演でメジャーデビューが発表される予定でした。
僕たちはものすごくワクワクしていました。とうとう今まで重ねてきた努力が実って、より多くの人を熱狂させられる時が来るのだ――バンドをやっている人で、この状況に興奮しない人なんて絶対にいません。
だから僕たちは輪をかけて練習しました。記念すべき日に、最高の音を届けられるように。メンバーの一人一人がそう思っていたはずです。
ですが、あの事件が起こりました。
今でもあれさえなければ、僕は違う人生を歩んでいたのではないかと思います。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる