【完結】【R18】あなたがわたしの推しだから~幸薄いアラサー処女の不器用すぎるオフィスラブ~

月狂 紫乃/月狂 四郎

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わたしの黒歴史3

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 もう後が無いせいか、わたしの行動は今までにないくらい早かった。

 事務所を辞めたわたしは、地下アイドルグループのオーディションに受かった。なんだかんだ、修行で培ったスキルは役立った。

 今後の活動は地下アイドルがメインになる。心機一転と言えば聞こえはいいけど、不安要素はたくさんあった。

 まずそこは本当に弱小のアイドルグループで、ネットで名前が出ても「誰それ?」ってレベルの知名度だった。加えて歌もダンスも拙いというよりは素人丸出しな感じのコが多く、昔のわたしを何人も集めたみたいだった。

 こんなレベルのグループで活動していて未来はあるんだろうか――脳裏には不安ばかりがよぎった。失礼すぎる考えかもしれないけれど、事実として地下アイドルはピンキリだ。

 だけど、それでも実績がゼロよりは遥かにマシだった。わたしは年齢を五歳サバ読んでから活動を始めた。干支を訊かれても答えられるようにしておいた。

 ただ、活動そのものは本当に順調だった。実力派のポジションで加入したわたしは、これまで受けた不遇を吹き飛ばす勢いで歌い、踊った。ファンもそれなりに付いて、推してくれる人も出てきた。

 嬉しかった。ようやく自分の苦労が実を結んだみたいで、報われた感じがした。一般的な知名度は全然だったけど、それは他の地下アイドルも同じだから大して気にならなかった。

 収入は物販やチェキ、あとはクラウドファンディングやらを総動員して稼いだ。バイトが無いと生きていけないレベルだったけど、それでも前に比べたら見てくれる人がいる分、遥かにマシだった。

 今振り返るとそれなりに楽しい時期だったんだな、と思う。だけど、当時は売れてやろうと必死だった。

 思えば、芸能事務所で腐っている時間が長すぎた。レッスンは決して無駄ではなかったけど、それを差し引いても無駄にした時間はたくさんあったように思える。もうアイドルとしては若くない。その前にメジャーな舞台へと上がっていかないと。

 だけど、同じことを考えているグループはいくらでもいるわけで、わたし達のところへ来るファンは他のアイドルグループも見に行っている。

 ライブをやっても、イベントをやっても来る人は大体同じ。だから、わたし達のライブや活動が盛り上がっているようには見えても、実際にそのファンの数は右肩上がりとはいかなかった。

 わたしは言ってみれば、とても小さな世界でチヤホヤされるオタサーの姫みたいな存在だった。まあ、規模がすべてじゃないし、売れていれば幸せってわけじゃないけど、それでも自分のやってきたことを誇れるかどうかっていうのは、どれだけ売れていたかが大いに関係ある。

 そう考えると、このままの規模で活動してアイドルの賞味期限切れを迎えるのが本当に正しいのかという疑問が生まれた。

 もっと、売れたい。誰もが憧れるぐらいの輝きがほしい。

 わたしの中で、今までに無い野心が生まれた。

 正直なところ、このまま同じことをやり続けて売れっ子になれるとは少しも思っていない。

 だから少しでも今より売れようとして、SNSやらファンとの交流やら、可能な限りできることは全部やった。それでもある程度いくと効果は頭打ちになる。

 ――ああ、やっぱりやる気だけではどうにもならないこともあるんだな。

 事務所の力とかもあるし、その他もろもろのパワーバランスというか、自分にはどうにもならない要素でトップどころが売れているのが分かってきた。残念ながら、それはわたしが努力してどうにかなる要素じゃない。

 頑張っている自分の裏で、やればやるほど意欲を失っていく自分もいた。完全な二重人格。どちらのわたしが勝つのか。本体のわたしは、離れた所からそのシーソーゲームをぼんやりと眺めていた。

 そんな時に魔が差したというか、わたしのキャリアにおいて致命的な事件が起こる。
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