40 / 44
まさかの犯人
しおりを挟む
誹謗中傷の件はまだ終わっていなかった。
ボコボコにしたとはいえ、先日は大会に突撃してくるアホが出るという実害を被っている。
あたしの肉体が科学的に女かどうかは競技に関係のある機関だけが認知していればいいわけで、一部の好事家の趣味であたしのプライバシーが侵害されたり誹謗中傷を浴びせてもお咎めのない状況があってはならない。
平たく言えば、誹謗中傷を行っていた奴を炙り出す。
あたしは練習と併行しつつ、今回の誹謗中傷を行った犯人を捜し始めた。なにせ協力者はいくらでもいる。ネットに詳しいファンへ協力を依頼して、誰が今回の炎上を煽っていたのかを辿ってもらった。
そんな奴らに事あるごとに攻撃をされていたら競技に集中出来ない。あたしにだって安心して毎日を暮らしていく権利ぐらいはある。
依頼したプログラマーのファンは優秀だった。SNSの事情にも通じており、彼も炎上騒動であたしを知ってファンになるという変わった経緯で仲間になった人間だった。
炎上の経緯でファンになっただけあり、彼は犯人を特定する条件が揃っていた。
放火のメソッドは割とシンプルだった。
匿名同士のグチを言い合うプラットフォームがあり、そこではハンドルネームもなくメールアドレスも表示されない。誰かが投下した職場や友人のグチに対して、他の誰かが「大変だったね」と話を聞いてあげるシステムだ。
悩みを抱えてはいても実際問題人間関係への影響から吐き出せない状況を持つ人にとって、このプラットフォームは救いにもなっていた。
それ自体はまったく構わないし、むしろ誰かを助けている分すごいことをしていると思う。
だけど、あたしや天城楓花の誹謗中傷を行った人間は、このシステムを悪用した。
そいつはあたしや楓花が生物学的には男だというエビデンスがあるかのような書き込みを行い、それを内部告発する形で投稿をしていた。
あとはその火元をどんどん煽って大火事にしていけばいいだけの話だ。具体的には、無数に作ったフェイク用のアカウントで拡散して、それを引き継ぐ形でもっとフォロワー数の多いアカウントが拡散していく。そうすると、まるで雪だるまが転がって大きくなるように炎は広がっていく。
こういった炎上はしばしば正義感で起こると聞いたことがある。「不正を許すな」とか「悪を野放しにしてはいけない」という思いばかりが先行して、実際にその情報が本当かどうか立ち止まって検証するプロセスがごっそり抜けてしまう。それは拡散する側が義憤に駆られて冷静さを失ってしまうからだ。
目的がただ罰することだけになった正義は人を傷付ける。それは誹謗中傷へと変わり、気付けば自分も加害者になっている。
あたしはどういったわけかそのターゲットにされていた。そこまで怨まれることもやっていないはずなので、どうせ犯人は面白半分にあたしをオモチャにしようと決めたのだろう。
いずれにしても、協力を依頼したファンはこの流れの初期から炎上の拡散を見ていた人なので、本当に悪い奴の存在をすでに突き止めていた。
犯人の名前を聞いて驚いた。
炎上騒動を引き起こしていた実行犯は、吾妻タツだった。
そう、わざわざあたしの学校まで乗り込んできてスパーリングをした元格闘家だ。
スパーではボコボコにして倒したけど、やはり根に持っていたか。
吾妻はあたしにボコられた映像をネットで拡散されて、それはそれで有名人になっていた。女子のアマチュア選手にケンカを打って返り討ちにされたダサい奴として。
それはそれであちこちに拡散されたので、そもそもヨゴレで稼いでいる吾妻にとっては痛くもかゆくもないかったはずなんだけど、こういうことを裏でやっているあたりから考えるとプライドを傷付けられた感覚を持ったんだろうなとは思う。知ったこっちゃないけど。
しかしこいつは本当にろくでもないな。
関わりたくないから距離を置いたのに、こうやって水面下で嫌がらせをしているなんて陰湿過ぎる。
迷惑系か何かは知らないけど、犯罪者予備軍とは違うんだからね?
あたしはこいつに反撃することにした。
調査を完了したプログラマーのファンに依頼して、「お前が嫌がらせをしたという動かぬ証拠を手に入れたから公開されたくなければ自分から謝罪しろ」とメッセージを送った。
吾妻のアカウントは一般的にも公開されているので、コンタクトは簡単だった。実際にネット上での放火を行ったのは吾妻の別アカウントだ。それでも脇が甘いせいで、少し調べたらそれが吾妻のものであることが分かるヒントが残されている。
警察に行って刑事事件にする手もあるけど、立件まで手間がかかるし、仮に起訴出来たとしても実刑まで持っていくのが難しいと思われた。それじゃあ意味がない。
賠償金とかも考えたけど、時間も費用もかかるしこいつはまともに出廷しないなど、さらなる嫌がらせを重ねてくるだろう。
そんなことに人生の時間を浪費したくないので、自分の罪を告白し、謝罪を行うことを求めた。おそらくそれがプライドの高いこいつにとって一番の罰になるだろう。
対応はあたしの意向を聞いたプログラマーが行った。会社で法務関係の仕事もちょっとかじったことがあるそうで、法律用語でちょいちょいと脅しながら、根気強く吾妻に謝罪を求めていった。
吾妻は「俺は迷惑系だから」と開き直る形であちこちに迷惑をかけてきたが、ガチの訴訟案件に出くわした経験はないはずだった。それは彼が本能的に相手を選んでいたこともある。
今回も相手がJKなら不法行為を行ってもどうとでもなると思っていたのだろう。だけど、たくさんのファンを獲得していった中には、プログラマーや法務関係に詳しい人もいた。あたしは単にそういう人たちに助けを求めた。起ったことはそれだけだ。
この騒動が明るみに出ればいよいよ吾妻タツは人生そのものがオワコンになるだろう。
別に彼の人生を終了させるのがゴールではない。だからもう一度だけ彼にチャンスをあげることにした。まともな頭をしていれば恥をかいたとしても謝罪をするだろう。
だけど、あたしは彼のクズっぷりを甘く見ていた。
この炎上騒動を皮切りにして、予想外の事実が出てくるなんて夢にも思っていなかった。
ボコボコにしたとはいえ、先日は大会に突撃してくるアホが出るという実害を被っている。
あたしの肉体が科学的に女かどうかは競技に関係のある機関だけが認知していればいいわけで、一部の好事家の趣味であたしのプライバシーが侵害されたり誹謗中傷を浴びせてもお咎めのない状況があってはならない。
平たく言えば、誹謗中傷を行っていた奴を炙り出す。
あたしは練習と併行しつつ、今回の誹謗中傷を行った犯人を捜し始めた。なにせ協力者はいくらでもいる。ネットに詳しいファンへ協力を依頼して、誰が今回の炎上を煽っていたのかを辿ってもらった。
そんな奴らに事あるごとに攻撃をされていたら競技に集中出来ない。あたしにだって安心して毎日を暮らしていく権利ぐらいはある。
依頼したプログラマーのファンは優秀だった。SNSの事情にも通じており、彼も炎上騒動であたしを知ってファンになるという変わった経緯で仲間になった人間だった。
炎上の経緯でファンになっただけあり、彼は犯人を特定する条件が揃っていた。
放火のメソッドは割とシンプルだった。
匿名同士のグチを言い合うプラットフォームがあり、そこではハンドルネームもなくメールアドレスも表示されない。誰かが投下した職場や友人のグチに対して、他の誰かが「大変だったね」と話を聞いてあげるシステムだ。
悩みを抱えてはいても実際問題人間関係への影響から吐き出せない状況を持つ人にとって、このプラットフォームは救いにもなっていた。
それ自体はまったく構わないし、むしろ誰かを助けている分すごいことをしていると思う。
だけど、あたしや天城楓花の誹謗中傷を行った人間は、このシステムを悪用した。
そいつはあたしや楓花が生物学的には男だというエビデンスがあるかのような書き込みを行い、それを内部告発する形で投稿をしていた。
あとはその火元をどんどん煽って大火事にしていけばいいだけの話だ。具体的には、無数に作ったフェイク用のアカウントで拡散して、それを引き継ぐ形でもっとフォロワー数の多いアカウントが拡散していく。そうすると、まるで雪だるまが転がって大きくなるように炎は広がっていく。
こういった炎上はしばしば正義感で起こると聞いたことがある。「不正を許すな」とか「悪を野放しにしてはいけない」という思いばかりが先行して、実際にその情報が本当かどうか立ち止まって検証するプロセスがごっそり抜けてしまう。それは拡散する側が義憤に駆られて冷静さを失ってしまうからだ。
目的がただ罰することだけになった正義は人を傷付ける。それは誹謗中傷へと変わり、気付けば自分も加害者になっている。
あたしはどういったわけかそのターゲットにされていた。そこまで怨まれることもやっていないはずなので、どうせ犯人は面白半分にあたしをオモチャにしようと決めたのだろう。
いずれにしても、協力を依頼したファンはこの流れの初期から炎上の拡散を見ていた人なので、本当に悪い奴の存在をすでに突き止めていた。
犯人の名前を聞いて驚いた。
炎上騒動を引き起こしていた実行犯は、吾妻タツだった。
そう、わざわざあたしの学校まで乗り込んできてスパーリングをした元格闘家だ。
スパーではボコボコにして倒したけど、やはり根に持っていたか。
吾妻はあたしにボコられた映像をネットで拡散されて、それはそれで有名人になっていた。女子のアマチュア選手にケンカを打って返り討ちにされたダサい奴として。
それはそれであちこちに拡散されたので、そもそもヨゴレで稼いでいる吾妻にとっては痛くもかゆくもないかったはずなんだけど、こういうことを裏でやっているあたりから考えるとプライドを傷付けられた感覚を持ったんだろうなとは思う。知ったこっちゃないけど。
しかしこいつは本当にろくでもないな。
関わりたくないから距離を置いたのに、こうやって水面下で嫌がらせをしているなんて陰湿過ぎる。
迷惑系か何かは知らないけど、犯罪者予備軍とは違うんだからね?
あたしはこいつに反撃することにした。
調査を完了したプログラマーのファンに依頼して、「お前が嫌がらせをしたという動かぬ証拠を手に入れたから公開されたくなければ自分から謝罪しろ」とメッセージを送った。
吾妻のアカウントは一般的にも公開されているので、コンタクトは簡単だった。実際にネット上での放火を行ったのは吾妻の別アカウントだ。それでも脇が甘いせいで、少し調べたらそれが吾妻のものであることが分かるヒントが残されている。
警察に行って刑事事件にする手もあるけど、立件まで手間がかかるし、仮に起訴出来たとしても実刑まで持っていくのが難しいと思われた。それじゃあ意味がない。
賠償金とかも考えたけど、時間も費用もかかるしこいつはまともに出廷しないなど、さらなる嫌がらせを重ねてくるだろう。
そんなことに人生の時間を浪費したくないので、自分の罪を告白し、謝罪を行うことを求めた。おそらくそれがプライドの高いこいつにとって一番の罰になるだろう。
対応はあたしの意向を聞いたプログラマーが行った。会社で法務関係の仕事もちょっとかじったことがあるそうで、法律用語でちょいちょいと脅しながら、根気強く吾妻に謝罪を求めていった。
吾妻は「俺は迷惑系だから」と開き直る形であちこちに迷惑をかけてきたが、ガチの訴訟案件に出くわした経験はないはずだった。それは彼が本能的に相手を選んでいたこともある。
今回も相手がJKなら不法行為を行ってもどうとでもなると思っていたのだろう。だけど、たくさんのファンを獲得していった中には、プログラマーや法務関係に詳しい人もいた。あたしは単にそういう人たちに助けを求めた。起ったことはそれだけだ。
この騒動が明るみに出ればいよいよ吾妻タツは人生そのものがオワコンになるだろう。
別に彼の人生を終了させるのがゴールではない。だからもう一度だけ彼にチャンスをあげることにした。まともな頭をしていれば恥をかいたとしても謝罪をするだろう。
だけど、あたしは彼のクズっぷりを甘く見ていた。
この炎上騒動を皮切りにして、予想外の事実が出てくるなんて夢にも思っていなかった。
2
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。


【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる