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伝説が始まる日
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スパーが終わった後、ボクシング部でエース的な立場にいた加藤君はガチヘコみ中だった。
そりゃそうだろう。いくら経験者とはいえ、女子選手にいいところもなくやられたのだから。「俺」が前世でそんな目に遭っていれば自害も考える。
とはいえ、中身は男だからね。
こういうのをTS転生って言うらしいけど、あたしのパンチ力は「俺」だった頃とそう変わっていない気がした。というか、前世でも腕力を必要としない打ち方だったら腕が細くなろうが大して威力が変わらなかっただけの話なんだと思う。
リングから降りてヘッドギアを外すと、ドン引きした佐竹先生があたしを見ていた。
「君は、何なんだ……」
眼鏡の奥には、信じられないものを見たという驚きがあった。
「はい。まあ、ただの経験者です」
アホなあたしだって、本当のことを言えばおかしなことなることぐらいは分かる。
「いや、ただの経験者があんな動きをするわけないだろ」
佐竹先生は割とド正論で反論する。
キレ味全開でパンチを放ったのはちょっと失敗だったかもしれない。だけど、相手の皮膚を切り裂くように放ってきたパンチは肉体どころか魂に染み付いている。どれだけ肉体を入れ替わろうと、技術は死なない。
まあいいや。佐竹先生が驚くのなんて当たり前だし、あたしもこの面倒くさい問題に長く関わりたくない。話題を変えよう。
「それで、あたしは入部テスト合格ですか?」
「ああ、そりゃあ、もちろん。君なら本当にオリンピックで優勝することだって夢じゃない!」
佐竹先生が興奮気味に続ける。
「君は絶対に世界の頂点に立つ! ぜひ、ウチのボクシング部に入部してくれ。俺が全責任を持って君を最高の選手にしてみせる!」
本でよく見た、プロボクシングあるある感に満ちた運命の出会い。世界チャンピオンの師匠たちも、こうやってドラマチックな出会いを経験することが割にあるらしい。
結局新しい人生でもおんなじことをやるのか。
せっかく超絶美少女のJKに生まれ変わったんだから、チートな人生のうま味ばかりを追い求めてやろうかと思っていたのに。
でも、まあ、あたしには結局これしか出来ないのかもしれない。
なんか思っていたチートで無双みたいな話とはちょっと違う気がするけど、新しい人生を素直に楽しむっていうのもアリなのかもな、なんて思う。
前世では結局無冠で終わっていたし、ここでオリンピック制覇と世界チャンピオンの両方も狙っていいのかも。
転生して、ようやく人生の目標らしきものが出来た。
そりゃそうだろう。いくら経験者とはいえ、女子選手にいいところもなくやられたのだから。「俺」が前世でそんな目に遭っていれば自害も考える。
とはいえ、中身は男だからね。
こういうのをTS転生って言うらしいけど、あたしのパンチ力は「俺」だった頃とそう変わっていない気がした。というか、前世でも腕力を必要としない打ち方だったら腕が細くなろうが大して威力が変わらなかっただけの話なんだと思う。
リングから降りてヘッドギアを外すと、ドン引きした佐竹先生があたしを見ていた。
「君は、何なんだ……」
眼鏡の奥には、信じられないものを見たという驚きがあった。
「はい。まあ、ただの経験者です」
アホなあたしだって、本当のことを言えばおかしなことなることぐらいは分かる。
「いや、ただの経験者があんな動きをするわけないだろ」
佐竹先生は割とド正論で反論する。
キレ味全開でパンチを放ったのはちょっと失敗だったかもしれない。だけど、相手の皮膚を切り裂くように放ってきたパンチは肉体どころか魂に染み付いている。どれだけ肉体を入れ替わろうと、技術は死なない。
まあいいや。佐竹先生が驚くのなんて当たり前だし、あたしもこの面倒くさい問題に長く関わりたくない。話題を変えよう。
「それで、あたしは入部テスト合格ですか?」
「ああ、そりゃあ、もちろん。君なら本当にオリンピックで優勝することだって夢じゃない!」
佐竹先生が興奮気味に続ける。
「君は絶対に世界の頂点に立つ! ぜひ、ウチのボクシング部に入部してくれ。俺が全責任を持って君を最高の選手にしてみせる!」
本でよく見た、プロボクシングあるある感に満ちた運命の出会い。世界チャンピオンの師匠たちも、こうやってドラマチックな出会いを経験することが割にあるらしい。
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でも、まあ、あたしには結局これしか出来ないのかもしれない。
なんか思っていたチートで無双みたいな話とはちょっと違う気がするけど、新しい人生を素直に楽しむっていうのもアリなのかもな、なんて思う。
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