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入部直後に
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「ちわーっす」
ついつい昔の癖で挨拶してしまう。どういうわけか、ボクシングジムの挨拶はどこへ行っても「ちわーっす」で通る。アメリカのワッツアップみたいなものだろう。周囲からも条件反射で「ちわーっす」っと挨拶が返ってくる。
あたしは早速放課後になるとボクシング部にやってきた。そうでもしないとモテ過ぎて帰らしてもらえないからだ。美少女に転生したら毎日楽しく暮らしてとか考えていたけど、因果なものだ。
やっぱり超絶美少女はボクシング部で浮いてしまうのか、あちこちから「え? なに?」という視線が集まってくる。きっとみんなの目にはあたしが酢豚に入ったパイナップルぐらいに見えているんだろう。
周囲を見渡す。リングサイドに監督らしき人を発見。怪訝な目をこちらに向けていた。でかくて筋肉質、眼鏡はしているけどその奥に見える眼光も鋭い感じ。昔は選手で強かったんだろうなって勝手に思っている。
「どうも、こんにちは」
あたしは自分から挨拶する。こういう体育会系っていうのは自分から挨拶出来るかどうかでのちの展開がアホみたいに変わることがある。それを理解しているあたしは、はじめに部のボスに挨拶することにした。
「ああ、どうもこんにちは」
顧問の先生はいくらか面倒そうに対応する。部室へ入った時に軽く周囲を見渡したけど、女子選手はいないようだった。
だからその表情の通り、あたしの対応が面倒くさいんだろう。
「突然ですいませんけど、入部したいんです」
「いいけど、マネージャーってこと?」
「いえ、選手です。一応、経験者なので」
「ウチは女子はやってないんだよな~」
それで帰ってくれたらなとでも思っているんだろうけど、当然あたしはそんなので引き下がらない。
「あの、直接見てもらった方が早いと思うんで、ちょっとだけでも参加していいですかね?」
「はあ。まあ……」
監督は渋々といった感じで対応する。
最近だと時代のせいか、あまり無下に対応するとすぐにどこかのネットで炎上する。あたしはそれを知っていたのもあり、とりあえず見てくれ作戦でいくことにした。
「とりあえず分かりました。監督の佐竹です。で、経験者なんだっけ?」
「そうです。結構本気でやってました」
「そうか。さっきも言った通り、ウチには女子部門がないんだけど大丈夫?」
「はい、もちろん大丈夫です」
――だって、中身は世界挑戦するはずだった男だもんね。
絶対に言えないけど、向こうからすれば根拠のない自信をみなぎらせているあたしは妙ちきりんな存在に見えるのだろう。
「そうか。参ったな……」
佐竹先生が頭を掻く。まあ、そりゃあそうだよね。
これまで女子選手の指導なんてやったことがないのに、いきなり美少女のJKが尋ねて来ても扱いに困るだけだよね。
なので、あたしは手っ取り早く自分の存在を知らしめることにした。
「あたし、腕には自信があるんです。ここで一番強い選手とスパーリングをさせてください」
「いや待て」
思わず佐竹先生があたしを止める。
いきなりやってきて「ここの一番強い奴を出せ」なんて、言ってみれば道場破りみたいなものだ。
佐竹先生はいくらか呆れ気味に周囲を見渡す。他の男子も会話が聞こえていたのか、半笑いでこちらを見ていた。
「じゃあ加藤、頼める?」
「はい。じゃあ自分がやります」
加藤と呼ばれた男子が笑顔で答える。体つきを見るに、たしかに強そうだった。
「一応だけど、空気は読めよ?」
高速でシャドウボクシングをする加藤君に佐竹先生は釘を刺した。
まあ、たしかにボクサーって空気が読めない人が結構な割合でいるからな~。って、あたし自身がそういう感じだったんだけど。
あたしは周囲から心配な視線を注がれつつ、別室で着替えてから準備運動を始める。周囲から好奇の目が集まるけど、次第にそれは驚きの色が強くなっていく。あたしがシャドウを始めたからだ。
ボクサーの力量はシャドウを見ただけでも分かる場合がある。まあ、弱いくせにシャドウだったら世界チャンピオンみたいな人も中にはいるけど、シャドウを見ているとパンチの打ち方や反応、足の使い方などが出てくる。
あたしは前世でジャック・ザ・リッパーと呼ばれていた。「切り裂きジャック」として恐れられた昔の連続殺人犯。もちろんそれはあたしの前世の姿じゃなくて、あまりにパンチが切れすぎることからそう呼ばれるようになった。
パンチのキレはどちらかと言えば天性のものなんだけど、それは鍛錬によって磨くことも出来る。だから「俺」はそのカミソリパンチを徹底的に磨いてきた。
それこそ当たれば一撃で意識を刈り取るレベルの威力で、無名時代には上位ランカーの誰もあたしとは試合をしたがらなかった。
ここの子たちはたかだか高校生だけど、それでもシャドウからカミソリパンチの片鱗を見ているからそんな視線に変わったんだと思う。
まあ、能書きはいいとして――
「準備、出来ました」
「おお、そうか」
佐竹先生もいくらか引き気味の表情に変わっていた。リングでその予感が正しいか確かめようってところなんだと思う。
「女子って1ラウンド2分だっけ?」
「3分でいいですよ。それでずっとやってきたので」
そう答えると、周囲から変などよめきが起こる。いちいち面倒くさいな。
リングの上ではヘッドギアとスパーリンググローブを付けた加藤君がさっきよりちょっとだけ険しい顔で立っている。ちょっとからかってやろうぐらいに思っていたのかもしれないけど、シャドウを見せたら考えが変わったみたい。
「それじゃあ、とりあえず2ラウンドでやっていくぞ。一回目」
デジタルタイマーのブザーが鳴る。
あたしはリング中央へと飛び出した。
ついつい昔の癖で挨拶してしまう。どういうわけか、ボクシングジムの挨拶はどこへ行っても「ちわーっす」で通る。アメリカのワッツアップみたいなものだろう。周囲からも条件反射で「ちわーっす」っと挨拶が返ってくる。
あたしは早速放課後になるとボクシング部にやってきた。そうでもしないとモテ過ぎて帰らしてもらえないからだ。美少女に転生したら毎日楽しく暮らしてとか考えていたけど、因果なものだ。
やっぱり超絶美少女はボクシング部で浮いてしまうのか、あちこちから「え? なに?」という視線が集まってくる。きっとみんなの目にはあたしが酢豚に入ったパイナップルぐらいに見えているんだろう。
周囲を見渡す。リングサイドに監督らしき人を発見。怪訝な目をこちらに向けていた。でかくて筋肉質、眼鏡はしているけどその奥に見える眼光も鋭い感じ。昔は選手で強かったんだろうなって勝手に思っている。
「どうも、こんにちは」
あたしは自分から挨拶する。こういう体育会系っていうのは自分から挨拶出来るかどうかでのちの展開がアホみたいに変わることがある。それを理解しているあたしは、はじめに部のボスに挨拶することにした。
「ああ、どうもこんにちは」
顧問の先生はいくらか面倒そうに対応する。部室へ入った時に軽く周囲を見渡したけど、女子選手はいないようだった。
だからその表情の通り、あたしの対応が面倒くさいんだろう。
「突然ですいませんけど、入部したいんです」
「いいけど、マネージャーってこと?」
「いえ、選手です。一応、経験者なので」
「ウチは女子はやってないんだよな~」
それで帰ってくれたらなとでも思っているんだろうけど、当然あたしはそんなので引き下がらない。
「あの、直接見てもらった方が早いと思うんで、ちょっとだけでも参加していいですかね?」
「はあ。まあ……」
監督は渋々といった感じで対応する。
最近だと時代のせいか、あまり無下に対応するとすぐにどこかのネットで炎上する。あたしはそれを知っていたのもあり、とりあえず見てくれ作戦でいくことにした。
「とりあえず分かりました。監督の佐竹です。で、経験者なんだっけ?」
「そうです。結構本気でやってました」
「そうか。さっきも言った通り、ウチには女子部門がないんだけど大丈夫?」
「はい、もちろん大丈夫です」
――だって、中身は世界挑戦するはずだった男だもんね。
絶対に言えないけど、向こうからすれば根拠のない自信をみなぎらせているあたしは妙ちきりんな存在に見えるのだろう。
「そうか。参ったな……」
佐竹先生が頭を掻く。まあ、そりゃあそうだよね。
これまで女子選手の指導なんてやったことがないのに、いきなり美少女のJKが尋ねて来ても扱いに困るだけだよね。
なので、あたしは手っ取り早く自分の存在を知らしめることにした。
「あたし、腕には自信があるんです。ここで一番強い選手とスパーリングをさせてください」
「いや待て」
思わず佐竹先生があたしを止める。
いきなりやってきて「ここの一番強い奴を出せ」なんて、言ってみれば道場破りみたいなものだ。
佐竹先生はいくらか呆れ気味に周囲を見渡す。他の男子も会話が聞こえていたのか、半笑いでこちらを見ていた。
「じゃあ加藤、頼める?」
「はい。じゃあ自分がやります」
加藤と呼ばれた男子が笑顔で答える。体つきを見るに、たしかに強そうだった。
「一応だけど、空気は読めよ?」
高速でシャドウボクシングをする加藤君に佐竹先生は釘を刺した。
まあ、たしかにボクサーって空気が読めない人が結構な割合でいるからな~。って、あたし自身がそういう感じだったんだけど。
あたしは周囲から心配な視線を注がれつつ、別室で着替えてから準備運動を始める。周囲から好奇の目が集まるけど、次第にそれは驚きの色が強くなっていく。あたしがシャドウを始めたからだ。
ボクサーの力量はシャドウを見ただけでも分かる場合がある。まあ、弱いくせにシャドウだったら世界チャンピオンみたいな人も中にはいるけど、シャドウを見ているとパンチの打ち方や反応、足の使い方などが出てくる。
あたしは前世でジャック・ザ・リッパーと呼ばれていた。「切り裂きジャック」として恐れられた昔の連続殺人犯。もちろんそれはあたしの前世の姿じゃなくて、あまりにパンチが切れすぎることからそう呼ばれるようになった。
パンチのキレはどちらかと言えば天性のものなんだけど、それは鍛錬によって磨くことも出来る。だから「俺」はそのカミソリパンチを徹底的に磨いてきた。
それこそ当たれば一撃で意識を刈り取るレベルの威力で、無名時代には上位ランカーの誰もあたしとは試合をしたがらなかった。
ここの子たちはたかだか高校生だけど、それでもシャドウからカミソリパンチの片鱗を見ているからそんな視線に変わったんだと思う。
まあ、能書きはいいとして――
「準備、出来ました」
「おお、そうか」
佐竹先生もいくらか引き気味の表情に変わっていた。リングでその予感が正しいか確かめようってところなんだと思う。
「女子って1ラウンド2分だっけ?」
「3分でいいですよ。それでずっとやってきたので」
そう答えると、周囲から変などよめきが起こる。いちいち面倒くさいな。
リングの上ではヘッドギアとスパーリンググローブを付けた加藤君がさっきよりちょっとだけ険しい顔で立っている。ちょっとからかってやろうぐらいに思っていたのかもしれないけど、シャドウを見せたら考えが変わったみたい。
「それじゃあ、とりあえず2ラウンドでやっていくぞ。一回目」
デジタルタイマーのブザーが鳴る。
あたしはリング中央へと飛び出した。
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