クソリプさん 【完結】

月狂 紫乃/月狂 四郎

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クソリプさんのうた

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 涼がクソリプさんへの報復を誓う中、当の本人は人間を相手に猛威を振るい続けていた。

 ネットでクソリプさんの脅威が知らされた頃、遠藤羅魅乃のように面白がってクソリプさんを挑発してから惨たらしく呪い殺される人間が続出した。

 ある者は高層ビルから飛び降り、ある者は自分の首を切り落とした。自殺は防いでも、羅魅乃のように全身から血を出して亡くなる者もいれば、脳に爆弾でも仕込まれたかのように首から上が爆発した者もいる。もはや逃げ道はどこにもなかった。

 クソリプさんの存在を小馬鹿にしていたメディアも、一連の出来事から「ただのオカルトだ」と言い続ける空気ではなくなってきた。

 遠回しに「一部では祟りのようなものとは言われていますが」と前置きをした上で、「余計なことはしないように」と注意を促していた。それは蜂の巣にイタズラをしないようにとか、そんな調子で語られていた。そうでもしないとやっていられないようだった。実際にこんな非科学的な呪いがあちこちで起こっていればそんな気分にもなるのだろう。

 一般的な報道機関に比べると悪フザケに走りがちなネット界隈でも、これらの流れから無駄に犠牲者を出さないよう努力する流れへと変わった。

 ネットでも「クソリプさんは何もしなければ攻撃してこない」というリテラシーが出来上がったのか、いたずらに彼女を挑発して無残な死を遂げる人間も減っていった。実際には軽薄な者たちが次々と死んでいなくなっただけの話だが。

 だが、ネットの中でしか存在しないはずのクソリプさんは、この流れを見ていたかのように次なる手段へと出る。

 ――クソリプさんは、世間を嘲笑うかのように次の惨劇を起こした。

 大都会の駅前、そこには有名な大画面のビジョンがある。

 高額な広告料を支払えば、その大型ビジョンで宣伝が出来るというものだ。流す映像には審査があり、たとえ高額の支払いがあっても内容が不適切と見なされるものは放映することが出来ない。

 そのビジョンに、急に紫色の肌をしたおぞましい顔の少女たちが映り込む。肌の色さえ普通なら、ただのアイドルユニットに見える美貌の持ち主だ。

 だが、明らかに異様な姿で、紫色の肌をした人間など存在しない。彼女たちが映り込んだ瞬間、大型ビジョンの前ではざわめきが起きる。

 アイドルらしき紫色をした少女たちは三人のユニットだった。顔だけはやたら整っているのに、見る者には言い知れぬ恐怖を覚えさせる。

 ふいに音楽が流れはじめる。

 ミュージックビデオなのか、ポップな曲が流れるとともに紫色の少女たちが踊りだす。

 かわいらしい声で、不気味な歌が始まった。

鏡の中 映らない影
背後に立つ 冷たい吐息
逃げたいのに 足が動かない
このメロディ 止まらない  

止まらない 止まらない 止まらない 止まらない

聴いた瞬間 呪いが始まる
君の歌が 心を縛る
甘い音色に 閉じ込められて
もう誰も 戻れないね
La la la la君の声が消えない  

君の声が消えない 君の声が消えない

夢でさえ 追いかけて
笑顔の裏に 隠れた瞳
イヤホンを 外しても 聞こえてくる

聞こえてくる 聞こえてくる 聞こえてくる 聞こえてくる

君の名前 呪文みたい
 クソリプさん クソリプさん クソリプさん クソリプさん

 ――人々が歌を聞き、悶え苦しみはじめる。

 少女たちは、相手に恐怖しか与えない満面の笑みで「クソリプさん」の部分を延々と連呼していく。

 頭を抱えて膝をつく。それに釣られて、他の人々までもが這いつくばって吐きはじめる。

 周囲に断末魔が響いた。

 ほどなくして、歌を聞いた人々の全身が破裂し、アスファルトに夥しい量の血液が撒き散らされていく。断末魔を上げる者、悲鳴を上げる者、いずれにしても、時間をかけて物言わぬ骸へと姿を変えていく。まさに地獄のような光景であった。

 人間の肉体がここまで簡単に破壊されるものなのか。

 まるで信じられない光景ではあるが、それでも目の前で起こっている現象は間違いなく現実であった。

 音楽は鳴り続ける。人々は死に、運転手の息絶えた車はあちこちで追突する。煙が上がり、車体は炎へと包まれていく。死体は焼け、炎はガソリンに引火して燃え広がっていく。

 街ごと死へと追いやったフレーズは、いまだに軽やかに流れ続けていた。

夢でさえ 追いかけて
笑顔の裏に 隠れた瞳
イヤホンを 外しても 聞こえてくる

聞こえてくる 聞こえてくる 聞こえてくる 聞こえてくる

君の名前 呪文みたい
 クソリプさん クソリプさん クソリプさん クソリプさん
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