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バケモノたちの闘い

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 くノ一vs地雷系女子。それだけ聞いたら完全なる色物対決だが、目の前にいる二人は確実にバケモノだった。片や霊能者でもあるくノ一。対する死霊使いの地雷女子。意味が分からない。なんなんだ、あんたら。

 心の抗議は届かぬまま、バケモノ二人が勝手に闘いはじめる。

 両手に小太刀を構える篠森レイ。霊媒師の修行もしていたそうだが、考えてみたらこれまではゾンビの首を刎ねるなど、全て物理的に敵を破壊していた気がする。

 地雷女子リリちゃんがケラケラと笑いながら両手を広げる。床からさらなるアンデッドが生えてくる。

 ゾンビたちが呻き声に似た咆哮を上げる。やめろ、喰わないで。

 冗談じゃない。俺は帰るぞ。そう言いたいところだったが、すでに退路はゾンビたちで埋め尽くされている。すでに出しきったはずのウンコがまた漏れる。パンツの中は漏らしたウンコで溢れている。

「手伝いなさい」

 レイはそう言って俺に鉄の塊を放り投げた。サブマシンガン――どう見てもサバゲ用のオモチャではなかった。

「これは……」

「安全装置は外しているから、トリガーを引けば弾は出てくるわ。バカでも使えるはずだから、周りのウジャウジャした奴らをなんとかして」

 ――そういうことじゃねえよ。

 心の抗議は届かず、レイは勝手に飛び出した。もう自分の身は自分で守るしかない。

 飛び出たレイは、恐ろしいスピードで小太刀を振るってゾンビの頭を刎ねていく。地雷女子は羽が生えているわけでもないのに宙に浮き、そのさまをニヤニヤと眺めている。バケモノどもめ。

 ゾンビが迫り来る。マジか。俺も闘わないとやられるぞ。

 銃を構える。ハウス・オブ・ザ・デッドの世界にでも飛び込んだ気分だ。いや、呑気なことを言っている場合じゃない。迫り来るゾンビは本物、なんかところどころに見えるクリーチャーっぽい奴とか人魂っぽい奴も本物。冗談じゃない。お前らまとめて訴えてやる。

 半ばヤケクソでトリガーを引く。アホみたいな銃声で耳がおかしくなる。加えて実弾の反動がすさまじい。コケそうにはなるが、コケている場合にもいかない。転んだらゾンビが押し寄せて喰われるだけだ。

 乾いた音とともに、銃弾が生ける屍の肉体を弾き、えぐっていく。それでも奴らは身体が欠損することなど構わずに俺を捕食しに来る。ふざけんな。

 ヤケになって逆に冷静になったのか、ゾンビの頭部を狙うようにした。センスは良かったのか、脳を破壊されたゾンビは機能を停止して動けなくなっていく。この勢いで倒していけば、際限なく向かってきても何とかなるだろう。希望観測もあるけど。

 ――頼むくノ一、さっさとその地雷女子を倒してくれ。

 心の叫び。だが、依然として大広間の中空に浮かぶリリちゃんは紫色の光を発しながら死霊たちを召喚していく。

 レイも埒が明かないと思ったのか、小太刀を扇子に持ち替えると、どこかの舞踊らしき舞を踊りはじめた。

 扇子がはためくと、大部屋で爆発が起こる。爆心地にいたゾンビは戦車用の地雷でも踏んだかのように派手な音を立てて吹っ飛ばされた。

 レイは踊り続ける。爆発が連続して起こる。仕組みは分からないが、火だるまになったゾンビが苦しそうに地面で呻いていた。そのさまは体を分断されたまま火を点けられたムカデのようだった。

「すげえ……うわああああ!!」

 驚いてよそ見をしていたら、知らぬ間に目の前までゾンビが来ていた。またウンコを漏らしながらサブマシンガンを連射する。ビビリながらも頭部を破壊して戦闘不能にした。

 いや、本当に他人へ構っているヒマは無い。そんなことをしていれば命を落とす。

 周囲のゾンビを倒しながらレイの動きを確認していると、何百匹もゾンビを虐殺して飽きたのか、踊るのをやめた。

 ターゲットが変わる。リリちゃんを見つめるレイ。本体を叩く作戦に切り替えるようだった。

「威神轟雷!」

 レイが叫ぶと、視界が一瞬で白くなる。

「えっ……?」

 血の気が引く。刹那、聞いたこともないような轟音が響く。

「うわああああ!!」

 思わず耳を塞ぎ、叫びながら地面へと伏せる。爆弾でも使ったのか、激しい地響きが起こる。

 視界は真っ白。耳も不意打ちの轟音のせいで麻痺している。まるであの世に放り込まれた気分だった。

 地面に倒れ込んで、数十秒が経つ。いや、時間の感覚さえ麻痺していて、どれだけ経ったのかも分からない。次第に麻痺した知覚が戻ってくる。正直、死んだかと思った。爆撃されたらあんな感じなんだろうか。

 耳がジンジンする。相当な大きさの爆音だった。ミサイルでも撃ち込まれたのかと思う。

 起き上がると、バケモノくノ一の後ろ姿があった。その先には、文字通り特大の雷を落とされた地雷系女子がいる。

 特大の雷をまともに浴びたリリちゃんは、文字通り焦げ付いていた。全身ピンクと紫だったファッションは焼け焦げて、実験に失敗した博士のように黒く煤けた顔をしている。綺麗な紫色だった自慢のツインテールも、焼け焦げて嫌な匂いを発しながらチリチリになっていた。

「ブザマな見た目になったわね」

 極悪くノ一は容赦ない。特大の雷を受けたリリちゃんは自身がゾンビのような呻き声を上げながら焦げ付いた床を這っていた。色んな意味で、怖すぎるビジュアルだった。

「あ、あ、あ……」

 不気味なクリーチャーのように這うリリちゃん。嫌な予感がした。これ以上不要に追い詰めない方がいい気がする。

 俺の嫌な予感は間もなく的中する。

「許さん、許さんぞぉ……!」

 ヤバい。これ、第二形態が出るパターンや。

 そう思った刹那、リリちゃんの全身をから触手が生え始める。それは人間の肌を突き破り、みるみる部屋へと広がっていく。

「悪霊を自分へ取り込んだというの? 愚かね」

 目の前でおぞましい光景が繰り広げられているにも関わらず、クレイジーくノ一の篠森レイは冷静だった。この冷静さがどこから来るのかは分からない。

「や、ヤバいなじゃないのか、これ……」

 もうチビるウンコもない俺は何とか口を開く。レイが冷めた目で俺を一瞥した。

「バカにするのも大概にして。こんなザコに私がやられるはずがないでしょう?」

「誰がザコだー!!」

 レイの返事が聞こえたのか、元地雷系女子のクリーチャーが激怒する。トコロテンのように伸びる触手がレイに迫りくる。捕まればタダでは済まないのだろう。

 いや、ヤバいだろ、こいつ。なんか巨大なタコみたいになっているし。ついでに言うとキャラまで変わっているし。無闇に挑発するなよ。追い詰められた敵キャラが何をするか分からないだろ。

 そんな俺の気持ちも知らずに、レイはあちこちから伸びてくる触手をかわしながら踊りはじめる。刹那、また間歇的に爆発が起こる。タコめいた触手が吹き飛び、凶悪化リリちゃんがグロウルのような声で絶叫する。

 腰を抜かした俺は、ぎっくり腰で立てなくなったオッサンのように地面を這って距離を取った。こんなバケモノと一緒にいたら命がいくつあっても足りない。

 触手が何本も吹き飛ぶと、レイは本体のもとへ飛び込んで小太刀を持ったまま高速回転する。たちまち残った触手は切り落とされ、そこら中に吹き飛んでボトボトと散らばった。

 怪物が苦痛に呻く。耳を塞ぎたくなるようなおぞましい叫び声を上げた。

 レイは本体の焦げたツインテールに手をかざす。

「滅」

 レイの手から特大の炎が放たれる。それと同時に、再び大広間は激しい爆発に呑み込まれた。

 爆風に吹っ飛ばされる。耳もヤバいが、それ以上に顔面を守らないといけない。あちこちから瓦礫やら固い固形物が飛んでくる。目を守らないと、瓦礫が刺さって失明しそうな気がした。

 まったく空気を読まない威力で、俺は吹っ飛ばされてコンクリの壁に頭を打った。

「いってー」

 衝撃が激しかった上にゴロゴロと転がったので、俺の脳は混乱している。全身痛いし、あちこちを怪我している。帰りたい。クソみたいな家でも帰りたい。死にかけてから初めて生きたいと思った。

 ヨロヨロとしながら立ち上がる。目の前にはモクモクと煙が上がっていた。まるで戦地にでも来たみたいだ。だが、あいにくとこれをやったのは一人の人間(?)だ。

「あいつは……?」

 あのサイコ地雷系女子はどうなったのか。煙が晴れると、レイの背中が見えた。真っ黒になった床一面に向けて、手をかざしたままじっとしていた。

「滅」

 特大の炎を放つ前と同じことを言っていた。あれは呪文なのか。それともおまじないの類いなのか。いずれにしても、このバケモノくノ一の放った炎であの地雷系クリーチャーは真っ黒なシミと化したようだった。細い指の伸びた先には、巨大な灰の塊があった。

 あれだけ余裕をかましていたリリちゃんは、一瞬で炭に変えられてしまったようだ。

「喧嘩を売る相手ぐらい選ぶべきだったわね」

 狂気のくノ一は死人にも容赦無かった。もう驚きも絶望もしない。今日一日だけで、俺の感情は死んでしまった気がした。
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