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飴玉
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「ねぇ現文貸して」
「えぇ、また?」
「そんな借りてないって」
「嘘つけ、一昨日も貸したろ」
「、、、知らん」
「そろそろ金取るかんな」
放課後、いつものように部活をする生徒たちを横目にのんびりと過ごす。クラスのほとんどが部活に加入しているため、放課後のクラスは自分だけのもののようで少し優越感に浸っている。自分が部活動の良さを知らないように、彼らは1人の教室の優越感を知らないのだ。
「現文助かったよ」
「そりゃようござんした」
嫌味ったらしく言うと、君は大抵対抗するかのようにわざとらしい怒った顔もしてくる。
放課後の1人の時間。それはいつのまにか2人の時間になりつつあった。馬鹿騒ぎするわけでもなく、とはいえ何も喋らないのかといえばそう言うわけでもない。
「はい」
突然Nは飴玉を1つ取り出す。
何の変哲も無い普通の飴玉。
「なにそれ」
「これはね、その時の気持ちによって味が変わる摩訶不思議な飴玉なんだ」
Nは楽しそうに飴玉を透かすふりをする。
「だから食べて甘ければ楽しいとか嬉しい。苦ければ辛いとか悲しいって分かる」
Nは飴玉をまるでビー玉のように夕日に透かして遊んでいる。
「そんなの自分の感情なんだから分からなくなるわけないだろ」
Nが飴玉を手に乗せてくる。その飴玉をまじまじと見つめ、自分も同じように透かすふりをする。
「これね、ちょっと前に話題になった飴玉なんだ。舐めるだけで自分の気持ちを知ることが出来る不思議な飴玉。」
ニヤニヤしながら語り始める。
「勿論、君が言う通り自分の感情なんて自分が1番知ってるわけだし、他人に味を伝えたってそれが本当のことかなんて分からないよね。
じゃあ、なんで人気になったと思う?」
話をやめ、答えを求めるようにこちらを見る。
口元は相変わらずにやにやと薄ら笑いを帯びているのにもかかわらず、その目は一瞬にして背筋が凍るような妙な緊張を促す。怖く恐ろしく、そして美しい瞳に吸い込まれるように見つめ返す。
暑くもないのに背筋に冷や汗を感じ、喉はどこか渇きを訴える。
「周りに便乗して買う人が増えた、とか」
やっとの思いで出た言葉は頭で考えるのと同時に発せられていた乾いた音。
「ふっ、あはは」
ガラスを砕くような静かな教室に響く笑い声。
緊張感がなくなったその瞬間には、すでに美しい瞳は姿を消していた。
「、、なんだよ」
むすっとして言うと君は涙を拭いながら笑い続ける。ひとしきり笑った後に落ち着けるかのようにあからさまに深呼吸をする姿がより一層苛立たせた。
「いやあ、君は理系みたいなことを言うね。文系なのに」
「そう言うお前だって言葉選びは文系そのものじゃないか、理系のくせに」
こんなどう考えても偏見なのだが、まるで合図のようにお互いがその言葉を口にすれば必ず似たような言葉を返す。きっと他人が聞けばみんながみんなそうではないと思うかもしれない。これはこの放課後の、教室だから、Nとだから言える言葉なのかもしれない。
「なに、物語に正解なんてありはしないさ。だから君のその答えもある意味正解の1つさ」
まるで国語の先生じみたことを言うNは楽しそうにこちらの手のひらに乗せた飴玉をつつく。
「自分の考えはこうだ。
みんな嘘をつき過ぎているんだ、自分自身に。
だから本当の自分の感情を、押し殺してしまった感情を、無くしてしまわぬよう舐めるんだ」
これで物語は終いだと言わんばかりの笑顔を向ける。
「さて、その飴玉はどんな味かな」
促されるままにゆっくりと飴玉の包装紙を取り、口に入れ舌の上で転がす。
味は?と問いただす顔を横目に、たっぷりと時間をとる。外では部活をする生徒たちの掛け声が響き、教室にも反響していた。そんな中にひっそりと2人の声が紛れた。
「いちご味」
「えぇ、また?」
「そんな借りてないって」
「嘘つけ、一昨日も貸したろ」
「、、、知らん」
「そろそろ金取るかんな」
放課後、いつものように部活をする生徒たちを横目にのんびりと過ごす。クラスのほとんどが部活に加入しているため、放課後のクラスは自分だけのもののようで少し優越感に浸っている。自分が部活動の良さを知らないように、彼らは1人の教室の優越感を知らないのだ。
「現文助かったよ」
「そりゃようござんした」
嫌味ったらしく言うと、君は大抵対抗するかのようにわざとらしい怒った顔もしてくる。
放課後の1人の時間。それはいつのまにか2人の時間になりつつあった。馬鹿騒ぎするわけでもなく、とはいえ何も喋らないのかといえばそう言うわけでもない。
「はい」
突然Nは飴玉を1つ取り出す。
何の変哲も無い普通の飴玉。
「なにそれ」
「これはね、その時の気持ちによって味が変わる摩訶不思議な飴玉なんだ」
Nは楽しそうに飴玉を透かすふりをする。
「だから食べて甘ければ楽しいとか嬉しい。苦ければ辛いとか悲しいって分かる」
Nは飴玉をまるでビー玉のように夕日に透かして遊んでいる。
「そんなの自分の感情なんだから分からなくなるわけないだろ」
Nが飴玉を手に乗せてくる。その飴玉をまじまじと見つめ、自分も同じように透かすふりをする。
「これね、ちょっと前に話題になった飴玉なんだ。舐めるだけで自分の気持ちを知ることが出来る不思議な飴玉。」
ニヤニヤしながら語り始める。
「勿論、君が言う通り自分の感情なんて自分が1番知ってるわけだし、他人に味を伝えたってそれが本当のことかなんて分からないよね。
じゃあ、なんで人気になったと思う?」
話をやめ、答えを求めるようにこちらを見る。
口元は相変わらずにやにやと薄ら笑いを帯びているのにもかかわらず、その目は一瞬にして背筋が凍るような妙な緊張を促す。怖く恐ろしく、そして美しい瞳に吸い込まれるように見つめ返す。
暑くもないのに背筋に冷や汗を感じ、喉はどこか渇きを訴える。
「周りに便乗して買う人が増えた、とか」
やっとの思いで出た言葉は頭で考えるのと同時に発せられていた乾いた音。
「ふっ、あはは」
ガラスを砕くような静かな教室に響く笑い声。
緊張感がなくなったその瞬間には、すでに美しい瞳は姿を消していた。
「、、なんだよ」
むすっとして言うと君は涙を拭いながら笑い続ける。ひとしきり笑った後に落ち着けるかのようにあからさまに深呼吸をする姿がより一層苛立たせた。
「いやあ、君は理系みたいなことを言うね。文系なのに」
「そう言うお前だって言葉選びは文系そのものじゃないか、理系のくせに」
こんなどう考えても偏見なのだが、まるで合図のようにお互いがその言葉を口にすれば必ず似たような言葉を返す。きっと他人が聞けばみんながみんなそうではないと思うかもしれない。これはこの放課後の、教室だから、Nとだから言える言葉なのかもしれない。
「なに、物語に正解なんてありはしないさ。だから君のその答えもある意味正解の1つさ」
まるで国語の先生じみたことを言うNは楽しそうにこちらの手のひらに乗せた飴玉をつつく。
「自分の考えはこうだ。
みんな嘘をつき過ぎているんだ、自分自身に。
だから本当の自分の感情を、押し殺してしまった感情を、無くしてしまわぬよう舐めるんだ」
これで物語は終いだと言わんばかりの笑顔を向ける。
「さて、その飴玉はどんな味かな」
促されるままにゆっくりと飴玉の包装紙を取り、口に入れ舌の上で転がす。
味は?と問いただす顔を横目に、たっぷりと時間をとる。外では部活をする生徒たちの掛け声が響き、教室にも反響していた。そんな中にひっそりと2人の声が紛れた。
「いちご味」
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