水曜日の子供たちへ

蓮子

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ep.22 通り過ぎる雨嵐

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 思う存分楽しもうかと思った矢先、保護者同伴でなく外出している生徒を次々と発見して、それどころじゃなくなった。ちゃんと街に溶け込むよう変装している生徒はほとんどおらず、ほぼ全員が制服のままだった。
 フィン先輩は呆れたように、確保しては門扉で待機する神祇官に預けに行くと言う作業を繰り返し、日が傾く頃には同情心のかけらも湧かないほど僕らは疲れ切っていた。すれ違う巡回の役員と目線でお互いを労い、僕らは次々と脱走者を確保していった。

「思った以上に抜け出しがいる」
「どこから抜け出すんでしょうか」
「人員は配置してた予定だけど、教師辺りが賄賂でもつかまされてるのかな。わずかな時間でも学外に出られて楽しめたら勝ちだろうからね」

 どうにか夕食の予鈴を乗り切った僕らは、疲れた体に鞭を鞭打ちながら次の仕事に向かう。撤収作業は順調のようで、早く終わった協賛店から順に学校の敷地外の出店予定地へ案内した。
 こちらはなんともスムーズで、打ち合わせに打ち合わせを重ねた結果だと自分を褒めてあげたい気持ちになった。全店の移動が終わると、僕らはヨナスの練習室に予め置いておいた私服に着替えた。
 寮まで戻っているとかなり時間を食ってしまったり人目に付くと気づいた僕らは、一度報告と休憩に戻った時にここへ私服を持ってきていたのだった。外の巡回の神祇官や役員達の引き継ぎを見届けてから、僕らはヨナスが待つ舞台へ急いだ。
 パオルが僕らを今か今かと待っていたようで、遅いと口を動かしながら僕らを迎えた。すでに出来上がった客が舞台上の歌手に声援を送ったり一緒に歌ったりと賑やかだ。

「すみません。もうてんやわんやで。ヨナスの出番までどのくらいですか?」
「今歌ってるやつの次だよ。間に合わねぇんじゃないかとハラハラしたじゃねぇか」
「ごめんね。僕らもハラハラしたよ」
「ルカの羽は間に合いました?」
「間に合ったさ。俺が戻ってきた時にまだいないから焦ったよ」
「引き継ぎでバタバタしてましたから」
「そうだよ。本当はもう少し早く着く予定だったし、なんなら一周くらい巡回できるかなとか思ってたんだから」
「そりゃ大変だったな」

 そうこう言っている内にその次のヨナスの番が来た。
 舞台に上がったヨナスは白いドレスを身に纏っている。ドレスも髪飾りも羽も知っているはずだったのに、目の前のヨナスはなぜかとても新鮮だった。カツラはとても似合っていて、ロングのブルネットは白いドレスをより一層際立たせていた。
 化粧とカツラのお陰か、確かにそこにいるのはヨナスの筈なのに、どこからどう見てもヨナスには見えなかった。

「今日は初めましてのお客様も多いのね。嬉しいわ。最後まで聞いて言ってちょうだいね。お酒もお料理も一緒にね」

 僕らは驚く以外の感情を持ち合わせなかった。
 目の前にいるのは確かにヨナスで、どう聞いてもヨナスの声だったが、ヨナスが流暢にどもらずに喋っていた。僕らは顔を見合わせた。
 ジャデルシャーゼの店主を探してあれはどう言うことだと目で訴えたが、親指を立ててウインクされただけで、真相はわからずじまいだった。せっかくの1曲目は驚きのあまり、きちんと聞くことができなかった。

「あたしね。歌う時は、とぉてっも大事な人を想像して歌うの。そうすると、その大事な人がいつでも側にいてくれるような気になるの。心が温かい気持ちになるのよ」

 2曲目3曲目と歌って行く。曲の合間にヨナスは色んなことを喋った。声援に応えるように問題なく受け答えもしていた。4曲目にはやっと慣れてようやっとヨナスをヨナスとして見ることができた。
 前の歌手の時は歌っている最中にも声援などが聞こえていたが、ヨナスが歌い出してから全く聞こえないことに気づいた。それだけ耳をそばだてて聞く価値があるものだと、誰もが思っているのだろう。グラスの音、フォークと食器の合わさる音、衣服がこすれる音、何もかもがここから無くなっていた。
 辺りはもう暗くて、油灯のわずかな明かりだけのはずなのに、ヨナスの姿は煌々と輝いている。歌っている曲は俗っぽい恋愛の歌ばかりなのに、聖力が滲み出ているのは本当にワズオムの加護が篤いからなのだろう。
 それと同時にあの日の夜を思い出した。最初にヨナスを追いかけてルカと共に屋上に行った日のことだ。ルカは天使だと言っていたが、羽根を付けたヨナスは眷属神にもに見えた。
 予定の5曲を歌い終えると、アンコールの声が響く。どうやらアンコールは考えていなかった様子で、鳴り止まないアンコールに店主はオロオロしていた。ヨナスはそんな店主を尻目にもう一度舞台へ上がると、アカペラで賛美歌を歌い出した。エスメテがもたらす全ての終わりに小さな灯火を掲げ、その身をエンゾザへの供物とした名前を失った眷属神の歌を歌った。この讃美歌は讃美歌と呼ばれているが、子守唄として広く歌われている。
 街に響くヨナスの歌声はそれはもう遠くから聞こえて来た喧騒すら黙らせてしまった。今まで歌っていた声とはまた違った、でも僕らには馴染み深いヨナスの歌声は、夜の街を照らすようだった。実際ヨナスは先ほどの俗歌よりも聖力が多分に滲み出て光っている。しっとりと歌われていた今までの歌とは違う清廉な歌声に、全ての人が魅了された。
 きっとお酒が入っていなければすぐにでも気がつくことができただろう。歌い終わり、ヨナスは唖然とする僕たちを見つけて、しまったと言う顔をした。

「あれはバレただろうね」
「いや、ここにいるのは酔っ払いだらけだ」
「バレたならバレたで問題無いと思いますけど」
「ダメでしょう」
「公然の秘密になるだけですよ。この歌声を聞けるなら黙ってることなんて、安いものだと誰もが思いますよ」

 鳴り止まない拍手は会場のはるか向こうからも聞こえてくる。彼の歌声の力というものは途方もないと再認識した。着替えるヨナスを待つ間、僕らはヨナスの喋りのカラクリを店主に問いただした。

「いっつもああだよ」
「普通に喋ってるんですか?」
「そういやあ、最初の頃は確かに吃ってたな」

 これから書き入れ時だと店主は早々に話を切り上げた。僕らは納得できない思いを抱えながら、協賛店の巡回をして、着替え終わったヨナスを連れて学校へ戻った。
 その間僕らは何も話さなかった。会場の裏手にヨナスを迎えに行って、両手いっぱいの称賛を浴びせてからは僕らは全く口を開かなかった。それもヨナスの返答は聞いていない。
 どちらのヨナスが本当のヨナスなのか、僕らにはわからなかったし、どう気持ちを切り替えていいかわからなかったからだ。

「なんとか点呼に間に合いそうですね」
「ヒヤヒヤしたね」
「俺はお前らの倍ヒヤヒヤしたよ。実は無断でしたなんてオチになってんじゃ無いかとな」
「そんなことする訳ないよ。それだとルカが馬鹿を見ただけになるじゃないか」
「そういやあそうだな。残念がってるだろうな」
「ルカ、は、いつ、も、聞いて…る」
「そうでしたね」

 すっかりヨナスはいつものヨナスに戻っていた。僕はそのいつも通りのヨナスに安堵を覚えた。

 引き継ぎをする神祇官が見つからないだとか、脱走した生徒を見つけてしまうとか、大変な目にあった。本来の郊外出店の協賛店の巡回こそどうにか無事に終わったことだけは、念入りに事前打ち合わせをした自分を褒めたいとまた思った。

「神祇官の大丈夫が大丈夫じゃないことはわかってたけど、ここまでとは思わなかったよ」
「仕方ありませんよ。正殿から派遣された神祇官はここよりももっと俗世と離れた生活してますからね。ちょっと色んなものが異常にゆるっとしてますよね」
「そういえば、俺らについてる筈だった神祇官って結局誰だったんだ?見かけなかったが」
「ぼ、ぼく、も、見て、ない」
「脱走した生徒の強制送還でこちらに来られなかったか、はてまた…」
「あまり考えたらダメだと思いますよ」

 点呼の予鈴が聞こえて、僕らは走った。ちらほらとまだ文化祭の喧騒の余韻にいる役員もいて、僕らと同様慌てて寮に戻った。



「やっと帰って来た。待ちくたびれた、羨ましい。ずるい、僕も行きたかった。ヨナスの白いドレス見たかった」
「お前それずっと言うセリフ頭ん中で準備してただろう」
「だから何、暇だったんだよね。つまらなかったんだよね。文句を考えることしかやることないよね」
「そんなに怒らないでください。フィン先輩も方々手を尽くしてくれたんですし」
「わかってるよ」
「ま、また、ルカ、のため、に、歌う、から」
「本当に?約束だよ、ちゃんと白いドレス着てね」
「わか、った」

 ルカの機嫌は直ったようで、ヨナスに抱きついてあれこれと注文をつけている。衣装は置いてきたが、羽は借り物なのでしっかり持って帰ってきていた。その羽を付けさせて二人で眷属神ごっこと言って遊んでいる。
 しかし、改めて考えるとよく演劇部は貸し出しを許可してくれたと思った。もしかして正規の手続きを踏んでいないのかもしれないと思ったが、気づかないふりをすることにした。

「とても綺麗でしたよ、赤が一番似合うと思っていましたけど、白も綺麗でした。ブルネットのカツラをかぶっていたんですけど、それが白をより引き立たせていましたよ。聖力が滲み出てて、パオルの装飾も相まってあの暗い舞台でもキラキラと輝いていました。僕はあの場にいれて本当に幸福でした」
「俺も、とても綺麗に着てくれて嬉しかった」

 僕らはヨナスをルカもろとも抱きしめた。

「あーあ、やっぱり抜け出せばよかったかな?」
「こないだ聖書の写しやったばかりじゃないですか。こうも立て続けだと別の何か罰則も加えられますよ」
「例えば?」
「授業以外自室謹慎とか」
「それはいやだ、ヨナスの歌が聞けない」

 それでもルカはくぐもった声で文句を言い続けたが、じきに大人しくなった。ひとしきりじゃれた後、僕らは早々にベッドに入った。耳の奥でずっとヨナスの歌声が反芻していた。
 疲れた体はじんわりとベッドに沈んだ。

 後片付けも怒涛だった。
 準備期間に費やしただけ後片付けも時間を割いてくれればありがたかったが、実質半日で撤収作業を行なわなければ貼らなかった。撤収作業の間、僕はずっと役員室にこもって収支計算に明け暮れていた。10人が狭い役員室にひしめき合って、同じ収支計算をし続けると言う過酷なもので、1項目でも合わないと、全員が計算を最初からやり直すと言う恐ろしい仕様だった。
 なんとか午前中の内に収支計算が全員分揃い、放課後も計算に追われるということをどうにか回避できた。この度は特に協賛店からの寄付金と言う名のショバ代が例年より多く、それに伴う経費も増えたがそれでも大黒字となった。しかし学校側はこれに手放しでは喜べない様子で、ピリピリとした空気を醸し出していた。

「こうしてぼんやりとした昼休みを過ごすのはいつぶりだろうか」

 フィン先輩は髪の毛先からつま先まで気をゆるめていますと言った様子で、だらっとしている。脇には勝利の束が入っていると思われる状箱があるので、今まさに取り掛かっていなければならない仕事があるはずだ。

「まだ役員の皆さんはやること大量に残ってますよね」
「収支報告が終わったからって、生意気な!」
「いや、僕もまだ放課後やることがあるって呼び出されてますからね。それに僕個人でも協賛店の報告書とかまだまだやることいっぱい抱えてますよ」

 今役員はユマカ祭の後処理とは別件を抱えていた。
 主に自治役がその任に当たっていたが、何よりあちこちで人員不足だった。禁止されていた生徒を移した写真がどこからか出回っているらしく、その回収と犯人探しとで大忙しのようだった。学校側はその犯人探しに躍起になっているが、出回った枚数もさることながら、犯人も複数でそれも組織的なようで、昨日の今日で犯人に辿り着けてはいないようだった。

「写真機が手軽になったのは素晴らしいことと思うけど、この現状はどうかと思うんだよね」
「学外の人だと厄介ですよね」
「それなんだよね。学校は当面、公開礼拝を生徒と一般で分けるって言ってるんだよね」
「思ったより、大ごとになってますね」
「それはそうだよ。聖歌隊はヨナス中心、演劇部も主役達は街でも人気だからね。買った生徒も多いけど、問題は校外での方がよく売れてたみたいってところだよね」
「そちらの回収は難しそうですね」
「唯一の救いが、夜のヨナスが撮影されてなさそうってことだけだよ」

 神祇官や教職員がその異変に気付いたのは、夕食時で軽率な生徒の一人が別生徒に見せびらかすことで自体発覚したのだった。それが結構な金額で即日取引されていたようで、写真店が真っ先に疑われたが完全なる白だった。
 学校側は目に見える形で憤慨していて、生徒全員の荷物検査を午後から行うと言い渡していた。つまりは猶予をやるから処分しなさいと言うことなのだろう。そのおかげで片付けが半日しかないと言うのだから、こちらとしてはたまったものではない。
 真っ先に槍玉に上がったのはもちろん役員達で、聖歌隊の愛好会を公式に認め、レコードを作った前例を大きく非難された。レコードは声だけの品で、もちろん写真の類は返礼品に入っていなかったが、学校側は聞く耳を持たなかった。あれだけ賞賛した一部の教師や神祇官も、手のひらを返すように役員を避難した。
 一部のこちらに協力してくれていた神祇官はどうにか水曜の夜だけは見逃して欲しいと嘆願しているが、それもどうなるか今の所わからない状態だった。学校は第一に生徒を守らなくてはいけないのは重々承知しているが、犯人がわからない限りはこの状態が続くのだと思うと憂鬱になる。

「校内に出回っている写真は午後の荷物検査で回収できるだろうね」
「素直に回収される生徒ばかりとは思いませんが」
「回収と情報提供で罰則回避だからね。後で見つかったらどれだけの罰があるかと思うと大抵の生徒は回収に協力するよ。それにすでに泣きながら処分した生徒の方が多そうだけどね。聞くに、声をかけられて数枚から選ばされて買った生徒がほとんどでね。イマイチ相手の人相やなんかはぼんやりしてるんだよ」
「認識阻害の呪符ってありましたよね」
「僕らもそれを心配してる。おじさんって言う生徒もいればおじいさんだったって言う生徒もいるし、若い男性って言っていた生徒もいたね」
「見つけるのは難しそうですね」
「そうなんだよね。でもこの様子だと、犯人は生徒でないからそこは一安心かな」
「でも、生徒でないなら、犯人探しは難航するでしょうね」

 学校は協賛店の責任者を呼び出して話し合いの機会を設け、犯人を探す協力を仰いだ。しかしその労力とは裏腹に、全く足取りがつかめないままだった。ヨナスに至っては、店主との話し合いが多分に設けられ、店内での撮影禁止を徹底すると言う確約をさせたようだった。
 もとより店内での写真機の使用は禁止だったみたいで、学園側の対応に若干の不満を感じたようだった。犯人として出入りしていた新聞記者も疑われたが、彼らは翌日の新聞のために午前中のほんのひと時だけ出入りしただけであとは新聞社に戻っていたと証言が取れたため、すぐに疑いは晴れた。

 ユマカ祭が終わってから数日、ずっと昼休みや放課後は役員室に出ずっぱりだ。写真関連で動いている役員以外は全員が集結して事後処理をしている。例年より仕事が多いのに、例年より事後処理に当たる人数が少ないため昼休みまで使っても期限内に終わるか終わらないかのギリギリのようだ。
 この日は書類を広げて作業しなければならなかったため、僕とフィン先輩は別室で作業していた。

「ルカの写真もあったって話じゃないか」
「僕の写真?なんで」
「なんでって、鏡見たらすぐにわかんだろうよ」
「ルカはお世辞抜きで、全校生徒の誰よりも美人ですからね」
「でも撮られるような時間、僕にはなかったと思うけど」
「そうなんですか?」
「聖歌隊の演奏を聞いた後は、僕はずっと講堂の舞台袖に待機だったからね。衣装と小道具の管理の班に入ってたから、昼食もそこで取ったし、午後の部が終わって片付けるまでずっとそこにいたからね」
「誰か怪しい人入ってこなかったんですか?」
「入ってきても暗いから写真に映らないと思うし」

 そうなると本当にルカが写真を取られる機会は限られてくる。あの時間に出入りしていた人間は随分絞られる。

「写真の確認はできないですよね」
「できないね。と言うか燃やしたって聞いてるし」
「燃やしたんですか」
「何かわかったの?」
「ルカの写真があったって聞いたんです」
「そうなの?僕らにはその辺の情報が全くと言っていいほど降りてこないんだよね」
「珍しいですね」
「それだけ学校にとって不祥事ってことなんだろうね。統括役も頑張ってくれているけど、レコードの件で僕らを目の敵にしているからなぁ」

 その言葉になんだかだんだん申し訳ない気がしてきた。提案立案実行はもちろん役員だが、そもそもの原因を作ったのは僕らだ。

「ルカの写真か。でも彼ずっと演劇部の手伝いだったよね」
「そうなんです。聖歌隊の全員鑑賞以外はお昼もずっと講堂に居たと言っていました」
「じゃあ、全員鑑賞の時か終わった直後か。この事を神祇官に話して、写真の確認ができないかもう一度聞いてみるよ。本当に燃やしてたなら望み薄だけどね」

 どうにかこの日の作業が終わると、僕はその足で当日の出店者名簿と、受付名簿を見比べた。全体鑑賞前だとすると確実に絞れると踏んだが、保護者の可能性もあるため、生徒名簿との見比べも必要だった。なかなか進まない確認作業に焦りが出てくる。
 しかし一人だけ、保護者でもなく来賓でもなく出店者名簿とも合わない人物が見つかった。こんな時間に一般の来場者が校内に入る理由はない。どうして受付を素通りできたのかとも思ったが、僕と数名の役員以外は出店者全員の顔を知らなかったし、当日受付にいたのもそんな役員と神祇官だったと思い出した。
 認識阻害の呪符を使って、適当な理由をつけられてしまったら、あの慌ただしい中では確認作業は難しく、すぐに信用してしまうだろう。当たりだと踏んで、僕は当日の設営完了の記名の書類と名簿をかき集めた。

 結果、その人は真っ黒で、その週の内には所在が割り出された。そこからは僕らの領分ではないと、どうなったかはどうしても教えてもらえなかった。組織的な犯行だったが、生徒への売買が主だったようで学校外にはほとんど売られていなかったようだった。
 それでも街で百何十枚と売られてしまっていて、そちらは回収を呼びかけるのが精一杯だった。

「お手柄だったじゃないか」
「パオルが噂を教えてくれたおかげです。当のルカもヨナスもあまり気にしていないのが幸いです」
「演劇部の子もそうだよ。実感がないんだろうけど危機感無さすぎて脱力したよ」

 犯人らは僕らの考えの通り、認識阻害の呪符を使い組織的に犯行を行い、撮影機は数台、売人も十数名で写真を撮っては売りを当日のあの短い時間の間に行っていた。
 しかし、ルカを撮影した犯人は犯行を否認していた。それもそうだろう、僕たちも犯人は彼らだけではないと考えていた。しかし学校側は彼らをすべての犯人としたいようで、犯人らの言葉は一切信じなかった。
 どう考えても彼らが出所ではない出所不明の写真が生徒間の間で密売された痕跡があったが、学校側はそれを隠蔽した。この件に深く関わった僕らは学校側から箝口令が出て、郊外すれば反省房という無茶苦茶なことを言い渡されたのだった。
しかし逃げ道はいくらでもあったようで、いく人かの生徒は手に入れ守り切った写真をとても大切にしていた

 事後処理がどうにか提出期限内に終了したが、役員はいまだに東奔西走で休む暇もない様子だ。特に相談役のフィン先輩はユマカ祭中に発生したゴタゴタまでも同時に解消に走っているので、本当に寝る暇もないくらい忙しそうだ。
 義務とはいえ、落ち着いている僕らのことは一時的に放置しておいてくれても良いのではと思っているのだが、フィン先輩は優先度は僕らが一番高いと言って報告の時間を無理に作ってくれている。

「写真を手放したくない気持ちはわからないでもないですけどね」
「誰の写真が欲しかった?」
「いずれ、みんなで写真を撮りたいとは思ってます」
「僕も入れてって言ったら、パオルは嫌な顔するかな」
「態度だけで、内心は喜ぶと思いますよ」
「そっか」

 そう言って大きく伸びるフィン先輩は、とても疲れた顔をしている。それもそうだ。学校側は一切情報を漏らさない割には、それに伴う雑用を全部役員に押し付けていた。それだけではない、無断外出の罰則の監視まで役員頼みで兼業の役員はいつ倒れてもおかしくないのではと言う状態だった。

「お手伝いしますよ」
「してもらいたいけど、今度ばかりはあまり任せられる仕事がないんだよ」

 自体は収束しつつあったが、問題がいくつも起こった状態で終わると後味が悪かった。来年は去年と同じようになるだろうねと残念がったフィン先輩が辛そうで、何も言えなかった。
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