フリー朗読台本

誰かを生かす、蛍になりたい。

いつもの時間にパソコンを起こし、当たり前が開始する。今日もまた、聞いているようで聞いていない、リモートワークが始まった。
パソコンの画面では、聞き慣れたつまらない声が、勝手に話を進めている。
私はそれを聞きながら、視線を泳がせ、誰かと目が合い、また泳ぐ。
変にうるさい心臓が、虫の声を求めてる。
自分の音より騒がしい、虫の音を。

夏の暑さも和らいで、部屋の明かりを雲がゆっくり食べていく。
私はそれを目で捉え、肌に感じて1枚羽織る。
外で泣いてる雨を無視して、私は今日も異なる趣旨のリモートワークを開始した。
聞き慣れたつまらない声は、凛とした、強い声へと変わっていた。
私はそれを聞きながら、誰かと目が合うその時を、密かにずっと待っている。
蛍のような、命の短い光とともに。

誰かの心に隠れた夜が果てないように。
誰かの夜を引き立てる、蛍のような存在に私はなりたい。



※
こちらは、とある方から「むし」「リモートワーク」「光」という3つのお題を頂き、紡いだものです。