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第二章 迷宮都市ロベリア
054 嫁入り前の♀の体温
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リコット=バーティ
赤色の癖毛をポニーテールにしている活発な性格の女の子。
迷宮探索者クラン「銀の盃」のリーダーだった祖父の死後、解散したクランの拠点を低家賃の長屋に変えて、そこの管理人を勤めている。
現在入居している住人は、病気や怪我で働けなくなった人間ばかりで、安定した家賃の回収を望めない状況に陥ってしまっている。
しかし、お金を払えないからといって、働けない様な人間を簡単に追い出すわけにもいかず……家賃収入以外のお金を稼ぐために内職の仕事を請け負ったり、近くの森に薬草採取に出たりして、なんとか糊口をしのぐ生活をしている。
■リコット Side
「なるほどね、入市税が払えなくて忍び込んできたんだ。それで雨を凌ぐために、ウチの馬小屋で雨宿りをしていたっていうわけだね」
「は、はい、すいません。雨がやんだらすぐに出ていくつもりだったんですけど……」
そう言ってションボリするウサ耳幼女。
「迷宮都市は、数年前から奴隷にかかる税金が跳ね上がったんだよ、知らなかったの? 奴隷の人権がどうとかで、税金が高くなったの。おかげで、迷宮で使い潰される奴隷が減ったらしいけどね」
「つ、使い潰すって……そんな酷い事するんですか?」
迷宮での奴隷の扱いを聞いて、目を丸くする女の子。
こんなことで驚くなんて、いったいどんな平和なところから出て来たんだろうか?
「うん、昔は特にそういうことが多かったんだ……でも、今は大人の奴隷だったら、あなたの10倍は入市税が掛かるらしいから、そうそう使い捨てにはできないみたいだよ」
「じゅ、十倍!……あ、でも、僕は奴隷じゃないですよ?」
「えっ? そうなの?」
そういえば、この子の肩には奴隷の烙印が刻まれていない。
奴隷商で扱う奴隷には、主人に逆らえないように、魔術によって行動の自由を奪う奴隷紋を体のどこかに刻んでいるはずなのだ。
そうしなければ、いつ反逆されるかわからない奴隷を商品として購入するなんて、危なっかしくてできっこない。
その奴隷紋は普通は肩に刻むものなのだが……シミひとつない綺麗な肌をしているのはさっき確認した通りだ。
「本当だ、奴隷紋が無い……で、でもあなた、小指に指輪まで付けてたじゃない」
「そ、それは……小指に指輪をしちゃダメだって昨日知ったんですよ、そのあと色々あって付け替えるのを忘れちゃってて」
小指の指輪のことを知らないなんて、そんなことってあるのだろうか?
「じゃあ、なんで裸で押し倒されてたの? そういう関係じゃないなら、あなたみたいな小さな女の子と裸の男が抱き合ってるなんて、お、おかしいじゃん!」
「あ、あれは……雨に濡れた先輩が、気分が悪いって言って倒れちゃったんですよ。身体は凄く冷たくなってるし、息も苦しそうだったから、服を脱がせて人肌で温めようかと思ったんです。子供の体温は高いって言いますし」
な……人肌って!
「そんなこと、嫁入り前の女の子がやっていいことじゃないよ!」
「そ、そりゃあこんなこと、やりたくなかったですけど……もし風邪をひいて、肺炎にでもなったらどうしようって……服は全部濡れてしまってたし、他に方法が無かったんですよぉ」
むむ……そういえば、この子は魔力欠乏症のことは知らないんだったな。
「まぁ、体温が下がっちゃうから、身体を温めるっていうのは間違いじゃあないんだけど……この人の症状は魔力欠乏症って言って、一時的に魔力が無くなったせいでこうなってるんだよ。ほっとけば魔力が回復して勝手に元気になるよ」
「そ、そうなんですか!? よ、よかったぁ~」
心底ほっとしたという感じで、女の子は胸を撫でおろしている。
「こんな世界に一人だけで生きていくなんて、僕にはとてもできないですからね……」
「世界に一人だけって……そんな……」
このふたりの間に、どんな関係があるのかはわからないが、この小さな女の子が信頼できる人間は、この男だけなのかもしれない。
そんな狭く閉じた寂しい世界の中で生きているなんて、そんな悲しい事ってあるだろうか?
「ね、ねぇ……、こいつの治し方を教えてあげたんだから、どうして迷宮都市に来たのか教えてよ」
「え? どうしてですか?」
「いいから! ほら、教えなさいよ!」
「うぅ……だ、誰にも言わないでくださいよぉ」
それから、ウサギ耳の女の子から説明してもらった話では、この子とそこで倒れている男は、王都アルストに無理やり連れてこられて、そこから逃げ出してきたのだという。
元居た場所では、獣人とヒュームは仲良く暮らしていたらしく、この男とは昔から付き合いがあった知り合いだったらしい。
無理やり連れてこられたとは穏やかではない……奴隷狩りにでもあったのだろうか?
ずいぶん昔から、奴隷狩りは王国の法律では禁止されているのはずなのに、未だに被害者がいるなんて……この子たちは想像を絶するような苦労をしてここまでたどり着いたのだろう。
「そっか、大変だったね……王都からこの街はかなり距離が離れてるから、きっともう大丈夫だよ」
私はウサギ耳の女の子を抱き寄せて、優しくその頭を撫でる。
私には、おじいちゃんが残してくれた、みんなの思い出が詰まったこの家があるけど……この子には、きっと何にもないのだろう。
なんとか……なんとかしてあげることは出来ないのかな?
この迷宮都市で、ヒュームの男が小綺麗な格好の獣人の女の子を連れて歩いていれば、まず例外なく奴隷だと思われるだろう。だから、門番も奴隷用の入市税を言ってきたのだ。
もちろん、迷宮都市の中に獣人の自由民もいるのだが、彼らのほぼ全員が貧しい暮らしをしている。
彼らのほとんどは、北の帝国から追われてきた移民や、流浪の民が住み着いたような者たちで、土地も財産もないく流れ着いてきた者たちだ。
そんな彼らは日々の生活を送るだけで精いっぱいで、子供を奴隷として売ることも珍しくはなかった。
更には、彼らは城壁付近の日当たりが悪い場所や、ごみ集積場や共同廃棄場の回り等の、誰も住みたがらない様な場所に住むものが多く、その付近は貧乏人が集まったスラムと化しており、迷宮都市の治安の悪化を招いていた。
もちろん、そんな所に住んでいる人間にまともな仕事があるわけもなく、仕事がないのでその場所から抜け出すお金も稼げない。
お金が無いから子供を奴隷として売り、獣人の奴隷が増える。
獣人の奴隷が増えると、獣人の印象が悪くなる。
そんな負の連鎖が、獣人の地位が向上しない一因を担っていた。
そういうわけで、金持ちに買われた奴隷くらいでないと、高価な服や装飾品を身に着けている獣人は見かけないのだ。
例外的に探索者として成功している獣人もいるのだが、そういう獣人は戦闘を生業にしている者特有の空気を纏っているので、一般市民とは簡単に見分けがつく。
この子たちも、このままこの町で働いても、まともな暮らしは出来ないかもしれない。
だが、市民の身元保証があれば、仕事だって探しやすいだろうし……いずれは、働いて税金を納めることで、自由民として都市内での身分を保障してもらうということができるかもしれない。
周りの目は厳しいかもしれないが、私の知り合いには獣人だって理由で、辛く当たるような人は少ないし……なんとかやっていけるんじゃないだろうか?
それになにより……こんな小さな女の子を放っておくなんて、私には到底できはしない。
「ねぇ、ちょっと提案なんだけど……」
こうして私はまた一つの厄介ごとを、自分から背負ってしまうのだった。
赤色の癖毛をポニーテールにしている活発な性格の女の子。
迷宮探索者クラン「銀の盃」のリーダーだった祖父の死後、解散したクランの拠点を低家賃の長屋に変えて、そこの管理人を勤めている。
現在入居している住人は、病気や怪我で働けなくなった人間ばかりで、安定した家賃の回収を望めない状況に陥ってしまっている。
しかし、お金を払えないからといって、働けない様な人間を簡単に追い出すわけにもいかず……家賃収入以外のお金を稼ぐために内職の仕事を請け負ったり、近くの森に薬草採取に出たりして、なんとか糊口をしのぐ生活をしている。
■リコット Side
「なるほどね、入市税が払えなくて忍び込んできたんだ。それで雨を凌ぐために、ウチの馬小屋で雨宿りをしていたっていうわけだね」
「は、はい、すいません。雨がやんだらすぐに出ていくつもりだったんですけど……」
そう言ってションボリするウサ耳幼女。
「迷宮都市は、数年前から奴隷にかかる税金が跳ね上がったんだよ、知らなかったの? 奴隷の人権がどうとかで、税金が高くなったの。おかげで、迷宮で使い潰される奴隷が減ったらしいけどね」
「つ、使い潰すって……そんな酷い事するんですか?」
迷宮での奴隷の扱いを聞いて、目を丸くする女の子。
こんなことで驚くなんて、いったいどんな平和なところから出て来たんだろうか?
「うん、昔は特にそういうことが多かったんだ……でも、今は大人の奴隷だったら、あなたの10倍は入市税が掛かるらしいから、そうそう使い捨てにはできないみたいだよ」
「じゅ、十倍!……あ、でも、僕は奴隷じゃないですよ?」
「えっ? そうなの?」
そういえば、この子の肩には奴隷の烙印が刻まれていない。
奴隷商で扱う奴隷には、主人に逆らえないように、魔術によって行動の自由を奪う奴隷紋を体のどこかに刻んでいるはずなのだ。
そうしなければ、いつ反逆されるかわからない奴隷を商品として購入するなんて、危なっかしくてできっこない。
その奴隷紋は普通は肩に刻むものなのだが……シミひとつない綺麗な肌をしているのはさっき確認した通りだ。
「本当だ、奴隷紋が無い……で、でもあなた、小指に指輪まで付けてたじゃない」
「そ、それは……小指に指輪をしちゃダメだって昨日知ったんですよ、そのあと色々あって付け替えるのを忘れちゃってて」
小指の指輪のことを知らないなんて、そんなことってあるのだろうか?
「じゃあ、なんで裸で押し倒されてたの? そういう関係じゃないなら、あなたみたいな小さな女の子と裸の男が抱き合ってるなんて、お、おかしいじゃん!」
「あ、あれは……雨に濡れた先輩が、気分が悪いって言って倒れちゃったんですよ。身体は凄く冷たくなってるし、息も苦しそうだったから、服を脱がせて人肌で温めようかと思ったんです。子供の体温は高いって言いますし」
な……人肌って!
「そんなこと、嫁入り前の女の子がやっていいことじゃないよ!」
「そ、そりゃあこんなこと、やりたくなかったですけど……もし風邪をひいて、肺炎にでもなったらどうしようって……服は全部濡れてしまってたし、他に方法が無かったんですよぉ」
むむ……そういえば、この子は魔力欠乏症のことは知らないんだったな。
「まぁ、体温が下がっちゃうから、身体を温めるっていうのは間違いじゃあないんだけど……この人の症状は魔力欠乏症って言って、一時的に魔力が無くなったせいでこうなってるんだよ。ほっとけば魔力が回復して勝手に元気になるよ」
「そ、そうなんですか!? よ、よかったぁ~」
心底ほっとしたという感じで、女の子は胸を撫でおろしている。
「こんな世界に一人だけで生きていくなんて、僕にはとてもできないですからね……」
「世界に一人だけって……そんな……」
このふたりの間に、どんな関係があるのかはわからないが、この小さな女の子が信頼できる人間は、この男だけなのかもしれない。
そんな狭く閉じた寂しい世界の中で生きているなんて、そんな悲しい事ってあるだろうか?
「ね、ねぇ……、こいつの治し方を教えてあげたんだから、どうして迷宮都市に来たのか教えてよ」
「え? どうしてですか?」
「いいから! ほら、教えなさいよ!」
「うぅ……だ、誰にも言わないでくださいよぉ」
それから、ウサギ耳の女の子から説明してもらった話では、この子とそこで倒れている男は、王都アルストに無理やり連れてこられて、そこから逃げ出してきたのだという。
元居た場所では、獣人とヒュームは仲良く暮らしていたらしく、この男とは昔から付き合いがあった知り合いだったらしい。
無理やり連れてこられたとは穏やかではない……奴隷狩りにでもあったのだろうか?
ずいぶん昔から、奴隷狩りは王国の法律では禁止されているのはずなのに、未だに被害者がいるなんて……この子たちは想像を絶するような苦労をしてここまでたどり着いたのだろう。
「そっか、大変だったね……王都からこの街はかなり距離が離れてるから、きっともう大丈夫だよ」
私はウサギ耳の女の子を抱き寄せて、優しくその頭を撫でる。
私には、おじいちゃんが残してくれた、みんなの思い出が詰まったこの家があるけど……この子には、きっと何にもないのだろう。
なんとか……なんとかしてあげることは出来ないのかな?
この迷宮都市で、ヒュームの男が小綺麗な格好の獣人の女の子を連れて歩いていれば、まず例外なく奴隷だと思われるだろう。だから、門番も奴隷用の入市税を言ってきたのだ。
もちろん、迷宮都市の中に獣人の自由民もいるのだが、彼らのほぼ全員が貧しい暮らしをしている。
彼らのほとんどは、北の帝国から追われてきた移民や、流浪の民が住み着いたような者たちで、土地も財産もないく流れ着いてきた者たちだ。
そんな彼らは日々の生活を送るだけで精いっぱいで、子供を奴隷として売ることも珍しくはなかった。
更には、彼らは城壁付近の日当たりが悪い場所や、ごみ集積場や共同廃棄場の回り等の、誰も住みたがらない様な場所に住むものが多く、その付近は貧乏人が集まったスラムと化しており、迷宮都市の治安の悪化を招いていた。
もちろん、そんな所に住んでいる人間にまともな仕事があるわけもなく、仕事がないのでその場所から抜け出すお金も稼げない。
お金が無いから子供を奴隷として売り、獣人の奴隷が増える。
獣人の奴隷が増えると、獣人の印象が悪くなる。
そんな負の連鎖が、獣人の地位が向上しない一因を担っていた。
そういうわけで、金持ちに買われた奴隷くらいでないと、高価な服や装飾品を身に着けている獣人は見かけないのだ。
例外的に探索者として成功している獣人もいるのだが、そういう獣人は戦闘を生業にしている者特有の空気を纏っているので、一般市民とは簡単に見分けがつく。
この子たちも、このままこの町で働いても、まともな暮らしは出来ないかもしれない。
だが、市民の身元保証があれば、仕事だって探しやすいだろうし……いずれは、働いて税金を納めることで、自由民として都市内での身分を保障してもらうということができるかもしれない。
周りの目は厳しいかもしれないが、私の知り合いには獣人だって理由で、辛く当たるような人は少ないし……なんとかやっていけるんじゃないだろうか?
それになにより……こんな小さな女の子を放っておくなんて、私には到底できはしない。
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