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第一章 異世界召喚と旅立ち

041 暗躍系主人公

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椎名誠人しいなまこと SIDE

 マリルちゃんたちを呼びにいった門番と別れたあと、俺は門の近くにいた人からマリルちゃんのお父さん、カロンさんがどこに運ばれたのかを聞き出す。

そして、大通りまで引き返して、すこし小道に入った場所にあるその病院に辿り着いた。



 とりあえず急いでカロンさんに回復魔法をかけなければいけないのだが……
 魔法を使って病室に潜入してから回復魔法やポーションを使うべきか、それとも範囲回復魔法のエリアヒールでこの辺にいる人をまるごと回復させてしまうか……恐らく後者はとても目立ってしまうので、どうにもならなかった場合の最後の手段にしたい。

 冒険の書を開き、眺めながら考える。
 あまり派手じゃないものが良いんだけど……お?

 魔法を使う為に本を眺めていた俺は、ターゲットのネームリストに「カロン = ラロイ」という名前を見つける。
 魔法のターゲット選択の範囲内(半径25m)にいる人間は、全てこの冒険の書のネームリストに表示されるので、この病院の中にカロンさんがいるのは間違いないようだ。

 よし、このまま病院の外から魔法で回復させてしまおう。
 周囲に誰もいないことを確認した俺は、ネームリストからターゲットを指定した状態で魔法を起動する。

「呪文詠唱:エクストラヒール」

 怪我の程度がわからないので、発動させるのは最上級の回復魔法だ。

 全身が輝き、体中から光の粒子が立ち上る、魔法詠唱のエフェクトが発生する。
 数秒の詠唱時間を経て、魔法発動を示す様にひときわ光が強くなった後、光の粒子は空に向かって霧散した。
 暗がりで使うとなかなか綺麗なものなのだが、人前で使うには目立ってしょうがない、厄介な仕様だ。

 ひとまずこれでカロンさんに、エクストラヒールが発動したはずだ、あとは心配して駆けつけた知り合いのフリをしてちゃんと回復したかどうか確認だけしておこう。



「すいませーん、どなたかいますか?」

 病院のドアを開けて中を覗き込むが、反応がない。
 まあいい、緊急事態だし勝手に入って確認してしまおう。

 病院の中に忍び込み、適当に他の部屋を覗いていき、2つ目の部屋で当たりを引いた。
 パンツ一枚に剝かれて、包帯でぐるぐる巻きにされているが、この人は門の前で会った親切なオジサンで間違いない。

「念のため、魔法で調べておくか。 魔法詠唱:アナライズ」

 マリルちゃんのお父さんの体に触れて、敵の状態を調べる魔法をかける。

 この魔法はゲーム中でも味方に使えた魔法なのだが、女性キャラに使うと3サイズまで表示されるので、セクハラや嫌がらせで使うことが一時期流行ってしまい、人に使えなくしてくれとの嘆願があった、そんないわく付きの禁断の魔法だ。
 もちろん俺は、嫌がらせ目的で使用したことなんて殆どない。
 とりあえず、マロンちゃんのお父さんの状態を調べるのには問題ないだろう。



■カロン=ラロイ 34歳 ♂ 
 種族:ヒューム Lv7
 身長:187cm
 体重:94kg
 HP:72/72
 MP:4/4
 SP:19/31
 弱点:火・嫁



 アナライズで調べた、カロンさんのステータスが冒険の書に表示されている。
 よし、とりあえずHPは満タンになっているので、回復には成功しているようだな、SPが減っているのは、さっきまでワヒーラとかいうのと戦っていたからだろう。回復魔法でスタミナは回復しないからな。

 ジョブが無いのは、異世界の人がゲームの職業システムで強くなるわけではない、ということだろうからわかるのだが……Lv7? レベルの概念はあるのか? それとも俺の解析魔法が勝手に、カロンさんの鍛えっぷりならLv7相当だろうと判断して表示しているのだろうか……このへんはそのうち調べてみる必要があるかもしれないな。

 しかし、34歳か……俺とそんなに変わらない歳なのに、もうあんなに大きな子供がいるんだな……う、うらやましい。



 とりあえずは怪我も治っていそうだし、一安心といったところだろうか。

 しかし改めて確認してみると、結構大変な様子だ……カロンさんの寝顔は安らかで、大怪我をしている風にはみえないが、ベッドのシーツとその脇の台の上に脱がせて置いてある服は、大量の血で真っ赤に染まっている。

「これはなかなかにホラーな見た目だな。この出血量は結構な重症だったのだろうけど、それが一発で治ってしまうとは……ほんと、回復魔法さまさまだね」

 そんな独り言を言っていると、誰かが近づいてくる足音がする。

 一応不法侵入なのだから、見つからないに越したことはないだろう。
 魔法を使って隠れよう、この室内は明るいから"インビジブル"でなんとか身を隠せるはず! そう判断し魔法を素早く発動させ、俺は身体を透明にして部屋の隅に移動する。

「はぁ、まったく嫌な仕事だ。こやつの応急処置はしたが、家族が来るまでもつかどうかじゃろうな……ん? な、なんじゃこりゃ!」

 独り言を言いながら部屋に入ってきた医者は、ベッドの上の完治したカロンさんを見て絶句している。

「ちょ、ちょっと目を離した隙に怪我が治っておる! 一体どうなっておるんじゃ」

 驚いていた医者のおじいさんは、暫くカロンさんの脈拍を測ったり、包帯を外して怪我がないことを確認したりしていたが、「いかん、疲れているのかのう」と呟きながら部屋から出て行った。



 さてと、カロンさんの回復は確認できたし、今のうちに外に脱出して、あとはワヒーラとかいうやつが、他に悪さをしていないか見に行ってみるか。
 病院から出てきた俺は、暗がりに移動し、透明化の魔法を解除した後、門の方へと歩き出した。
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