上 下
39 / 85
第一章 異世界召喚と旅立ち

039 ラロイさん家の災難4 ドーモ、アイサツは大事だ

しおりを挟む
 5人で夜の街中を走ること10分、僕たちは西門の見えるあたりまでたどり着いていた。

「ほら、こっちだ。ここが何かあったときに俺たち門番が見てもらう医者だ。ここにカロンがいるはずだ」

 大通りに面した通りからすこし奥まった場所にその病院はあった。入り口の扉の横には看板のようなものがあったのだが、僕には読めない。
 おそらく〇〇病院とか書いてあるのだろう。

「先生、ウチの人は、カロンはどこにいるんですか!」

 ドアを開けるなりミネットさんが大きな声で先生を呼ぶ。

「なんじゃい、うるさいのが来たな」

 そう言いながら玄関に出てきた老人は、いかにも迷惑そうな顔をしながら僕たちの前に歩いてきて、渋面で僕たちを見返してくる。

「ここは病院じゃ、今さっき大怪我で運ばれてきた人間がいるんだぞ、静かに出来ないなら出て行ってくれないかね」
「その大怪我をした男の家内です。夫はまだ生きているんですか?」

 縋りついて自分の伴侶の安否を問いただすミネットさんに、自分が出てきた部屋を指さしながら医者の老人は答えた。

「あぁ、あんたらは、あのワヒーラに襲われた男の家族かい。あの男なら生きとるよ、そっちの部屋じゃ」
「あぁ良かった。まだ生きてるんですね! ラヴィちゃん、そっちの部屋にいるみたい。お願いね」
「うん、わかった!」



 ミネットさんにお願いされた僕は、急いでそのカロンさんがいるという部屋に飛び込んだ。
 するとそこには、町の入り口で会った、あの体格の良いおじさんが半裸で立っていた。
 というかパンイチだった。

 あれ? ここには死にかけのおじさんが寝てるんじゃなかったっけ? どうしてパンツ一枚で立っているおじさんがいるんだ?

「ど、ドーモ……こんばんは、ラヴィです」

 混乱した僕はとりあえず挨拶をした。挨拶は大事だ。

「あ、あぁ。こんばんは、カロン = ラロイです」

 幼女とおじさん。見つめあう二人。

 これは、どうしたものだろうか……そう考えていると後ろからミネットさんとマリルちゃん、ルド君が部屋に入ってきた。

「どうだい、ラヴィちゃん! ウチの人は助かりそうかい?」
「ラヴィちゃん!」
「ラヴィ!」

 心配そうに声をかけてくる三人。
 ルド君はいつのまにか僕のことを呼び捨てにしている。
 これは後で、上下関係をはっきりとさせなければならないかもしれないな。

「あぁ、あんた! 無事だったのかい!」
「「お父さん!」」

「あの……この人がお父さん? 部屋に入ったときにはもう立ちあがってたんだけど」

 部屋に入ってきた三人は、元気そうにしているカロンさんに抱きついて無事を喜んでいる。素晴らしきかな家族愛。
 でも、僕の言っていることは彼らの耳に入っていないようだ。
 僕はまだ何もしていないのに、なぜカロンさんは元気にしているのだろう。

 ワヒーラに襲われたというのはガセネタだったのか? それとも、ワヒーラというのはパンツ一枚まで脱がせてくる痴漢のことなのだろうか? もう助からないというのは性的な意味でにカロンさんが助からなかったと、そういうことなのだろうか?



「先生、これはどういうことですか? カロンのやつは大怪我をしてたんじゃなかったんですか?」
「ああ、さっきまでは生死の境を彷徨っていたんだが、ちょっと目を離した隙に完治しておったんだよ」

 遅れて入ってきたマルコスさんと先生が後ろで話している。
 ちょっと目を離したすきに大怪我って完治するものなのか? そんなまさか。

「何を言っているんですか、そんなことあるわけないでしょう。これはどういうことなんですか!?」
「しょうがないじゃろ、完治しておったんだから。こっちがどういうことか知りたいよ」

 お手上げといった感じで両手を広げていた先生は、無事を喜び四人で抱き合っているラロイさん一家に近付く。

「おい、そこのアンタ。もう体調はいいのだろう? ちょっと質問に答えてくれんか」

 カロンさんは、抱き上げていたルド君を床に下ろして、こちらに向き直る。

「ワヒーラに襲われた時の怪我はどうした、なんで治っているんだね?」
「それが、俺にも何が何やら。ワヒーラに襲われてからの記憶はさっぱりでして……気がついたらここのベッドに寝かされていたんです」

 そう先生に答えた後、カロンさんはベッドの横の台の上に畳んであった服をとって袖を通している。

「あんた、その服ボロボロじゃないの!」
「おっ? おお! 本当だ」

 カロンさんが羽織っている上着はズタボロに引き裂かれており、布の半分以上は血で真っ赤に染まっていた。

「その服はもう使い物にならんだろ。ま、ここに来たときのアンタは、その服よりも酷い状態じゃったけどな」

 そんな先生の言葉に、ラロイさん一家は揃って顔を青くしている。
 ミネットさんはボロボロになっている服を脱がせたあと、カロンさんの体をペタペタ触って怪我がないかどうか確かめている。

「あんた、本当に大怪我してたんだねぇ。でも、どうして怪我が治っちまったんだろうね? 門番にはポーションでも持たされていたのかい?」
「ははは、町の門番なんかにあんな高級品が支給されるわけないだろう。この辺りには、普段はゴブリンくらいしか出てこないしな。ワヒーラが出るなんて俺が子供の頃以来だ」

 両親が話している間に、畳んであったズボンを広げたりひっくり返したりして調べていたマリルちゃんが、まだ使えそうだと判断したのかお父さんに手渡した。

「このズボンはまだなんとか使えそうだよ。ほら、お父さん早くこれ履きなよ」

 マリルちゃんから受け取ったズボンを履きはじめたカロンさん。
 ふむ、異世界のパンツは白のトランクスなのか……女物はどうなのかな? そんなことをズボンを履くカロンさんを見ながら考えていると、ルド君が間に身体を滑り込ませ、僕の視界を遮ってくる。

「お父さん早くしてよ、ラヴィが恥ずかしがってるだろう!」
「ああ、ごめんごめん」

 ルド君に急かされたカロンさんは、急いでズボンを履くと、腰の紐をしっかりと結んだ。

「これでよし、君はルドの友達かな? 見苦しいものをみせてしまったね」

 ズボンを履き終わったカロンさんは、上半身は裸のまま照れ笑いをしながら頭を掻いている。

「ううん、大丈夫。こういうのは見慣れてるから」
「見慣れて……」



 ルド君は何やらショックを受けた様子だ。
 お父さんのパンツ姿が見られたことがそんなにショックだっのかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のローズ・ブライトはレイ・ブラウン王子と婚約していた。 婚約していた当初は仲が良かった。 しかし年月を重ねるに連れ、会う時間が少なくなり、パーティー会場でしか顔を合わさないようになった。 そして学園に上がると、レイはとある男爵令嬢に恋心を抱くようになった。 これまでレイのために厳しい王妃教育に耐えていたのに裏切られたローズはレイへの恋心も冷めた。 そして留学を決意する。 しかし帰ってきた瞬間、レイはローズに婚約破棄を叩きつけた。 「ローズ・ブライト! ナタリーを虐めた罪でお前との婚約を破棄する!」 えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

処理中です...