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第一幕 黄昏のエイレンヌ
プロローグ 〜ケモノたちの狂宴
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少女はその日、十四歳の誕生日を迎えた――
高潔な貴族のひとり娘である少女は、多くの者から祝福と贈り物を受けた。
少女はその中でも母から贈られた首飾りをいたく気に入り、コの字型をした乳白色の宝珠がトップに付いたその首飾りをその場で身につけた。
――きっとそれは貴女を護ってくれるわ
若く美しい母は慈愛の笑みを浮かべて言った。
そんな母の美しさを存分に受け継いだ少女は、うれしそうにうなずいた。
豪奢な装飾に彩られ贅沢な食事に囲まれた宴――
優しい両親と少女を崇拝する家臣たち――
何不自由の無い暮らしを送ってきた少女にとって、その日は最高の誕生日となる――
はずだった――
しかし、そんな幸せな時間は突如鳴り響いた群衆の咆哮と断末魔の悲鳴によって脆くも崩れ去った。
当時、アルセイシア王国では大規模な農民叛乱が各地で勃発しており、その戦火は王国北部にあるこの地にもついに及んだのだ。
圧倒的な数の暴力によって守備兵は次々と討ち倒され、居城は焼かれ、宴席にいた少女たちはなす術も無く暴徒と化した農民たちによって荒々しくねじ伏せられ、捕縛されたのだった。
松明の炎の様に燃え盛り辺りを怪しく照らし出す城。荒縄で後ろ手に縛られ、城の前にある広場に連れ出された少女たちに待っていたのは、敗者に対する野蛮な蹂躙劇だった。
――犯せ! 犯せ! 犯せ!
――殺せ! 殺せ! 殺せ!
群衆たちが狂った様にシュプレヒコールを叫ぶ中で、いつも少女の身の回りの世話をしてくれていた女中たちはその場で犯され、家臣たちは切り株を利用した粗末な処刑台で次々と首を刎ねられた。
――これは悪夢だ……夢なら早く醒めて
少女は膝をガクガクと震わせながら祈った。
しかし、現実は無情にも少女を血気にはやる群衆の前に突き出した。
少女のすぐ側には無骨な両手斧を携えたスキンヘッドの大男が立ち、彼の足下には処刑された男たちの首が無造作に積み上げられていた。
つい先程まで少女に美辞麗句を並び立ててその美しさを讃えていた男たちは、今は彩の失せた瞳を虚空に漂わせている。
死を間近に感じた少女はそこで失禁した。
それは恥辱であった。
しかしそのような状況にありながら、少女は涙と鼻水でくしゃくしゃとなった顔を周囲に向け、彼らを罵った。
そんな健気な少女の姿に、群衆は驚き怯んだ。中には少女に同情を抱いた者もいたかもしれない。
叛乱軍のリーダーらしき男は迷い、隣に立つ者に意見をうかがった。
その者は獣を象った面で顔を覆っているため性別すらもわからずその表情も窺い知ることは出来ないが、少女はそれを一目見た途端、なぜかはわからないがゾワリとまとわりつくような悪寒に襲われ、背中に震えが走るのだった。
しばらくして獣面の者の助言を受けた男は、群衆に向けて少女の罪を朗々と論った。
それは、民を一切救済せずに重税を課して苦しめる領主を少女が諌めなかったこと――
そして、民が困窮しているという現状を少女は知ろうともしなかったこと――
結果、少女の有利に傾きかけた場の空気は覆り、再びシュプレヒコールが響き渡った。
――犯せ! 犯せ! 犯せ!
――殺せ! 殺せ! 殺せ!
こうなると、もう少女にはなす術が無かった。
処刑執行人であるスキンヘッドの男が、斧を引きずりながら少女へと近づく。
そして男は少女の服の襟口を掴むとそれを一気に引きちぎった。
乳白色の宝珠が付いた首飾りが弾け出し、少女の豊満で瑞々しい乳房が露出されると、群衆のボルテージは最高潮に達した。
少女は恥辱に悶えながら、それでも猛然と男に罵詈雑言と唾を吐きつけた。
一瞬、その場がしんと静まり返る。
その静寂を打ち破る様に、男の大きな手のひらが少女の左頬を殴打した。
少女の顔面は激しく揺さぶられ、鼻と口の端から鮮血が滴り落ちる。
朦朧とする意識の中、それでも少女は顔を上げて男を精一杯睨みつけた。
と、その時だった――
少女の顔からぽたりとこぼれ落ちた一滴の血が乳白色の宝珠に滴ると、それは突然まばゆいばかりの閃光を放ったのだった。
――一体何が起こったの?
意識が薄れゆきがくりと体が崩れてゆく中で、少女は再び獣面の者を視界に捉えていた。
仮面をまとっているはずなのに、その者はなぜか嗤っているように見えた。
そこで少女の意識はプツリと完全に途切れた――
そして次に少女が目を覚ました時、彼女は知らない町に奴隷として売られていたのだった……
高潔な貴族のひとり娘である少女は、多くの者から祝福と贈り物を受けた。
少女はその中でも母から贈られた首飾りをいたく気に入り、コの字型をした乳白色の宝珠がトップに付いたその首飾りをその場で身につけた。
――きっとそれは貴女を護ってくれるわ
若く美しい母は慈愛の笑みを浮かべて言った。
そんな母の美しさを存分に受け継いだ少女は、うれしそうにうなずいた。
豪奢な装飾に彩られ贅沢な食事に囲まれた宴――
優しい両親と少女を崇拝する家臣たち――
何不自由の無い暮らしを送ってきた少女にとって、その日は最高の誕生日となる――
はずだった――
しかし、そんな幸せな時間は突如鳴り響いた群衆の咆哮と断末魔の悲鳴によって脆くも崩れ去った。
当時、アルセイシア王国では大規模な農民叛乱が各地で勃発しており、その戦火は王国北部にあるこの地にもついに及んだのだ。
圧倒的な数の暴力によって守備兵は次々と討ち倒され、居城は焼かれ、宴席にいた少女たちはなす術も無く暴徒と化した農民たちによって荒々しくねじ伏せられ、捕縛されたのだった。
松明の炎の様に燃え盛り辺りを怪しく照らし出す城。荒縄で後ろ手に縛られ、城の前にある広場に連れ出された少女たちに待っていたのは、敗者に対する野蛮な蹂躙劇だった。
――犯せ! 犯せ! 犯せ!
――殺せ! 殺せ! 殺せ!
群衆たちが狂った様にシュプレヒコールを叫ぶ中で、いつも少女の身の回りの世話をしてくれていた女中たちはその場で犯され、家臣たちは切り株を利用した粗末な処刑台で次々と首を刎ねられた。
――これは悪夢だ……夢なら早く醒めて
少女は膝をガクガクと震わせながら祈った。
しかし、現実は無情にも少女を血気にはやる群衆の前に突き出した。
少女のすぐ側には無骨な両手斧を携えたスキンヘッドの大男が立ち、彼の足下には処刑された男たちの首が無造作に積み上げられていた。
つい先程まで少女に美辞麗句を並び立ててその美しさを讃えていた男たちは、今は彩の失せた瞳を虚空に漂わせている。
死を間近に感じた少女はそこで失禁した。
それは恥辱であった。
しかしそのような状況にありながら、少女は涙と鼻水でくしゃくしゃとなった顔を周囲に向け、彼らを罵った。
そんな健気な少女の姿に、群衆は驚き怯んだ。中には少女に同情を抱いた者もいたかもしれない。
叛乱軍のリーダーらしき男は迷い、隣に立つ者に意見をうかがった。
その者は獣を象った面で顔を覆っているため性別すらもわからずその表情も窺い知ることは出来ないが、少女はそれを一目見た途端、なぜかはわからないがゾワリとまとわりつくような悪寒に襲われ、背中に震えが走るのだった。
しばらくして獣面の者の助言を受けた男は、群衆に向けて少女の罪を朗々と論った。
それは、民を一切救済せずに重税を課して苦しめる領主を少女が諌めなかったこと――
そして、民が困窮しているという現状を少女は知ろうともしなかったこと――
結果、少女の有利に傾きかけた場の空気は覆り、再びシュプレヒコールが響き渡った。
――犯せ! 犯せ! 犯せ!
――殺せ! 殺せ! 殺せ!
こうなると、もう少女にはなす術が無かった。
処刑執行人であるスキンヘッドの男が、斧を引きずりながら少女へと近づく。
そして男は少女の服の襟口を掴むとそれを一気に引きちぎった。
乳白色の宝珠が付いた首飾りが弾け出し、少女の豊満で瑞々しい乳房が露出されると、群衆のボルテージは最高潮に達した。
少女は恥辱に悶えながら、それでも猛然と男に罵詈雑言と唾を吐きつけた。
一瞬、その場がしんと静まり返る。
その静寂を打ち破る様に、男の大きな手のひらが少女の左頬を殴打した。
少女の顔面は激しく揺さぶられ、鼻と口の端から鮮血が滴り落ちる。
朦朧とする意識の中、それでも少女は顔を上げて男を精一杯睨みつけた。
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少女の顔からぽたりとこぼれ落ちた一滴の血が乳白色の宝珠に滴ると、それは突然まばゆいばかりの閃光を放ったのだった。
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意識が薄れゆきがくりと体が崩れてゆく中で、少女は再び獣面の者を視界に捉えていた。
仮面をまとっているはずなのに、その者はなぜか嗤っているように見えた。
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