声の幽霊と恋の歌

村井 彰

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合唱コンクールと始まりの春

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 急ぎ足に階段をかけあがる。早く早く。慌ただしく自分の部屋に飛び込んで、スマホとお気に入りのヘッドホンを通学用の鞄から取り出した。高校の入学祝いに無理を言って買ってもらった、ちょっと高級なやつ。
 スマホの電源を入れて、動画サイトをチェックする。新着動画の一番上に、楽しみにしていたゲーム実況シリーズの最新動画が表示されていた。投稿時間は三十分前。なかなかいいタイミングだ。
 昨日の動画はかなり気になるところで終わっていたが、投稿主のSNSに「続きは明日投稿する予定」と書かれていたので、今日はそれを楽しみに、急いで学校から帰ってきたのだった。
 いそいそとヘッドホンを装着して、いざ動画を再生しようとサムネイルをタップしかけたところで、ふと違和感に気づいた。
「んん……?なに、この声」
 まだ動画を再生していないのに、ヘッドホンから微かな声のようなものが聞こえてくる。間違えて別の動画を再生してしまったのかと思ったが、別にそんな様子はない。
 少しの間考えこんで、一つの可能性に思い至る。二つ歳上の姉はKーPOPの大ファンで、部屋にいる時はたいてい何とかいうグループのCDを聞いていた。その音が漏れ聞こえているのかもしれない。だけど隣の部屋でヘッドホンをしていても聞こえるなんて、結構な音量だ。前にもそれで母に叱られたのに。
 母が怒りにくる前に注意してやろうと、ヘッドホンを外して立ち上がる。
「……あれ?」
 その瞬間、ぴたりと音がやんだ。耳をすましてみるが、あたりは静寂に包まれている。わずかな生活音すら聞こえないところからして、そもそも姉はまだ帰宅すらしていないようだった。
 さっきのは聞き間違いだったのかと首を傾げながら、もう一度ヘッドホンを装着する。するとどうしたことか、再び先ほどと同じ声が聞こえだした。接続が悪いのかと、スマホに繋がった端子を抜き差ししてみるが、何も変わらない。故障だろうか。買ってもらったばかりなのに、最悪。
 声はさっきよりも少しだけ鮮明になったような気がする。よく聞いてみれば、それはなにかの歌のようだった。なんの歌かはわからない。だけどその歌声は透き通るように繊細で、美しい。これは女性の声だろうか、それとも少年?儚げなガラス細工のような声は、中性的な響きをまとっており、どちらともとれた。
「綺麗な声……」
 気がつけば、あんなに楽しみにしていた動画のこともすっかり忘れて、この不思議な歌声に聞き入っていた。もっと聞いていたい。そう思った時、
「澪ーっ!あんた帰ってるんだったらさっさとご飯食べちゃいなさい!今日はお父さんもお姉ちゃんも遅いんだから、あんたが食べないと片付かないのよ!」
 唐突に階下から響いてきた母の声で、すべてが掻き消された。
「今いくからー!」
 ドアを開けて一階に怒鳴り返す。歌はいつの間にか聞こえなくなっていた。名残惜しい気持ちもあるが、仕方ない。それに早く降りないとまた母に叱られてしまう。
 なんの音も発さなくなったヘッドホンをベッドの上に置いて、部屋を出る。ちょっとだけ不思議な体験だった。明日学校で友達に話すいいネタになる。その程度にしか思っていなかった。この時は、まだ。

 翌朝、眠い目をこすりながら教室の引き戸を開ける。昨日結局夜遅くまで動画を見ていたせいで、寝不足ぎみだった。教室を少し見回して、口から洩れそうになっていたあくびを慌てて飲み込む。
 教室の後ろの方の席で、ややうつむき加減に本を読んでいる男子生徒がいた。心臓が高鳴るのを自覚する。よし、今日こそちゃんと言おう。緊張を押し隠しながら、男子生徒のもとに近づく。
「な、中條くん、おはよっ」
 言えた!男子生徒ー中條聖也は、上目遣いに澪を見上げてくる。
「…………おはよう」
 聞こえるか聞こえないかの声だが、たしかに挨拶を返してくれた。心の中でガッツポーズをする。これだけで今日は最高の日だ。間違いない。
 足どり軽く自分の席に向かい、前の席で気だるげにスマホをいじっている中学時代からの親友、佐山詩穂に勢いよく、しかし聖也に聞こえないよう小声で話しかけた。
「ねえ詩穂見てた?!中條くんと喋っちゃった!すごくない?がんばったよね、私」
 しかし興奮する澪とは対照に、詩穂の方はスマホから顔をあげもしない。
「あーはいはい良かったね。喋ったってかただの挨拶だったけど。てか前から思ってるけど、なんで中條なわけ?あいつめっちゃ地味じゃん。チビだし、なんか暗いし、全然喋んないし」
 親友の"推し"にたいしてなんて言い草だろうか。たしかに聖也は他の男子に比べても、全然目立つタイプではないけれど、詩穂はなにもわかっていないのだ。彼の魅力はそんなことじゃない。中條聖也は……
「中條くんはさあ……すっごいイケボなんだよ?!」
 そう、あれは入学式後の自己紹介の時。教壇に立ってボソボソと名乗る聖也の声に、澪は心臓を鷲掴みにされた。見た目はどちらかと言えば可愛い系なのに、その声は甘ったるくてセクシーな重低音。完全にギャップ萌えというやつだ。澪が好きな実況者の声にちょっと似ているのもポイントが高い。
 それ以来、聖也を見かけるたびに、こっそり目で追うようになっていた。だけど聖也は、普段ほとんど喋らないので、彼が授業であてられた時などは、絶対にその声を聞き逃さないように必死で耳を澄ませてしまうのだった。こんなこと、本人に知られたら引かれてしまうかもしれないけれど、それでもそうやって聖也を追いかけるのが、最近の澪の密かな楽しみになっている。
「イケボねぇ……声だけ良くたってしょうがないと思うけど。澪ってそういうとこオタクだよね」
 冷めた調子で詩穂が言う。詩穂は親友だけど、正直趣味が合うわけではなかった。澪が大好きなアニメも実況動画も、どれだけ勧めても全然見てくれない。
「別に、いいよ。わかってもらえなくたって」
 聖也の魅力だって、澪だけが知っていれば十分だ。むしろ他の人には知られない方がいい。だって詩穂は美人だから、ライバルになったら困ってしまう。
「ごめんごめん、ちょっと言い過ぎたわ。そんなに拗ねないでよ」
 スマホから顔を上げて、苦笑ぎみに詩穂が謝る。こういう時、澪の方が子供っぽいような気がしてしまうのだった。
「あ、そういえばさあ澪、もう合唱コンクールのパート希望決めた?私はなんでもいいし、どうせだったら澪と同じにしようかなって」
 この学校では、毎年春に合唱コンクールというものがあるらしい。ソプラノ、アルト、男声の三つのパートに別れるため、女子は来週までに希望するパートを決めておくようにと言われていた。
「うーん……正直私もなんでもいいんだけど、無難にソプラノかな」
「まあ主旋律ってやつ?楽譜そのまま歌えばいいから楽だよね。てか、そもそもなんでこんな時期に合唱コンクールとかするかねえ。はっきり言ってめんどくさいわ」
「まあ、それはたしかに……」
 教師には親睦を深めるためだと説明されたが、今はクラスメイトの名前を覚えるだけで精一杯なのに、余計なイベントを増やさないで欲しい。
「でも、ちょっとだけ楽しみかも」
 もしかしたら聖也の歌声を聞く機会があるかもしれない。仮に音痴だったとしても、あれほどのイケボならそれはそれでありだと思う。
「ん?澪なんか言った?」
「う、ううん。なんでもないよ」
 これは澪だけの楽しみだ。詩穂にだって秘密なんだから。
「おはよう!ホームルーム始めるぞー」
「あ、やば」
 教室の戸がガラッと開いて、担任の体育教師が入ってきた。詩穂が慌ててスマホを鞄にしまう。澪も前を向いて、ホームルームの準備を始めた。今日も、いつもと同じ一日が始まる。

「はぁ、疲れたー」
 一人で呟いてベッドにダイブする。お風呂からあがったばかりなので、ちょっと暑い。
 さて、今日も寝る前に新着動画をチェックしよう。ベッドに転がったままでスマホを操作する。実況動画を聞きながら寝落ちするのが、最近の澪の日課になっていた。お気に入りの実況者の動画があがっているのを確認して、仰向けになりヘッドホンを身につける。
 その瞬間、予想していなかった出来事に、澪はぎくりと体を強ばらせた。
 ……まただ。昨日と同じ歌声が、ヘッドホンから聞こえてくる。もちろん、まだなんの動画も再生していない。
「なんなの、これ……」
 綺麗な声だとは思ったが、原因がわからないまま、こうも立て続けに聞こえてくると、さすがに不気味だ。しかも、声は昨日よりもさらに鮮明になっている。
 これは賛美歌というやつだろうか。昔母が観ていた映画の中で、聖歌隊の人が似たような歌をうたっていたような気がする。
 賛美歌。神様のための歌。それがどうして、ただのヘッドホンから聞こえてくるんだろう。
 急に背中に薄ら寒いものを感じて、ヘッドホンを外して脇の机に置いた。もういい、今日はさっさと寝てしまおう。明日も学校だし。
 不安を誤魔化すように目を閉じる。朝からの疲れもあって、いつしか澪は眠りについていた。

「はあ……」
「どうした澪ー?なんか最近お疲れモードだね」
 机に突っ伏して溜息をつく澪に、軽い調子で詩穂が声をかけてくる。あれから一週間ほど経つが、おかしな声が止む気配はなく、せっかくのヘッドホンは自室の机の中にしまいっぱなしになっていた。こんなこと話のネタにするならまだしも、真剣に相談なんてしたら別の意味で心配されてしまうかもしれない。だから誰にも言えないでいる。
「うーん……五月病的な?」
「そうなの?……まあでもちょっとわかるかも、受験とかいろいろ忙しかったしね。しかもこの後アレじゃん、例の合唱コンクールの練習でしょ?マジでダルいよね。私も病みそうだわ」
 結局適当にごまかしてしまったが、詩穂はそれ以上突っ込むことはせずに話題を変えてきた。詩穂なりに気を使ってくれているようだ。
「詩穂はわりと歌うまいからいいじゃない。カラオケでも良い点とるし。私は全然だからなあ」
「澪は声可愛いじゃん。あんまり上手くないとこが逆にハマってるよ」
 ……なんだろう、全く褒められている気がしない。
「そろそろ練習を始めるので、いったん席についてくださーい」
 教壇の前で眼鏡の女子生徒がクラスに呼びかけている。隣に立っている背の高い男子生徒と共に、先日合唱コンクールの実行委員に選ばれた子だ。まだ学校自体に不慣れな時期に、そんなものに選ばれて可哀想だと思ったが、本人達は意外と乗り気なようで熱心に仕切ってくれていた。
 今後の予定を説明された後、パートごとに別れての練習が始まる。結局澪と詩穂は二人揃ってソプラノを担当することになった。同じパートの女子達に混じりつつ、横目で隣の男声グループの様子を窺う。聖也は男子達の輪から一歩離れたところで、手持ち無沙汰に突っ立っていた。どうやらあまり乗り気ではないらしい。まあ気持ちはわからないでもないけれど。
「篠原さん……篠原澪さん!さっそく曲聞きながら合わせるよ。大丈夫?」
「あ、うん。ごめん大丈夫!」
 リーダーの女子生徒に、さっそく注意されてしまった。聖也のことも気になるが、今は自分の練習に集中しないと。ただでさえ歌は得意じゃないんだから。
 CDプレイヤーから、コンクールの課題曲が流れる。合唱といえばこれというくらい定番の曲だ。
 どこか切ないような音楽と、クラスメイト達の歌声が少しずつ重なっていく。歌うのは苦手だけど、こういうのは案外悪くないなと思った。ほんのちょっとだけだけど。

 最初の練習をつつがなく終えて、放課後。詩穂はバイトがあるからとさっさと帰ってしまった。ファミレスの接客担当をしているらしい。社交的な詩穂にはぴったりな仕事だと思う。
 澪もアルバイトを考えるべきだろうか。いつまでもヘッドホンが使えないままでは不便だが、いくらなんでも両親にもう一度同じものをねだるわけにもいかない。理由を聞かれたって答えられないし。
 だけどせっかくの高校生活だ、どうせなら部活動もやってみたいし、そうなるとバイトをしている時間なんてない。
 ぐるぐると頭を悩ませつつも、手は動かして帰り支度を始める。居残って友達と喋ったり、一人でスマホをいじったりしている者もいるが、大半の生徒は既に教室を後にしていた。一年生はまだ部活動の見学期間なので、気になる部活の様子を見に行っている生徒も多いのだろう。
「あ、図書室の本……」
 教科書を鞄に詰め込んでいる途中で気がついた。昨日読み終えた図書室の本を、鞄の奥に突っ込んだままにしていた。また忘れないうちに返しに行かないと。
 本を片手に持って教室を出る。この学校の図書室はなかなかに充実した蔵書を誇っているが、ただ一点、四階建て校舎の最上階の更に端に位置していることだけが難点だった。特に澪達一年生のクラスは一階にあるため、たった一冊の本のために、いちいち大移動しなくてはならない。
「はあ……疲れた……」
 肩で息をしながら図書室に入る。返却手続きをしたらすぐに帰るつもりだったが、ついまた新しい本を借りてきてしまった。返す時が面倒だとわかっているのに。
 図書室を出て、廊下の端っこで借りた本を鞄にしまっている時、風に乗って微かな歌声が聞こえてくることに、ふと気がついた。一瞬なぜか例のヘッドホンのことがよぎって、ぎくりとしたが、すぐに別の声だとわかった。というよりも、この声には聞き覚えがある。
 四階は特別教室ばかりだし、用もないのにわざわざこんなところまで登ってくる物好きはまずいないため、放課後はいつも人気がない。歌声の主はどこにいるのだろう。声が聞こえる方に自然と足が向いていた。
 ここだ。図書室を出たところの廊下を曲がって三部屋目、社会科室の前で足を止めた。この向こうで誰かが歌っている。いや、ここまでくれば誰の声なのかは、いよいよ明白だった。入学してから一ヶ月余り、ずっと追い続けてきたのだから、わからないはずがない。
 カーテンが下ろされており、窓から中を覗くことはできなかったので、澪は音を立てないように注意しながら引き戸をわずかに引いて、隙間から室内を覗き込んだ。ああやっぱり、教室の中で歌っていたのは、中條聖也だった。聖也が合唱コンクールの課題曲を一人で練習していたのだ。
 気づけば澪は食い入るようにその様子を見つめていた。全く乗り気ではなさそうだった聖也が熱心に練習をしていたのが意外だったから……ではない。聖也の歌が、あまりにも見事だったからだ。
「すご……」
 安定した低音。力強い発声。プロだと言われても信じてしまうかもしれない。知らなかった、聖也にこんな特技があったなんて。
 そうして盗み聞きに夢中になるあまり、引き戸に添えていた手に知らず力が入ってしまったらしい。建付けの悪い戸が、突然ガタンと大きな音をたてて軋んだ。
 しまったと思った時にはすでに遅く、聖也は歌うのをやめ、凍りついた表情でこちらを見ていた。
  一瞬逃げてしまおうかと思ったが、さすがにそういうわけにもいかない。気まずい空気の中、澪はそろそろと引き戸を開けた。
「ご、ごめんね中條くん……その、近くを通ったら歌が聞こえてきて、誰かいるのかなって」
 怒っているのか、それとも困っているのか、聖也は足元に視線を落としたまま、こちらを見てもくれない。
「別に、謝ることないよ。こんなとこで勝手に練習してた僕の方が悪いし」
「そ、そっか……」
 黙って覗き見していた負い目もあって、うまく言葉が出てこない。どうしよう、何か言わなくちゃ。
「えっと……な、中條くんってすっごく歌うまいんだね?私びっくりしちゃった!こんなに上手ならプロとか目指せるんじゃない?!声も渋くてかっこいいし……」
 そこまで言ったところで、突然聖也が顔をあげた。いきなり絡み合った視線に心臓が跳ねたのもつかの間、今までに見たことがないほどの険しい表情に気づいて、今度は悪い意味で心臓が暴れだした。
「え、あの、中條くん……?」
「……悪いけど、そんなふうに言われても全然嬉しくない」
 押し殺した声でそういうと、足元に置いていた鞄とブレザーをひったくるように掴んで、こちらに向かってきた。
 咄嗟に身を引いてしまった澪の脇をすり抜けて、聖也が教室を飛び出していく。吐き捨てるような言葉が、すれ違い様に澪の耳に届いた。
「僕は、こんな声嫌いだから」
 走り去る足音が、だんだんと遠ざかっていくのを聞きながら、澪はその場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 その日の晩、詩穂のバイトが終わった頃を見計らって、澪はすぐさま通話アプリをたちあげた。しばらくコール音が続いた後、プツッという音と共に、聞き慣れた気だるげな声がスマホから響いてくる。
『なに、どうしたの?』
「詩穂どうしよう!私、中條くんに嫌われたかもしれない……」
『は?急に何、アンタなんかしたの?』
「わ、わかんない……声かっこいいよねって褒めたつもりだったんだけど、怒らせちゃったみたいで……」
 通話口から呆れたようなため息が聞こえてきた。
『怒らせたの?アンタのことだからオタク丸出しの早口で捲し立てて引かれた、とかじゃなく?』
「そっ、そんなことしてないよ!…………たぶん」
 気をつけているつもりだが、興奮するとどうしても感情が先走ってしまう自覚はあった。だけど今回はたぶん、そういうことではないと思う。
「中條くん、自分の声が嫌いだって言ってた」
 すれ違い様に聞いた聖也の言葉がよぎる。どうして、あんなに素敵な声を嫌いだなんて言うんだろう。吐き捨てるような聖也の言葉は、どこか苦しそうで、思い出すだけで胸が痛くなる。
『ふぅん……まあ、他人から見たら長所でも、本人にとってはコンプレックスとかよくあることでしょ。中條的には地雷だったんじゃない?』
「そんな、どうしよう詩穂……」
 電話の向こうで詩穂が、ふん、と鼻を鳴らす。
『私に聞かないでよ。中條と直接話すしかないんじゃない?それか中條のことは諦めて新しい出会いでも探すとか。今度他校の男子と合コンするけど澪もくる?』
「合コン……ううん、せっかくだけど、私そういうのはちょっと」
 交友関係の広い詩穂と違って、澪は友達もたいして多くないし、身近な男の子にこんなに夢中になったのだって聖也が初めてだった。こんなことで諦めたりしたくない。
『そう、だったら頑張りなよ』
 詩穂の言葉は素っ気ないが、口調はどこか優しかった。
『一応、これでも応援してるんだよ?……まあ私には中條のどこがいいのか全然わかんないけどね』
 おどけたように詩穂が言う。彼女と話しているうちに、少し冷静になってきた。
「ありがと、詩穂。明日もう一回中條くんと話してみる」
『ん、そうしな。あ、そうだ。中條で思い出したけどさ、あいつたしか西中の出身だったよね?』
 突然どうしたんだろう。聖也の出身中学については、自己紹介の時に聞いた覚えがある。たしかに澪達の隣の学区にある西中学校、通称西中だと言っていたはずだが。澪がそう告げると、詩穂はなにやら一人で納得した様子だった。
『やっぱそうか……ね、澪。私面白いもの見つけたんだよね。DMに送っとくから、あとで見てみなよ』
「面白いもの?」
『そ。バス乗るからもう切るよ。感想は明日聞かせて』
 そういうと、一方的に通話は切れてしまった。直後に軽い通知音と共に、詩穂からメッセージが届いた。開いてみると、それは澪が普段使っている動画サイトに繋がるリンクのようで、それ以外特に詩穂からのコメントはない。見ればわかるということだろう。
 詩穂がおかしなものを送ってくることもないだろうと、そのままリンクを開いた。数秒ほど読み込みの時間をおいて、動画が再生される。動画のタイトルは"全国合唱コンクール地区予選・西中学校合唱部"となっていた。澪の高校で行われているものとは違う、本格的なコンクールの映像らしい。
 さきほどの話の流れからすると、この中に聖也がいるのだろうか。そう考えて画面に目を凝らしてみるが、合唱部の生徒は全員でも十人。男子生徒に至っては二人しかおらず、そのどちらもどう見ても聖也ではなかった。どういうことかと、もう一度画面の中の舞台を見渡したところで、気づいた。二人の男子生徒が立っているのとは反対側の端で、おそらくはソプラノ担当の女子達の中に、男子生徒が一人混ざっていた。小柄で華奢な体格に、小動物のようにくりくりとした目。今より少し幼い顔立ちをしているが間違いない、聖也だ。
 そうだ、よくよく考えてみれば十代の男の子は、ある時を境に別人のように声が変わる。中学生の聖也が、ソプラノを担当していたっておかしくはないのだ。
 目を閉じて聖也達の歌声に耳を澄ます。こんなコンクールに参加するだけあって、かなり完成度の高いものだということが素人の耳にもわかった。その中でも特に、美しく澄んだソプラノが、画面越しにも心地よく響き渡る。そもそも目立ちやすいということもあるのだろうが、一人明らかに頭一つ抜けた実力の生徒がいるようだ。
 少し音量をあげて、どうにかその生徒の声を聞き取ろうとする。他の生徒の声と混じり合ってわかりづらいが、この声は以前にもどこかで聞いたような気がする。そう、本当につい最近聞いたはずだ。合唱の練習の時?いや違う、そうだ、たしかこの部屋で……
 そこまで考えたところで、はっとして机の側に駆け寄る。逸る気持ちを抑えながら引き出しを開け、その奥にしまいっぱなしになっていたヘッドホンを取り出した。どこにも繋がっていないそれを耳にあてる。ずいぶん微かになってしまったが、まだあの歌声は、たしかに聞こえた。なぜあの放課後、聖也の歌を聞いた時に気づかなかったのだろう。どんなに声が変わっていたって同じだ。フレーズの終わりにわずかに音があがる癖も、力強く伸びて響くビブラートも。何も変わっていない。
「中條くん……」
 それから澪は、今にも消えてしまいそうなその歌を、何度も何度も繰り返し聞いた。どうして澪のもとにこの歌声が届いたのかはわからない。だけど、もしも何か意味があるなら……聖也に伝えなくてはいけないことがある。

 翌日、普段通りに授業を受けながら、澪は聖也と接する機会をずっと窺っていた。しかしただのクラスメイトの立場では、なかなか二人になることもできない。そうこうしているうちに、結局また放課後になってしまった。
 荷物をまとめて教室を出ていく聖也の後を追う。今日もまた一人で練習をするのかと思ったが、聖也はさっさと昇降口に向かって行った。このまま帰られてしまっては困ると、澪は急いで聖也を呼び止めた。
「中條くん!あの、ちょっと待って」
 澪の声に一応は立ち止まってくれたものの、振り向いた顔は露骨に迷惑そうで、その表情につい怯みそうになる。だけどここで引いてしまったら意味がない。
「あ、あのね。昨日のこと、ちゃんと謝りたいと思って」
「…………」
 聖也は何も答えず、近くの空き教室に入っていった。一瞬迷ったが、澪もその後に続く。
 後ろ手に戸を引いて聖也と向かい合った。いろいろと考えてきたはずなのに、いざこうなると、何から話していいか迷ってしまう。
「……あのさ」
 澪が言葉を探していると、聖也の方が先に話し始めた。何を言われるのかと、慌てて姿勢を正す。
「篠原さんがどうして僕なんかに構いたがるのか、わからないんだけど。昨日のことだって、別に篠原さんが謝ることじゃないでしょ?誰が見たって僕の八つ当たりだったし」
 そういう聖也の視線は、前と変わらず足元に落ちたまま、やっぱりこちらを見てはくれない。思えば澪はいつでも聖也を目で追っているのに、聖也と目が合ったことなんてほとんどなかった。聖也が澪のことを嫌いなだけならそれでいい。……いや、全然よくはないし、とても辛いけれど、それなら仕方ないことだ。だけど、聖也は誰に対してもそうだった。いつも俯いて、自信なさげな表情をしている。あんなにすごい才能があるのに、どうしてだろう。もっと胸を張ったっていいのに。
「……僕なんか、なんて言わないで。中條くんにとっては迷惑かもしれないけど、私は中條のことすごい人だって思うし、傷つけたかもしれないって思ったら、ちゃんと謝りたいよ」
 聖也が眉を寄せる。澪の言葉に納得がいっていないようだった。
「すごい?僕が?何でそんなことが言えるの。あんな歌、たった一回聞いただけで……」
「一回だけじゃないよ」
 聖也の言葉に被せるように否定する。得体の知れない歌声を恐ろしいと思いもした。だけど、一番初めにあの歌を聞いた瞬間、明らかに普通ではない状況さえ吹き飛んでしまうほどに心奪われたことも、澪にとっては確かな事実だ。
「中條くんは中学生の時、合唱部だったんだよね」
 澪の問いに聖也が顔を強ばらせる。澪は構わず続けた。
「動画サイトにあがってたの、見たんだ。中條くん、すごく綺麗な声だった」
 澪が言いきる前に、聖也が手近にあった椅子を引いて腰をおろした。静かな教室に、金属製の足と床が擦れる耳障りな音が響く。澪も黙って、聖也の隣の席に腰掛けた。お互いに向かい合う形に座ったまま、聖也が口を開く。
「……まあ、ネットにあがってるんだから、見られたっておかしくないよね。驚いたんじゃない?今の僕の声とは全然違うから」
 机に肘をかけて聖也が言う。色褪せたカーテンの隙間から差し込む光は未だ明るく、夏が近づきつつあることを知った。廊下を行き交う生徒達の喧騒が、どこか遠くに聞こえる。
「今はもう、あんなふうには歌えない」
 澪のそれよりも長い睫毛が伏せられる。艶やかな黒髪に、健康的なピンク色の爪。彼にとっては、きっと当たり前でささやかなそれらも、澪から見れば、どれも欲しくて仕方ないものばかりだ。
 ぽつぽつと、聖也が言葉を続ける。
「わかってたつもりだった。いつまでもあのままじゃいられないって。でも、実際こうなると、やっぱりショックだったな。リミットなんてあっという間だった。歌いたい曲も、やってみたいことも、まだたくさんあったのに……ねえ篠原さん、僕はね」
 澪の名を呼んで、聖也が顔をあげる。こんなに真っ直ぐ見つめあったのは初めてだ。長い睫毛に縁取られた瞳が、わずかに揺れる。
「僕は、篠原さんみたいな可愛い声の女の子になりたいって思ってた……ずっと」
「中條くん……」
 澪は堪らず、向かい合った聖也の膝に手を置いた。
「ねえ泣かないで、中條くん」
「……っ、泣いて、ない」
 そういって聖也が、ごまかすようにそっぽを向く。嘘ばっかり。
 見かねてブレザーのポケットに入れていたハンカチを差し出すと、聖也はそれを澪の手から毟り取って乱暴に自分の顔を拭い、そのまま突き返してきた。繊細そうな見た目に反して、結構ガサツなところもあるらしい。
 しわしわのハンカチを畳みながら考える。あの不思議な歌声のこと。何故、ただのクラスメイトでしかない澪に、幼い聖也の声が聞こえたのか。そもそも、あの声は一体なんなのか。理由も理屈も、なにも知らない。だけど、以前の聖也の歌声を知ったからこそ、今の聖也に言えることがある。
「あのね、中條くん」
「……なに」
 気まずさを隠すためか、ぶっきらぼうに聖也が答える。まだ少し目の端が赤かった。
「私ね、昔の中條くんの歌、たくさん聞いたよ。何回も何回も……だから、わかるよ。中條くんの歌は、今も全然変わってない」
「……なに、それ。どういう意味?」
 スカートの上でそろえた手を、ぐっと握る。さっき畳んだハンカチが、またしわくちゃになった。
「わかるの。歌い方の癖とか、声の出し方とか、声自体が変わってても、全部同じだって。でもさ、そんなの当たり前だよね?だって中條くんは中條くんだもん」
「……なんで、そんなこと断言できるの?今の僕の歌なんて、あの一回しか聞いたことないでしょ?」
 たしかに聖也の言う通りだ。だけど今の聖也のことなら、澪にとっては一度聞けば十分だった。わずかな言葉も声も絶対に聞き逃さないように、忘れないように、追い続けるのが当たり前になっていたから。
「だって、私は中條くんのことずっと見てたから、だからわかるの……私ね、好きなんだ。中條くんのこと」
 自分でも驚くほど、自然に言葉が溢れてきた。
 一瞬、息を呑むような間があって、聖也がもともと大きな目をさらに見開く。そんなに見開いたら、こぼれ落ちるんじゃないかと心配になってしまう。
「な、な……」
「それじゃ理由にならないかな」
 問いかけたけれど、またもや目を逸らされてしまう。だけど、今までみたいに固く拒絶するような気配はなかった。耳まで真っ赤になったその顔を見つめながら、今日だけで、どれほどたくさんの表情を見つけられたのだろうと考える。
「だからね、中條くん、忘れないで。昔のキミに戻れなくても、今の自分を好きになれなくても、今の中條くんを好きな人が、ちゃんといるってこと」
 そういって、席を立った。伝えたかったことはこれで全部。聖也がどう思ったかはわからないが、これ以上、澪が言えることはもうない。
「ごめんね、引き留めたうえに勝手なことばっかり言っちゃって。もう行くね」
「あ、篠原さ……」
「ばいばい、中條くん。また明日」
 小さく手を振って、教室を出る。聖也は後を追ってきたりはしなかった。
 校門を出る前、道の端に立ち止まって鞄に忍ばせていたヘッドホンを取り出し、そっと耳にあてる。なんとなく予感していたとおり、歌声はもう聞こえなかった。それでいい。明日になればまた、今の聖也に会えるんだから。
 明日になったら、また前みたいに「おはよう」と言おう。聖也はなんと言って返してくれるだろう。言いたいことだけ言って出てきてしまったから、勝手なやつだって嫌われたりしていないといいけれど。
 とりとめもなく考えながら、ヘッドホンを外して家路につく。暗くなり始めた空には、ひとつだけ星が瞬いていた。

 *

 次の日、教室に着いた澪は、すぐには入らず中を見回した。聖也の姿はまだないようだ。いつも早いのに珍しいな、と自分の席に向かいかけた瞬間、
「おはよう、篠原さん」
「ひゃっ?!」
 背後から突然声をかけられた。完全に油断していたせいで、間の抜けた悲鳴をあげてしまった。
「ごめん……脅かすつもりじゃなかったんだけど」
 振り向くと、廊下のまんなかに、気まずそうな顔をした聖也が立っていた。いつもと少し印象が違う。長めだった前髪を短く整え直したようだ。こころなしか顔色も以前より良く見える。
「あ……お、おはよう中條くん」
 澪から言うつもりだったのに、聖也に先を越されてしまった。ぎこちなく挨拶を返す澪に、聖也が微笑んで応える。どうしよう、そんな笑顔初めて見た。
「教室入ろうよ。ここに居たら邪魔になっちゃうし」
「あ、う、うん。そうだね」
 慌てて教室の中に入る。聖也も後に続いてきたが、澪の頭の中では、昨日の自分の発言が次々に思い出されてそれどころではなかった。昨日はなんであんなに大胆なことが言えたんだろう。そしてなぜ聖也の方はこんなに普通の態度なんだろう。あの時はただ気持ちを伝えられたらそれでいいと思っていたけれど、いざこうなるとまったく意識されていないようで、なんだか複雑だった。自分はなんて我儘なんだろう。
「ねえ、篠原さん」
 教室の隅っこで聖也に呼び止められる。まばらに集まりつつある他の生徒達は、みんな思い思いに過ごしており、こちらのことを気にする者は誰もいない。
「どうしたの、中條くん」
 肩にかけた鞄の紐を強く握りしめて、聖也に向き直る。たぶん顔には出ていないだろうけど、内心では心臓が飛び出しそうなくらい緊張していた。
「ん、あのね。昨日篠原さんに言われたこと、考えてみたんだ」
「えっ……」
 それって、まさか。
「な、中條く」
「昨日、言ってくれたでしょ?僕の歌は何も変わってない、僕は僕のままだって」
 身構えていた分、拍子抜けしてしまった。いや、もちろんそれも、というかそれこそが、聖也に伝えたかった大事なことではあるのだけど。
 残念なような安心したような、複雑な気持ちに襲われる。しかし聖也は、そんな澪に気づく様子もない。
「篠原さんの言うことにも、一理あるかもしれないなって。今でも歌うことは好きだし、あの頃続けてきたことも、なかったことになったわけじゃない……それに、今の僕だから歌える歌もあるはず、だしね」
 悪戯っぽく笑って、自分の喉に手をやった。
「正直、やっぱり今の自分の声は好きになれないけど……だけど、篠原さんが好きだって言ってくれるなら、そう悪くもないのかなって思えるようになったんだ……ありがとう」
 突然のことに完全に思考停止してしまった澪の前で、聖也が困ったように頬を掻いた。
「ていうか、あの……す、好きって、そういう意味だと思って、いいのかな……?」
 聖也の背後で、登校してきたばかりの詩穂が、こちらに意味深な視線を向けて、小さく親指を立てるのが見えた。こんな状況、なんだか少女漫画の世界みたいで現実味がない。だけど、目の前では聖也が黙って澪の返事を待っている。だったら、ちゃんと答えなきゃ。
 澪にだけ聞こえた不思議な声。彼が何を伝えたかったのか、今なら少しわかる気がした。きっと、忘れられたくなかったんだ。限られた一瞬にだけ存在できる、美しくて儚い幽霊。だけど消えてしまったわけじゃない。聖也が澪の隣にいてくれるなら、澪はあの歌声も、絶対忘れたりしないから。だから、澪の答えは当然決まっている。
 これからの澪の毎日が、ほんの少し変わっていく。色付いていく。そんな、あたたかな予感がしていた。
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中学校の旧校舎の2階と3階の間にある踊り場には、不気味な人の顔をした様なシミが浮き出ていた。それは昔いじめを苦に亡くなった生徒の怨念が浮き出たものだとされていた。いじめられている生徒がそのシミに祈りを捧げると——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

子籠もり

柚木崎 史乃
ホラー
長い間疎遠になっていた田舎の祖母から、突然連絡があった。 なんでも、祖父が亡くなったらしい。 私は、自分の故郷が嫌いだった。というのも、そこでは未だに「身籠った村の女を出産が終わるまでの間、神社に軟禁しておく」という奇妙な風習が残っているからだ。 おじいちゃん子だった私は、葬儀に参列するために仕方なく帰省した。 けれど、久々に会った祖母や従兄はどうも様子がおかしい。 奇妙な風習に囚われた村で、私が見たものは──。

怪談実話 その2

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

5A霊話

ポケっこ
ホラー
藤花小学校に七不思議が存在するという噂を聞いた5年生。その七不思議の探索に5年生が挑戦する。 初めは順調に探索を進めていったが、途中謎の少女と出会い…… 少しギャグも含む、オリジナルのホラー小説。

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

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