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王都攻めへ

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「ほぼ、メイルード王国は落ちたと言っていいでしょうね」

「唐突だな」

 トスカル平野――全力での激突戦を終えて、夜。
 俺たちはメイルード王国王都へ向けて進軍しながら、途中で野営をしていた。トスカル平野で敵軍はほぼ壊滅し、逃げた兵も散り散りになって去っていったため、王都にはほとんど兵がいないだろう、というのがレインの読みだ。
 まぁ俺としても、敵軍は少ない方がいい。

「しっかし、今回も楽な戦じゃったのぉ」

「まったくだ。つか、隊長の下にいりゃ全部楽な戦だっての」

「俺は死にそうだったすけど。隊長みたいな体力バケモンの真後ろにいるって、割ときついんすよ?」

 ナッシュ、グランド、マリオンがそれぞれそう述べる。
 とりあえず俺は、マリオンに愛の籠もったチョークスリーパーを施しておいた。言葉のあやかもしれないが、それでも人のことを化け物とか呼んじゃいけません。
 いじめ違う。これは指導。いじめとかうちの部隊ないんで。

「ただ今回、第七師団は最前線から外されます」

「そうなのか?」

「ええ。先程決まりました。隊長も会議に同席していたと思いますが」

「寝てたわ」

「だと思います」

 いや、まぁさっき、師団長と大隊長を集めた会議が開かれたわけだ。
 それで今後、メイルード王国王都を攻めるにあたってどうするか、っていう内容を話し合ったわけだ。俺が覚えているのは、同席していたアレックス師団長が、俺に対して「先の戦いは、大活躍だったな。次も頼むぞ」と言われたまでである。
 まぁ簡単に言うなら、最初から最後まで寝ていた。

「アルードの関は、隊長がほぼ一人で門扉を開きましたので、第一戦功は第七師団です。そして先のトスカル平野での戦いは、上手く後方に回り込んで包囲したアレックス師団長が評価されて、第一戦功は第六師団です」

「それ納得いかねぇな。俺たちだって後ろに回り込んだじゃねぇか」

「まぁ、調整も含めてです。既に第一戦功を一度獲得している第七師団ですので、トスカル平野は譲ってやれ、という大人の取引ですね」

「はー。面倒臭いな」

 軍に所属していて、本当に面倒だと感じるのが人間関係だ。
 実力主義だと言いながら、その実は身分によって部隊も異なるし、貴族令息が多く所属する師団は後方任務が多かったりする。あとは簡単な任務を敢えて身分の高い師団に任せて、第一戦功の数だけは一緒にしたりとか。
 まぁ、手柄の一つでも立てておかないと、実家に顔向けできないという貴族側の理由もあるらしいけど。そのおかげで、貴族家から軍に寄付金もあるらしいし。

「そして、今回の城攻めを担当するのは、第五師団です」

「最弱師団で大丈夫か?」

「敵兵は、ほぼ壊滅ですからね。余程のことがない限り、我が軍の勝利は揺るぎありません。メイルード王国は、アリオス王国以外の国とはほとんど外交関係もありませんし、援軍に来る敵国もいないでしょう」

「まぁ……それならいけるか?」

「ただ、隊長」

 第五師団。
 それは、軍の中で『最弱師団』とも呼ばれている連中だ。
 まず率いる師団長――ジュリアン・ヒューマー自身が侯爵家の令息であり、まだ二十二歳の若造だ。そして、『切り込み隊』を除く全ての兵士が、伯爵家だの子爵家だのという貴族家の令息で構成されている。
 しかも、貴族家の令息に対して厳しい訓練を行うことはなかなか難しいため、その練度はお察しだ。まともに槍も振るえない者ばかりを集めた、最弱の師団である。

「デュラン総将軍からのご命令で」

「限りなく嫌な予感しかしねぇんだが」

「ギルフォード隊長は、第五師団の『切り込み隊』に合流するように、とのことです」

「はー……」

 だよなぁ、という気持ちが半分。
 ですよねぇ、という気持ちが半分。
 まぁつまり、俺からすれば予想通りである。最弱師団だけに前線を任せるのは、他の師団長からしても不安なのだ。
 だから、俺だけ第五師団に送る。そして、俺が第五師団に派遣されている状態で功を挙げれば、それは第五師団の戦功になるのだ。

「総将軍も、俺こき使いすぎじゃねぇか? 俺は便利屋じゃねぇぞ」

「便利屋ですね」

「便利屋じゃな」

「便利屋だろ」

「便利屋っす」

「よっしゃ、伸されたい奴から前に出ろ」

 全力で否定できないのが、物凄く辛い。
 まぁ、そうだよな。一番大変な部隊に常に送られる俺って、どう考えても便利屋だもんな。なんで俺、終わったら除隊する戦争で、一番しんどい思いをしてるんだろう。

「まぁ、隊長。相変わらずの最前線ではありますが、頑張って縄を上ってください」

「もう俺縄上り確定してんのかよ」

「ちなみに、アルードの関における戦いを参照して、縄を上るのは隊長だけです。おめでとうございます」

「第五師団何やるんだよ」

 これだから貴族って嫌いだ。














 翌日。
 見えてきたメイルード王都に向けて、俺は第五師団の『切り込み隊』と共に歩いていた。
 貴族令息ばかりで構成された第五師団ではあるが、『切り込み隊』だけは話が別だ。最弱師団だからといって、敵軍に切り込む役割がないわけではない。そのため、『切り込み隊』は他の師団と同じく平民の出自で構成されている。
 だから俺からすれば、居心地のいい場所なのだが――。

「さっさと歩け! のろまどもが!」

 さっきから、後ろでそんな声が響いているのだ。
 第五師団は最弱だが、当然『切り込み隊』『遊撃隊』『弓矢隊』『戦車隊』『騎馬隊』の五つで構成されている。だが、他の師団と大きく異なるのは、『遊撃隊』と『弓矢隊』もその全軍が騎馬兵で構成されていることだ。
 当然ながら、俺たち『切り込み隊』は騎馬兵であるはずがない。そのため、後方の部隊は俺たちの行軍速度に合わせるしかないのだ。
 だからずっと、後ろから早く歩けと叱咤を受けている。

「はー……俺、第五師団初めて来たけど、いつもこんな感じなのか?」

「まぁ、そうですね。俺たちは、慣れたものです」

 俺の質問に答えるのは、第五師団『切り込み隊』隊長のドルガーだ。平民の出自であり、姓はないらしい。
 厳つい顔立ちをしているが、俺より若くまだ二十三歳らしい。そして、先程から後ろでぎゃーぎゃー叫んでいるのが、師団長のジュリアンだそうだ。

「ストレス溜まらねぇ?」

「別に、従う道理はないですからね。むしろ、後ろが苛立つようにのんびり歩いています」

 ドルガーが、そう肩をすくめながら言ってくる。
 こりゃ士気も上がるわけないわな、と思いつつ、俺ものんびり行軍することにした。時折後ろから叫び声は聞こえるけど、完全に無視である。

「しかし、俺たちは本当に縄上りをしなくていいんですかい? 余所から来た人にお任せするのは、さすがに心苦しいんですが」

「お前の優しさが、総将軍に欲しいよ」

「……はい?」

「気にするな。とりあえず、縄を打ってくれ。どうにか上るから」

 ようやく到着した、メイルード王国王都――高い城壁。
 とりあえず、俺がやるべきは。

 死なずに縄を上りきって、この戦争を終わらせて、生きて帰る。
 それだけだ。
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