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美味しい匂いだ!

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◆今回のうんちく
ゴキブリはその発達した触角と尾毛で、味と匂いを感じる事が出来ます。


◆第5話
 「美味しい匂いだ!」

 しかし、居酒屋にはいろいろな匂いが浮遊している。

 これはゴキブリになって初めて分かったことだ。ちなみに、高校2年の僕は居酒屋には2.3回しか来たことがない。家族で食事する時に来た程度で、正直、僕はファミレスの方がよかった。しかし、父親がどうしても行きたい流行の居酒屋が、郊外に出来たという事で家族で行ったのだ。確かに焼き鳥のお肉が美味しくて、母曰く「120円なの! なんて安いの!」と、興奮して食べきれないほど頼んだのを覚えている。
 大人は楽しい所なのだろう。

 そうか。
 別の店に行けばいいんだ。
 ここにずっといる必要はない。なんせ、俺は無双ゴキブリだ。

 するとどこからか、とてつもなく懐かしい匂いが漂ってきた。

 どこだ?
 ……これは……ミートソースの匂いだ!
 どこだ?

 俺の触角が右往左往して匂いの出所をさぐる。

 壁の換気扇からだ!
 いや、正確には壁と換気扇のわずかな隙間からだ!

 恐らくこの居酒屋は築年数がかなり古いのだろう。
 壁に取り付けられた換気扇は店内の空気を外に出しているが、その代わりすぐ下にある壁と換気扇の亀裂から外の空気が入ってきているのだ。

 よし。あそこから外に出る……。
 きっとすぐ横にミートソースをかけたパスタの店。あるいは洋食屋さんか?
 どちらかがあるはずだ。

 いや、俺は外に出て大丈夫なのか?
 大丈夫だ。無双だ。俺は無双ゴキブリだ。

 俺は意を決してその亀裂に向かった。

「うぉ!」

 凄い勢いで風がコチラに吹いてきている。
 ダメだ!
 飛ばされる!

 俺は必至で壁に掴みかかる。しかし、さっき舐めた油は無常に足に残っていた。

「うぁぁぁぁぁ!」

 チャバネゴキブリは飛ぶことは出来ません。
 しかし、風で飛ばされる事はあります。

 俺は厨房を飛び越え、客が注文した焼きたての鉄板餃子の上に落ちた。

 店内に悲鳴が上がった。
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