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ひょっとして無双きた?

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「飛べ! 坊主!」

 クロゴキブリのジョーが叫んでいるのが分かった。
 飛べって。さっきチャバネは飛べないって言ってたやん!

 その刹那、巨大な長靴の足が俺の頭上に降りてきた!
 凄い風が身体に当たり触角がどの方向に逃げればいいか分析するように動く。

「どうする?」

「ああ! 見てらねぇ!」
 ジョーは俺を助けようと冷蔵庫の奥から駆け出して来た。

 バンッ!

 厨房の地面が揺れた。

 ……。

 あれ……。

 意識が……ある……。俺は死んでない。耐えている。
 6本の足が床に踏ん張り、人間の足との間にわずかな隙間を作っている。
 さらに、俺の背中の羽は普通のゴキブリのそれより硬いらしい。羽の中の胸部はすべて羽に守られている。
 人間に踏まれても死なないゴキブリ……。
 人間から転生したからなのか?

 俺は無双Gだ。

「ぎゃ! まだ生きてる!」

 足を上げた30代前半の男は、解放されて少し動いた俺を見て絶叫した。
 再び男は足を振り上げた。

 今度はとっさに動くことが出来た。
 触角で感じた事を身体に反応させる事に少し慣れてきたようだった。
 すぐに男の足をかわし、業務用冷蔵庫の下に隠れた。

「クソっ! 逃げられた!」

 なかなか楽しいもんだ。思ったより素早く動ける。
 さすが足6本!
 人間の時は走るのは遅い方だったから余計楽しい。今ならアイツ(陸上部のエースで大っ嫌いな偉そうな奴)にも勝てるんじゃないだろうか。

 そうだ。あいつはどこに?
 クロゴキブリのジョー。俺より、黒くて身体もデカかった。
 俺はくるくる触角を回し、気配を探るが全く無い。

「あーあ。きったねーなぁ。潰れてるよ」

 声の方を見た俺は唖然とした。
 クロゴキブリのジョーが床でペシャンコに潰れていた。
 一瞬、吐き気を覚えた。内臓やらなんやらが出ている。

 どうして……。

 じょーは最後にこう言った。
「俺の背中に乗れ!」

 そして一つの答えに辿り着いた。

 あいつは俺を助けようと飛び込んできたのだ!
 なんて事だ……おれが殺したも同然なのだ。
 寒くもないのに震えが来た。
 ちょっと前まで生死にかかわる事など考えた事なかった。そりゃそうだろ。普通の高校2年生だ。だが、いきなり目の前で自分を助けようした者が死んだ。その情景に自分がどう反応していいのか、全くわからなかった。

「何びびってんの?」

 どこからともなく声が聞こえた。
 俺がその声の方を向くと、冷蔵庫の奥のモーター付近からひょいと顔を出す小さめのゴキブリがいた。
 俺と同じチャバネだろうか。さっきのジョーとは違う色だ。

 また新たなゴキブリだ。今度はちゃんとゴキブリらしく振舞うぞ……。
 早くもゴキブリとして対応する事を視野に入れて、俺は話し出した。

「ここは危険だ。早く安全なところに……」
 精一杯のセリフだった。

「アハハハハ! あいつはよそ者だからすぐ殺されたんだよ! そんな事も分からないの?」

 みると、俺をあざ笑うかのように次々とゴキブリたちが笑いながらモーター部分から出てきた。
 50匹はいる。すべてゴキブリだ。

 俺は気を失いそうになった。

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