108 / 173
第4章 (元)魔王と勇者の憩場に
23話4Part Wolkenkratzer Fantasie④
しおりを挟むピンポーン
......が、帝亜羅がタクシーで向かったのは自宅ではなく、別の場所であった。
「はーいっ!!あ!!帝亜羅!!こっちこっち!」
「え、あ、わ......」
ヨシダパークハイム1号棟の階段をあがり、332号室のインターホンを鳴らした。中の人が出てくる前にと、さっと目尻をぬぐう。そして、その直後にインターホンの音に反応して中から出てきたのは、黒髪に紫色の瞳の、1人の少年であった。
ウルフカット、ともとれる髪型に向かって右側の横髪をかきあげてピンで留めた、あまり見かけない頭の少年は、帝亜羅の顔を見るや否や手を引いて中に案内した。
「あ、引っ張らなくても自分で行けるよ、葵雲くん」
......御厨 葵雲。その正体は魔王軍最高火力、空天の覇者の称号を持つ異世界の大悪魔·アスモデウス。悪魔型の時にはウィズオート皇国全体を覆い尽くすほどの魔力波を放ち、1晩で160万人の命火を消すことができるほどの火力。
「あ、そーお?いてっ」
が、こっちでは不良債権だのアウトドア系ネット廃人だの言われている、元気すぎるどこか掴みどころのない16歳の男の子である。
今は現在進行形でダンボール箱に躓いて、こける寸でのところで手をついてなんとか体制を保っている。
「......葵雲、気をつけて」
立ち上がる葵雲の後ろから、葵雲......ことアスモデウスの第2人格、今現在は"みくりやの3つ子"と呼ばれている3人のうちの1人、御厨 晴瑠陽が手を差し出しつつ声をかけた。
「分かった!」
「あ、晴瑠陽くん!」
「......奈津生、調査はここまで、進んだ......」
「え、じ、情報早いね!私が頼みに来る前からやってるなんて......!」
......そう、帝亜羅がここを訪ねた理由は、超人的な頭脳を持つ晴瑠陽に梓捜索の依頼をしたかったから。
ネットのハッカー界隈でも有名な"天才ハッカー"と呼ばれている(らしい)晴瑠陽ならば、街中の監視カメラのハックなど朝飯前、頑張れば国の政府のコンピュータですらハッキングできる。
それほどの腕前ならばきっと梓の捜索の力になるだろう、そんな確信が帝亜羅の中にはあった。学校であまりにも驚きすぎて、悲しすぎて泣き崩れてしまったのは演技でもなんでもない。
梓の事を心から案じているからこそ、自宅に帰るのではなくここに来た。何もせずにはいられなかったのだ。
「......うん。昨日、丞から......望桜が聞いて、望桜から、僕が聞いたから......先に調べてた......」
「じ、情報はなにか見つかった?」
「......昨日、神戸市北区......鈴蘭台2-21のピアノ教室に、18時23分12秒、に到着して、約30分後......19時02分45秒、に、ピアノ教室からでて......ファミリアマート、新神戸駅前店の......監視カメラに、19時31分12秒に写った後に......いなくなってる」
「ここ......」
大型の固定型パソコンのモニターに映されているのは、聖ヶ丘學園や梓の通うピアノ教室がある神戸市北区鈴蘭台地区から中央区加納町新神戸の地図だ。それの横にいくつかの防犯カメラの動画が表示されていた。
私立聖ヶ丘學園のバス停のところに設置されているカメラが"1"、ピアノ教室前のカメラが"2"そこから新神戸に辿り着くまでの監視カメラ、合計で400台近くのものにそれぞれ番振りされている。
晴瑠陽は"2"と番振りされた監視カメラの映像と位置を指示し、その次に同じように、今度は梓が消えたところを撮していた監視カメラ"385"から"392"までの映像と位置を指さした。
"385"から"392"の監視カメラのうち、"388"から"392"はファミリアマート新神戸駅前店と、とある場所の間の道路を高い位置から広範囲に渡って5方向から撮すものであった。
そして、その映像に映っている場所は......
「......私の、家......?」
......神戸市中央区加納町の新神戸駅の近くにある、帝亜羅の自宅の前の通り。
新神戸駅前店のファミリアマートが道路を挟んで向かいにある帝亜羅の自宅の、道路を撮した監視カメラの映像では、5つ全てに梓がまっすぐに帝亜羅の自宅に走ってきているところが映っていた。
ところが、帝亜羅の家がある方から撮っている"391"と"392"のカメラからは、ファミリアマート新神戸駅前店道路沿いに停めてあった車の影に入った直後、梓の姿はどこにもなくなってしまっているように撮されていた。
一方で、"388"と"389"と"390"のファミリアマート側から撮っているカメラからは、車の前を横切ろうとした瞬間に忽然と姿を消してしまったように見える。
......梓がいなくなる瞬間の映像は、見ているだけで帝亜羅の胸をじくじくと痛ませた。
「......どういうこと?梓ちゃん、うちに来ようとしてたの......?」
「......多分、梓も何かを......感じ取って、自宅より、近い奈津生の......家に、来よう、としてたんだと......思う......」
「......梓ちゃん......」
......友達が、どこまでも明るくて怖いもの知らずな親友が、いざ危ない目に会いそうになった時、咄嗟に自分を頼ろうとしてくれていた。
その事実が帝亜羅にとっては嬉しいようで、胸を押しつぶすほどの重圧だった。
......高校に入ってから知り合った、私にとって唯一無二の親友。そんな親友が、二度と帰って来なくてもいいの?
帝亜羅の中で、ふつふつと"どうしようもない怒り"が湧き始めていた。
「......で、奈津生、今の動画で......気づいて欲しい、ことがある......」
「......え?」
「......これ、日本の一般、常識界どころか......科学的にも、ありえない......移動の仕方と、拐われ方、してる......」
「......え、そう?んーと............」
晴瑠陽からの指摘を受けて、じっと考え込んでみる。
......マップ等で出てくる道順だと、聖ヶ丘學園のある鈴蘭台から帝亜羅の家がある新神戸駅前まではおよそ9.6km、車で20分ほど要する。もちろん、徒歩だともっとかかる。
そして、梓の通うピアノ教室があるのも鈴蘭台。マップによると北鈴蘭台にある事になっている。そうなると、鈴蘭台よりも遠いという事になるし、それに比例して所要時間も増える計算になる。
そして例のあの時間の監視カメラには梓の両親や親戚、さらには帝亜羅の母親の車も写っていない。それ+、偶然かタクシーやバス等の姿も写っていなかった。
つまり、梓は全て徒歩で移動している。徒歩ならば、北鈴蘭台から新神戸までは2時間ほどかかる。
梓が北鈴蘭台のピアノ教室を出たのが19時2分、そして帝亜羅の家の前を撮した"388"から"392"の監視カメラに映ったのが19時31分。ということは、北鈴蘭台から新神戸の帝亜羅の自宅まで、徒歩で30分で移動した......?
「......あ、車を使わないと無理な距離、なのに......梓ちゃんは"徒歩"で家まで移動した、それも......さ、30分で!?そんなの絶対無理だよ!!」
......そう、30で北鈴蘭台から新神戸までの移動は、"日本の一般常識界どころか科学的にも絶対無理"なのだ。
「......それも、だけど......あと1つ、ある......」
それに気づいて声を上げた帝亜羅に、晴瑠陽の指摘はまだ続く。
「......あ、」
──『一方で、"388"と"389"と"390"のファミリアマート側から撮っているカメラからは、車の前を横切ろうとした瞬間に忽然と姿を消してしまったように見える。』
「......一瞬で、姿を消した?」
「......そう、どう考えても......おかしい、よね......?」
「本当だ!!気づかなかった!!」
「......気づいて......なかったの、不思議......」
「あ、確かに......そういうとこ、私鈍いんだよね......」
「......そう」
帝亜羅のどうでもいい新発見に、晴瑠陽はいつもと何ら変わらぬ相槌を打った。
「......で、さっきまでの、ことを踏まえると......」
そして、その直後にパソコンの方に向き直り、指でモニターをつーっとなぞった。
袖からちらと覗く葵雲とは色が全く違う白い細い指は、ある1箇所の施設を指し示した。
「......異世界の、政府の奴らの、仕業......って、ことになる......」
そうぼそりと静かに、しかし何かを決定づける大事な台詞にぴったりな強さを兼ね備えたまま呟いた。
─────────────To Be Continued──────────────
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる